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修行編 第45話 バンコクへ凱旋 その3(72)


「バンコクか~懐かしいな。あの時勢いで列車に乗り込んでもう2年。途中ノンカーイで中堀さんと出会えた事が縁で、今こうしてタイ料理のシェフとして堂々とバンコクに凱旋できる」健一は、懐かしさがどんどん込上げてくるのだった。


だが、その一方で、出発の日が近づいてくると逆にチェンマイを離れる事への寂しさが健一を襲ってくるのだった。


出発の前日。

健一は国沢とアーム二村と一緒に、武士王で送別の席を設けた。

こういう“日本的”な付き合いを最も嫌うアーム二村も、この日ばかりは出席し、健一との別れを惜しんだ。

「サイアムプラスへの怒りからバンコクを飛び出して2年。ここチェンマイには1年半ほどいましたが、本当に良い料理修行が出来、

ここの店主である、大塚さんやモンディ先生といった料理の師匠とも出会い、夢に大きく前進することができました。

また、国沢さんや二村さんのような、素晴らしい方々ともお会いできた事も非常に嬉しく、私は明日このチェンマイを発ちますが、皆さんのことは決して忘れません。

また、どこかでお会いしましょう」

健一は、やや目から水が溢れてくるのを抑えようとした。

「二村さん。私の代わりにチェンマイに来る日本人のお客さんに料理の事を伝えてください。国沢さん、一緒に飲むのは今日がとりあえず最後ですが、またどこかで」

国沢は、寂しさの余りいつもより酒が進み、「大畑さん、バンコクでも頑張ってください。

天田技師長がいますので、源次さんで楽しんでください」言いながら、涙を隠さず流しだした。

「国沢さん。一人でも飲みに来ればいいじゃないですか。店が暇なときは私がいつでも相手してあげますよ。それから大畑君、バンコクでもがんばれよ。

タイ料理がメインだということはわかっているが、日本料理もできるだけ作ってくれ」

大塚のねぎらいの言葉に、「ありがとうございます。バンコクでも私はあくまで日本料理担当ですから」

と立ち上がって頭を下げながら礼を言う健一。その横で国沢もうなずくが

表情はやはり寂しそう。

その後、国沢の酒はさらに進み最後は眠ってしまった。


対照的に酒が飲めないアーム二村は冷静さを保っていたが、やはり寂しそうなのは同じ。

健一は、前から気になっていた質問をぶつけた。「アームと言うのはどういう意味ですか?」アーム二村は笑いながら、

「やっぱり気になりますね。これはもともと“アウン”だったんです。よく神社やお寺で入口の門の両サイドにいる像を見ると、

対照的に“あ”と口を開いているのと“ん”と口を閉ざしているのがいるんですよ。


それをヒントに取ったんですが、“アウン”というのが響きが悪いと、先輩のオーケンさんに言われて、彼に“アーム”にしろと言われたんですよ。

まあ、どうでもいい話ですけどね」と一通り説明すると、大きなメガネをかけ直すのだった。



出発の日、健一はターベチェンマイ本店のスタッフを始め、青木貿易のチェンマイ事務所のスタッフに別れの挨拶をした。

健一は、ここチェンマイでも皆から、“親しみのある外国人”と人気が高く、会う人会う人別れるのが寂しそうで、

やはりここでも泣き出すスタッフがいるのだった。


中堀はこの時にチェンマイにはいなかったが、バンコクに行けばまた会えるとの期待が健一にあった。


列車の時間まで少しあったので、チェンマイで最初に働いた、市場で屋台をやっているディナにも別れの挨拶を兼ねて、ご飯を食べにいった。

ディナも、もう会えないとわかると急に寂しそうに、今にも泣き出しそうな顔になった。

健一は、励ます意味をこめて「また必ず戻ってきます」と握手するのだったが、健一も去り際に思わず目に涙を浮かべてしまうのだった。


健一が、「悲しくなるから」と駅での見送りを断り、一人で乗り込んだ列車は、

始発駅でもあるチェンマイ駅をゆっくりと走り出した。


列車の中で健一は、バンコクから半ば逃げるように列車に乗り込んだ日のことから、

今までの日々を必死で思い出しながら懐かしんだ。


わけもわからず到着した。東北の町ノンカーイで田中一郎にあって、ムーガタ鍋の手伝いをしながらメコン川を眺め、

やがて中堀に導かれるようにチェンマイへ。

市場の屋台の手伝いや、武士王での研修を経て、ターベチェンマイで修行をしながら、日本料理の指導をしたり、

日本人のお客さんの相手をしたり、大先生の指導を受けたり・・・・・。


こうして、2年の月日は、毎日変化のある楽しい日々であったことを振り返ると、

自然に目の前が自ら湧き出る水によって曇っていくのだった。


やがて、列車のゆれがやけに気持ちよく、眠りについた健一。

このときは特に夢を見なかった。

目が覚めると、出発してから十数時間たったのだろうか?

車窓の風景が、どんどん都会になって行く。


いよいよバンコクが近づいてきたのを肌で感じるのだった。そして、バンコク中央駅(ファランボーン駅)に到着。

駅にを見渡しながら、行きとは違う、堂々と“凱旋”としての到着に胸を張るのだった。


健一のバンコクでの赴任先は、国立競技場が近くにある“サイアム”と言うエリア。

目の前の大通りには、年々ひどくなっているバンコクの渋滞を解消する目的で、

99年完成を目指している新交通の建設が始まっているのだった。


健一は、到着後すぐに、赴任先であるターベチェンマイのバンコクサイアム店の店長に挨拶を交わした後、新しい住まい(寮)を案内してもらい、荷物を置くと、休む間もなくある場所に向かうのだった。



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