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修行編 第42話 師匠との出会い その6(69)


アーム二村が、ターベチェンマイにやってきて半月ほどたった後、

バンコクから国沢紀晶が、チェンマイ赴任として、やってきた。


2人は再会を祝し、次の健一の休みの日を利用して、チェンマイの観光に出かけるのだった。

「いや、あ、大畑さん。バンコクと違ってここはのどかですね」

「ええ、私もここに来て1年あまり。バンコクの源さんや天田さんらと会えないのが少し寂しいのですが、アーム二村さんに続いて、国沢さんもこのチェンマイに来てくださって、少しずつ楽しくなってきました。

実は、ここに来る前に少しだけ滞在した国境の町ノンカーイなんかは、もっと寂しかったんですよ」


そう言いながら健一は、以前、タイ仏教を研究している井本幸男から、バンコクとの様式が微妙に違うと教えてもらった、チェンマイ様式の有名なワットの光り輝く仏塔を見つめて、なんともいえない嬉しさが目の表情にもにじみ出ているのだった。


「はあ、そうですか。いや私も大畑さんがいるので、安心です。チェンマイはもっと田舎だと思いましたが、意外と都会で過ごしやすいですね」上司の天田がいないためか、小声ながらもなぜかストレスも無く、元気にしゃべる国沢の姿。

「大企業のサラリーマンって、上下関係とか凄く大変そう」と感じる健一であった。



夕方、旧市街への入口“ターベー門”に戻って来た2人は、今でも立派に城壁の役目を果たしているかのような、立派なレンガで出来た門に向かって大きな声で、気合を入れている2人を発見した。

「日本人のようですよ。掛け声が日本語のようですし、それに日本の柔道衣のようなものを着ていますよ」と言いながら国沢が指を刺した。

健一はその瞬間。「まさか!」とひらめき、近づくとやはり健一の思ったとおりであった。


それは、チャオプラヤー川のほとりでいつも気合を入れた訓練をしている本松親子の姿であった。

しばらく、国沢と2人で気合の様子を見ていると、気が付いたのか、『おい!見ているのは誰だ!!』とやや白髪が混じり始めている、父・友和の怒声が響き渡った。

国沢はもちろんの事、近くで歩いているタイ人たちも驚きの表情で、視線を向けてきた。

「本松さん。お久しぶり大畑です」一人慣れているのか冷静さを保っていた健一が声をかける。

「お~大畑君か!こんなところでも会うとは!元気そうで何よりじゃ」相変わらず声が大きいものの、先ほどの怒声とは違う。

「和武です大畑さん。私ついにデビューが決まりましたよ」 「えっムエタイの試合に出るんですか?」「そうです。父とタイ国内をくまなく回り、ここチェンマイが最後の地。12月バンコクでの試合に出ます」


「ええっムエタイに日本人が出るんですか?あれ結構過激ですけど大丈夫ですか?」

国沢の余計な一言に、健一が慌ててフォローしようとするものの、それより早く、

友和の怒声が再び響き渡った。

『無礼者!誰に物を言っている。貴様!俺たちがそんなに弱く見えるのか!』


国沢の動揺がいつも以上に激しく「ああっいえ、そんなつもりでは、あっすみません。ごめんなさい」

大汗をかきながらオロオロ頭を下げ続ける国沢。「友和さん。この国沢さんはチェンマイに来たばかりで、まだ緊張しているもので、全くおかしなことを口走ってしまいました。

今の発言の無礼の件は、こちらに非があります。すみませんでした」と健一も頭を下げて謝罪した。

「いや、わかればそれでよし。気にするな」

友和の怒りは、武道家らしくあっさりと収まった。

「試合、頑張ってください!私たちはチェンマイで働いているので、見ることは出来ませんが、

ぜひ日本人の力をタイ人に見せ付けてください」

「大畑さん。ありがとう。今から戦う事が楽しみです。でわ私たちは訓練の続きを行いますので、

またどこかで」と和武が言うと、再び気合の入った訓練が行われるのだった。


「和武君。もうすぐ夢の実現だなあ。俺も頑張らないとなあ」健一は、心の中で気合を入れるのだった。


それから3ヶ月。本松和武は、ムエタイ選手としてデビュー戦を見事に勝利し、父・友和ともども嬉しさのあまり、涙を流しながら雄たけびを上げていた。


だが、その一方で日本でも別の件で、涙を流しながら泣き叫んでいる女性がいた。

レストラン閉店後、マッサージ店を細々と行っていた下松親子。だが、息子和伸の失踪に続き、夫和夫の自殺ですっかり気力をなくしていたウドムは、しばらく病気がちになっていたが、ついに死の床についてしまった。


残されたのは、和美ただ一人。

「母さん!なんで私一人にしてそんなに早く父さんの所に行くの。ううっ・・。

これもすべて、バカ兄和伸と途中で逃げた大畑健一のせいだわ。いつか必ず復習してやる!」


この時、下松和美の健一への逆恨みが始まるのだった。


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