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修行編 第56話 神との対面 その4(82)


「う~ん、プロで修行で来ている若いスタッフと違って、どちらかと言えば本当の素人が相手だから教え方も変えていかないと」この日の夜、健一は悩みながら”居酒屋 源次”で飲みはじめた。

「今日は酔ってるね。健一君なら大丈夫だよ。今度は校長なんだろ。

凄いね、まるで出世頭だな。とにかく悩まずに好きなようにやらないと損だよ」

「いやあ、源さん。こういうのはサラリーマンと一緒だね。駐在員の気持ちが分かるような」ほろ酔い気分の健一がついつい城山源次郎に絡みかける。

すると健一と源次郎の会話を入口で聞いていたのか、天田が入ってくるなりいきなり大声をだした。

「大畑君!君は駐在員の気持ちがわかるといったな。甘いよ!君は恵まれすぎている!!」

「あっ、天田さんすみません。本当の駐在員の方に聞かれちゃった」一気に酔いが冷め、耳たぶの後ろに一筋の汗がにじみ出る健一。

「まあいい。解ってくれれば」と言い放つと、天田はカウンターでウイスキーを呷る。

「いや、天田さん健一君が今後、料理学校の校長をやるんだって。8月開校とかで原澤さんと組むそうだよ」

天田は、静かにタバコを一吹かしする。

「そうか、なら我々のような企業戦士を陰で支える奥様方をターゲットにするのもおもしろいなあ。私は独身の身だが、部下の日本人の多くは妻子と一緒にこのバンコクの地に来ているので、奥様方は暇をもてあそんでいるんだ。

実は、バンコクでは英語の料理教室がほとんどで、それらの奥様方の中には、あまり英語は得意ではないのもいるらしい。

そのためなかなか通う事も出来ないらしいんだ」

やや自分の世界に入る事の多い、天田の言う事はどこまで本気なのかはわからない。

だが健一には面白いヒントとなった。


3日後の火曜日、週に一度のモンディ師に付き従う日。

健一は、先日天田に言われた事を相談する。

「いいじゃないの?私は日本人社会の事はそれほど詳しくは知らないけど、原澤と日本人同士で料理学校を始めるのですから、日本人の奥様方に門戸を開く事は素晴らしいと思うわね」

モンディの了解も得たので、健一は具体的に話を原澤にする事を決めるのだった。


「大畑、それより大事な話」モンディの目つきが真剣になった。

「本日を持って、毎週火曜日に私の所に来るのは最後にします。あなたは良く頑張りました。

一番心配していた格式高いところでも緊張することなく、立派な料理が出せるようになりました。もう私がこれ以上細かい指示を出す必要はなくなったわ。一人前のタイ料理シェフとして料理学校のほうを頑張りなさい」


モンディから完全に一人前として認められた健一は、全身に電気のようなものを感じた。

「あ、ありがとうございます」と思わず早口になってしまった。

「ただ、あと一日今度の日曜日だけお付き合いしてもらいます。あなたに我が師シーダマンに会わせたいと思うからです。

「シーダマン!」健一はこの名前を聞くと、タイに来てからの様々な出来事が、脳理に浮かんだ。最初にサイアムプラスの若者にバカにされた時に始めて聞いて、何も知らずに当時指導を受けていたたサパトラ講師を疑って飛び出した事。

チェンマイで初めてお会いした師匠モンディに対しても最初疑いの目を持ってしまった事。

いずれもこの名前を聞いてことであったが、

まさか自分がタイ料理界の神様と言われているその人と面会する日が来るとは思っていなかったので、健一は再び緊張し始めた。


「師匠は、この国でも非常に高位にいらっしゃいますので、当日は、一応可能な限りの正装で、また厨房に入る可能性もありますのでその用意も」事務的に話すモンディの横で健一はどんどん緊張の度合いが膨れてくるのだった。

「神と面会するのか!」健一は家に戻っても、喜びと緊張が錯綜する複雑な気持ちのまま時だけが流れるのだった。


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