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修行編 第48話 バンコクで待つ新たな修行の日々 その2(75)


8月、チェンマイから社長のウイチャイが店に来て、健一を呼んだ。

「大畑、どうだバンコクでの仕事は」「社長の言われたとおり、若者の指導は日々行っています。

みんな外国人である私の言う事をきっちり聞いてくれるのが非常に嬉しいですね。

さらに、日本の新メニューも好評で、日・タイ双方のお客様の好評を得ております」

日々楽しく表情も元気な健一。

「そうか!で大畑、実は今月から、毎週店とは別の所に言って欲しいんだ」

「あっそれは、前から気になりました。店に入る勤務日が今月から週5日に減っていましたので、いったい私は何を?」

「それは、今から行くからついて来なさい」

ウイチャイに言われ、健一はウイチャイと共に車に乗り込み店を後にする。少し渋滞に巻き込まれたものの、20分弱で現地に到着。

だが、車を降りたその時健一は、2年前の悪夢を思い出してしまった。


「こっここは、サパーイ料理学校!!」

健一が、サイアムプラスに居た時に、資格を取る事が出来れば、良いレストランに就職できるかもと思って、資格を取る直前まで通いつめた学校。

しかし、サイアムプラスの新人の会話を聞いて、怒った健一がそのまま逃げるようにバンコクを後にし、何の連絡もしないまま放置していたのであった。


何も知らないウイチャイは、そのまま中に入って行ったので、健一は耳元で心臓の鼓動が聞こえるのを感じながら、恐る恐る中に入っていく。


中には、モンディ師が立っていた。

「おお、大畑久しぶりだな。さっ中へ」

チェンマイでパッタイの指導を受け続けたモンディ師が居る事で、健一はさらに緊張の度合いが広がり、手に震えを感じ、目の前までがややぼやけて見えるようにまで固まっているのだった。


応接室のようなところに入り、席にウイチャイと一緒に座る健一。

「実はな、大畑。このモンディ先生が、どうしてもお前を弟子にして育てたいというのでな、

週一回ここに通って弟子として勉強をして欲しいのだ。

チェンマイでも毎日あれだけ努力しているお前は、もっと腕が上がるはずだ。

頑張れ!もちろん給与の事は心配するな。

ある意味業務扱いなので、週6日働いたと計算する」

「外国人なのに、タイ語がうまくてその上、熱心なあなたをもっと育ててやりたいと思ったのよ。

ちょっと厳しくやるけど、あなたならついてこれると思うから、頑張りなさいね」とモンディが笑顔で説明する。


さっきまで全く予想だにしなかった動きに、健一の振るえが納まらず。

「あああっはい!突然の事でびっくりです。

すすすみません。あっありがとうございます」

余りにも緊張が激しい健一に、2人は大笑い「ハハハハアハ。いやすまなかった。詳しく説明しなかったな」

「うーん、そこが問題ね。あなた上がり症だから、まずそこを治さないといけないわね」

その時、ドアを叩く音と同時に、冷たいお茶を持ってきた人物を見て、健一はさらに慌てふためく。

その人物こそこの学校で指導を受けた講師サパトラであったからだ。


「あああっ先生!御無沙汰しております。何も言わずに消えてすみません」

「ああ!あなただったの?」サパトラも驚きの余り、お茶をこぼしかける。

「サパトラ、大畑を知っているのか?」

「ええ、校長。彼は以前、少しお話した日本人。資格を取る試験のところまで来たのですが、

突然居なくなって・・・で、後日天田さんと言う日本人の方にチェンマイにいると聞いて安心しておりました。が、ただ」

「ただ、何じゃ」「その時に聞いた話しでは、“サイアムプラス”と言う店の若者がシーダマン一門は外国人を排除するなどと、勝手な事をほざいた事が原因だと」

「何じゃと!」

モンディの声が突然怒りに変った。

「誰がそんな事を・・・。それで、大畑お前はやたらと外国人であることを気にしていたのか」


健一は、2人のやり取りを聞きながら、突然立ち上がると「ああはい、申し訳ございません。

私の早とちりで、この学校で、仮に資格が取れてもシーダマン一門は、約束を守らずに、日本人から金だけ取られるだけと思い、

そのまま列車に乗って逃げてしまいました。

一門のモンディ大先生とお会いでき、今日のような、弟子として直接教えてくださる話までしていただいたのに、私のおろかな勘違いで

サパトラ先生にご迷惑を・・・どうぞお許しください」

と大声で叫ぶように言い切ると、しゃがみこんで土下座をするのだった。


「おい、大畑!それは “ドゲザ”と言うやつか、誰も怒っていない。とにかくここに座れ」

ウイチャイが、健一を抱きかかえる。


モンディ師も、健一の誤解を丁寧に説明する。

「大畑、お前が悪いのではない。一門を取り仕切るものとして、そのような出まかせがあったとは知らなかった。謝るのはこっちのほうだ。

シーダマン一門は決して外国人を排除しない。私も含めた大師の直弟子14人の中には外国人が2人いる。

英国人とオーストラリア人だ。彼らは今本国でがんばっているのよ」


「そうです。このサパーン料理学校は、このモンディ校長の学校で、校長の意向もあり、熱心な外国人を積極的に指導しているのよ。

私も英語のテキストを使って今まで多くの外国人に資格を取ってもらったわ。


校長とはチェンマイで会ったそうだからわかるけど指導のために多忙で、

タイ全国を飛び回っているし、バンコクにいるときでも市内各所のレストランの指導に回られているから、ここにいるのは週に2日ほど。

ちょうど、あなたが習いに来ていたときには校長が不在だった時ばかりだったのよ。


でもあなたのような熱心な人は珍しかったから、試験の時に校長に紹介しようと楽しみにしていたら、急にいなくなった時にはびっくりしたわ。

事故にでも巻き込まれたのかと本当に心配だったけど、チェンマイで働いていると聞いたときには安心したわ。

でも、いつの間にか校長のお気に入りだなんて!あなたは本当にスゴイ人ね。私も嬉しいわ」


講師サパトラは、知らない間に健一が、立派になったことに自分のことのように喜ぶのだった。


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