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修行編 第46話 バンコクへ凱旋 その4(73)


それは、“居酒屋 源次”

健一が最後にこのお店に行った時には、まだ下松ファミリーの陰謀のことは知らず、

地方に行く予定も無かったので、

直接挨拶せずにファランボーンの駅で電話で簡単に挨拶をしたまま旅立ってしまった。


そのため非常に気になっていた。途中、青木貿易の中堀幸治やアーム二村らが、この店に立ち寄って、

健一の近況を伝えてくれたとはいえ、やはり直接会うとなれば、いやがおうにも緊張が走る。


店の前で一旦深呼吸をして、源次の入り口の戸を開けた。「いらっしゃい」と源次郎の声。

「源さん、お久しぶりです。大畑健一です」

「おー健一君!お帰りなさい。さっ中へ入って」健一がバンコクに戻ってくる話は、

国沢が事前に伝えていたので、みんな健一が来るのを首を長くして待っていた。


店内には城山源次郎をはじめ、天田弘久にオーケン土山の姿もあった。

「申し訳ないです。おかしな別れ方をして、ちょっとあの時余りにも辛くて・・・」

右手で頭を抱えながら健一が謝ると源次郎は手を左右に振りながら、

「いや、最初何かあったのかなあと思って心配してたけど、中堀さんや二村君とかが、

君の近況を教えてくれたから安心してたよ。

でも、こうやってバンコクに戻ってきてくれたので俺嬉しいよ!」

健一が笑顔になりながら、

「いえ、皆さんには大変ご心配をおかけしました。

ご存知だとは思いますが、今度は青木さんの会社からの派遣という形で、

ちゃんとしたレストランで働く事になりました。これからこちらにもよく顔を出すと思いますが、

どうぞよろしくお願いします」


「まあまあ、堅い挨拶は抜きにして、一杯おごるよ。はい、グラスをどうぞ」

普段は、冷静さを保つ天田が、この日は珍しく、気持ちがやや高揚していた。

「あっ、ありがとうございます。途中から国沢さんがチェンマイに来てくれたので、

天田さんもすぐ隣にいるようで楽しかったですよ。これらもよろしくお願いします」


「国沢さんも、君がいたおかげでどうにかチェンマイの生活も慣れたようなんだ。

そう言う意味でもありがとう」

健一のグラスにビールを注ぎながら、礼を言う天田であった。


「天田さん、会社の接待やおまへんのやから、もっと楽しくいきましょう。

では、大畑健一君のバンコク凱旋を祝してカンパーイ」

オーケン土山の号令と共にいっせいに乾杯をした。

「プハーいや、大畑君の顔を見て飲むビールはいつも以上に『うまい!』」

「あっ二村さんにはチェンマイでお世話になりました。“アーム”の名づけ親が

オーケンさんだったとか」

「あいつ!余計な事ばかり言うなあ」と言いながらも上機嫌のオーケン土山。

「でもうまい具合に、大畑君とこの店に

入り込んで中々頭のええやつや。つき合い悪いけど」

「あの人はお酒飲めないから仕方ないですよ」健一がフォローする。

「で、チェンマイの生活はどうだったの?」

源次郎の問いに、健一はバンコクを飛び出してからの経緯を話し始めた。


源次郎はどんどん真顔になり、「いろいろ大変だったね。

だけどその下松って野郎は酷いやつだね。でも結果的にタイで、

本格的な修行が出来てよかったじゃない。で、これからはバンコクで働くんだよね」

「そう、だからまたこうして源さんの顔を時々見に来るからね」

源次郎は、少し赤くなった目をパチパチさせはじめながら、

「嬉しいじゃない。俺ももう年だし、そろそろ引退も考えようと思ったけど、

健一君が戻ってきたからもう少しがんばるよ」

健一が大きな声で、「源さん!まだ若いですよ。引退は早すぎます。

でないと僕のバンコクでの居場所がなくなってしまいますよ」

「大人しく聞いてたら何をいうてはるんですか?それされたら、僕の行く所『ありませんやん!』」

「オーケンさんの言うとおりですよ。私たちだけでなく、この灼熱のバンコクの地に来る

日本の企業戦士たちは、日々の文化・風習の違いに苦悩しながら、

ひと時のオアシスを求めてここへやって来る。そう軽々しく引退を口にしてはいけません」


そう言うと、源次郎に自ら頼んで、持ち込んだスコッチウィスキーをグラスに注ぎ、

その香りをゆっくりと目を閉じて鼻で嗅ぎながら、自分の世界に入りこむ天田。


「ぐっ、みんなありがとうよ」源次郎は涙を流すのをこらえながら、

「ちくしょう!俺も年を取ったなあ。涙もろくなってりゃ」

目の前で見ていた健一も、もらい泣きをしそうになり、顔をしわくちゃにしていた。


「やっぱり、今日は俺のおごりだ、再開を祝おう。実はな」涙を拭き終えた源次郎は、

嬉しそうに冷蔵庫から一本の日本酒を取り出した。

「こりゃ大吟醸のお酒だ。いや青木さんの後から来たあの関西訛りの中堀さんになってから、

日本の物が手に入りやすくなってよう。

今じゃこんな高級な酒も入手できるようになったんだよ」


健一は、チェンマイでも中堀の仕事の効果を直接感じていたが、こんなところでも、

実際の成果を見て、改めて中堀のすごさを感じつつ、

自分のことのように嬉しくなるのだった。

「じゃあ、僕はあまり日本酒は飲まないけど、今日は頂きます」

「そうか、じゃあもう一度健一君の久しぶりの再会を祝って改めて乾杯!」

「乾杯!」源次のカウンターに居並ぶ常連たちは、笑顔で酒を飲みながら夜遅くまで楽しむのだった」

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