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修行編 第39話 師匠との出会い その3(66)


こうして、日々の作業と、努力を積み重ねていった健一は、スタッフのみんなに好意を持たれていき、この年の雨期を迎えた頃には、一人前の料理人として扱われるようになった。

また、この頃からバンコクで習った料理の一部は、健一に任される場合も多く、健一は活き活きとした毎日を送ることが出来るのだった。


健一が、チェンマイで日々の修行を積んでいる頃、日本では健一の学生時代からの同期である井本は助教授(准教授)になり、世間では、無名の著者によるインドシナ半島の料理本がベストセラーになっているのだった。



8月のある日、日本の夏休みの期間に入ったためか、ターベチェンマイにも日本人観光客の姿をよく見るようになっていた。

それらの観光客とターベチェンマイの従業員とのコミュニケーションがうまく行かないので、

必ずと言っていいほど日本語が当然わかる健一が呼び出されるようになっていた。


この日も、ホールから健一に来てもらうよう依頼を受け、健一がやってくると、どこかで見たことのある目鼻立ちのハッキリした男性客1人と女性客2人が座っていた。

「いらっしゃいませ」「お!日本人?」男はこのようなところに、日本人がいることへの驚きの表情に変わった。

「そうです。ここで料理修行中の大畑と申します」「へえ!日本人がタイ料理を!じゃあ、ここのお勧めを持ってきてくれる?去年だったかなあ。バンコクでとても食えたもんじゃないタイ料理食ってから、余り食べないようにしたが、この信子が食べたいっていうから仕方なしに来たんだけどさ」

男は、左に座っている地味目の女のために来てやったという上から目線で話してくるので、健一は、やや不快に感じてきた。

「まあ、日本人がいるんだったら、あなたの口に合うの持ってきて!まあ、自信ないならここに書いてある寿司の盛り合わせでもいいけど」

健一は、「かしこまりました」と静かに言って、厨房に戻ったが、怒りを感じるよりも、あることを思い出してくるのだった。

「思い出した!あの人たちサイアムプラスで激怒した人たちだ!」

サイアムプラスで彼らの食べ残しを、味見した健一すらも顔をしかめるほどひどかった味。

「あれが、タイ料理だと思われているな。これは挽回せねば」そう心で叫びながら、厨房にいる調理スタッフに事情を説明する。


スタッフも健一の必死な説明に理解を示したのか、小さくうなづくと、いっせいに調理を開始。健一も一品作るように指示を受けたので、モンディ師からチェックを受けたパッタイを作り、早速自ら持っていった。


「お持ちしました。もしお気に召さなければ、てんぷらの盛り合わせをサービスさせていただきます」上から目線で言われたので、健一もやや嫌味っぽくへりくだった態度で料理を持っていった。

彼らはそれを無視しながら、最初に女性たちが食べ始める。

「あっこれ美味しい!明ちゃんも絶対大丈夫だよ」男から見て右に座っている派手目の女性が評価した。


「これ、アジアの味だわね」左に座っている対照的に地味な女性のほうも、好評価。

「ほう、味オンチの峰子はともかく、信子も美味しいというのなら、一度食べてみようか」

それまで、全く食べるつもりの無かった男もようやく箸を動かし始めた。

「うん、この前とは違う。これは美味しい!」と言い始めると、3人は会話をするのも忘れてひたすら箸を動かし、黙々と料理を食べていく。


「いや、美味しかった。あなた?どれか作ったの?」食べる前とは態度がガラリと変った男の問いに健一は、「その焼きそば “パッタイ”は、私が作りました」と笑顔で答える。

「ほう、特にこれは美味しかったなあ。いや少し感動をしました。こんなはるか遠くの地でどうぞ頑張ってください」と丁寧に頭を下げると、2人の女性と共に去って行った。


「本当は、見た目より真面目な人なのかもな。でも良かった。タイ料理の誤解が解けたようで」健一も料理の力でお客さんの態度が変ってくれた事に、嬉しさを全身で表現したくて仕方が無かった。


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