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修行編 第52話 バンコクで待つ新たな修行の日々 その6(78)


「ああ、いやよかったね。祝福するよ」いち早く冷静さを取り戻した源次郎が声をかける。

「で、レストランで働くの?」先ほど返答の無かった質問を再度行う源次郎に、原澤は左手で否定の合図を行った。

「いえ、私には小さな野望があります。それはこの地で、カルチャーセンターを作ること。婚約者の登美子の芸術作品をもっと活用したい。

このバンコクを選んだのはそれもあったのです。彼女の絵画教室と、

私の料理教室をこの地で開き、在住の日本人の方や旅人の皆さんのオアシスとしてやっていきたいと思っています。


サパトラ先生やモンディ校長にもその話しをしましたところ、非常に好意的に見てくれまして、設立の目処が立ってきました。

落ち着けば、彫刻や陶芸、ダンスなど幅広く取り入れて行きたいと思います」


しばらく、静かに聞き入っていた、健一と吉野と源次郎であったが、「よし、わかった今宵は原澤さんのお祝いとしようか。俺が一杯奢るよ」

と言うと源次郎が、冷蔵庫から秘蔵の大吟醸酒を取り出してきた。人数分のグラスに日本酒を入れ終わると、「原澤さんの前途を祝してカンパーイ」と源次郎が大声をあげたが、その瞬間。

『オイ!2人入れるか!!』と爆音のような怒鳴り声が響き渡った。


全員が入口の方向を向くと、普通の服装をしながらも、闘気みなぎる本松親子の姿がそこにあった。

「あっ本松さん。まさかこんなところへ!」驚いたものの嬉しさも同時に溢れる健一。

「おう、大畑君、今日は酒のせいか、やけに嬉しそうだなあ」と、親・友和が言いながら、息子・和武と2人で勝手にあいているカウンター席に座った。

「紹介します。いつもチャオプラヤー川で訓練されている本松親子さんです。息子の和武さんは、ムエタイの選手なんですよ」健一が紹介する。


「和武!えあの本松和武選手なの?

店の営業やってるから、試合は見たこと無いけど、お客さんからは噂をよく耳にしているよ」

先ほどの怒声で思わず包丁を向けてしまったのを慌てて隠す源次郎。


「ありがとうございます。私は、小さい時から大畑さんとチャオプラヤー川のほとりで何度かお会いし、訓練をしながらいつも元気を貰っておりました。

その時必ずこの“源次”の店の話題をしてくださり、一度来て見たかったのですが、

トレーニングで忙しかったので、中々来れませんでした。今夜やっと父の許しを経て、ここに来る事が出来ました」

和武はそう言うと、席を立ち、全員の方向に向いて一礼する。


「いや、ようこそ。本松さんのことは私も知っています。差し支えなければ一枚撮っていいですか?」

吉野がカメラを本松親子に向ける。

健一は「こりゃ怒鳴られる」と少し焦ったが、本松友和も和武も決して怒鳴らず、むしろ笑顔になり「いいだろう、うまく撮れよ」と了解するのだった。

「それじゃあ、本松さんにもこの日本酒一杯奢るよ」と源次郎はそのままコップを2つ用意して、勝手に日本酒を注ぎだす。

本松友和と和武は黙ってそれを受け取ると。

『よっしゃ!では、カンパーイ!!』と友和の怒声が鳴り響き、みんな慌ててグラスを上げる。

「え?いや、何かありましたん?」

入口で恐る恐る入ってきたのはオーケン土山。

その動きを見た瞬間、店内は大爆笑の渦に巻き込まれた。



「千恵子、君が居なくなってから、こんな楽しい日々は初めてだよ。素晴らしい師匠の下で、修行が出来るばかりで無く、周りにいい仲間にめぐり合えたし、このままバンコクで永住しようかな」

家に戻った健一は、いつもより酒の量が多かったのか、ベットに入ると、いつもより大声で独り言をつぶやいた。

「ああ、今度いつ夢に現れるかわからないけど、多分気持ちはわかってくれるだろう」

修行中ながらも今の生活に非常に満足であることを、千恵子に訴えながら眠りに付くのだった。


2,3日経過して、千恵子が夢に現れた。

健一に向かって背中しか見せずにまっすぐ歩く。

大声で呼びながら健一が付いていくと目の前で子供が千恵子に近づき、千恵子が抱きかかえると、ようやく健一のほうを向いた。

抱きかかえていたのは息子の泰男であった。


その瞬間目が開いた。

「あっ、そうだ泰男を日本に残したままだったんだ、このまま永住とか考えてごめんなさい」

健一は、一人で頭を抱えながら謝るのだった。


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