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修行編 第33話 本格修行開始 その5(60)


どんどん、自らを追い詰める和夫は一人で自問自答を繰り返す。

「もう駄目だ!俺はもう日本に帰ることが出来ない。クソッ!和伸め!何で何だ!あのバカの言う事を鵜呑みにしてしまったのは。

大畑君こそ当店に最も必要な存在である事にいまさら気づいてももう遅い!ああ、悔しい。もう終わってしまったんだ!

大畑君、すまない許してくれ!!」

目に大粒の涙をため、鼻水が出るのを必死でこらえながら、和夫は暗闇迫る、誰もいないチャオプラヤー川のほとりに出た。

「ウドム、すまない。行っても無駄だったようだ。後は頼むぞ。和美!絶対に幸せになってくれ!!」

心の中で叫んだ和夫は、そのまま全速力で、川に飛び込んでしまった。


数日後、バンコクからさらに下流にあたる、河口付近で和夫と思われる遺体が見つかった。

一時ニュースになったものの、タイミングが悪く、別の大きなニュースにかき消されてしまい、チェンマイで、日々“武士王”で研修をしながら屋台で汗を流している健一をはじめ、中堀や源次郎ら、今まで健一に関わった誰もこの事実に気づく事はなかった。

ただし、下松ウドムと和美を除いて・・・・。



健一が、チェンマイに来て2ヶ月程経ったある日、世間はちょうど11月の灯篭流し(ロイカトーン)が近づき、慌ただしくなり始めた頃。健一は午前中、いつものように屋台の作業をしていると、中堀がやってきた。「大畑君、雇ってくれるタイのレストラン見つかったで」「本当ですか?」健一の声が上ずる。


「午後、事務所に来たら一緒に行くさかいに、とりあえず、麺食べさせて」

健一が作った麺をすすりながら、中堀はしゃべる「ターベチェンマイ言うところで、チェンマイなどのタイの北部料理がメインなんだけど、今急成長中で、人気の店なんや。

で、何が良いかと言うたら、社長のウイチャイはんが、すごい親日の人でな、彼の妹が、日本人と結婚しただけでなく、彼のお父さんが、昔旧日本軍の関係者とも親交があったとかで、とにかく日本好きなんやそうや。

日本人の健一君の話をしたら、えらい嬉しそうに、ぜひ連れてきてくれいうてくれたんや。

ただしな、条件があるんや」

「条件?」健一はやや表情が険しくなった。

中堀は、そんな健一の表情を無視しながら、「前にも言ったとおり、タイ料理シェフは、ビザの問題で出来ないんや。そこでな悪いけど表向きは日本料理人としてその店に行ってもらうんや」


「日本料理人?中堀さん話が違います!」

思わず声を荒げた健一に中堀も負けじと大声になり、「だから話を最後まで聞け!あくまで表向きの話や言うてるやろ。今から行く“ターベチェンマイ”言う店は、基本はチェンマイを始めとする北タイ料理の店やけど、一般的なタイ料理もあるんや。

今度、そこの社長がな、わいのところの食材使って日本料理もメニューに加える話が決まったんや。で、日本料理の指導する料理人は青木貿易から派遣することになってな。それがあんたや」

しかし、いまだ話の内容が理解できず険しい表情を崩さない健一。

中堀は、健一に近づいて小声になる。

「ここからが肝心なところや。あんたは店のスタッフに指導しながら料理人として、日本料理を作ることになるけどな。入ってしまえば中の動きのことまではわからん。

例えば忙しく、それもタイ料理出来る人間が急遽必要になった時なんかは、ビザもクソも無いわな」


中堀の言おうとしている事が、ようやく理解できた健一の表情はようやく明るくなった。

「なるほど、やっとわかりました。では、青木貿易から派遣された立場として頑張ります」

と言うと深々と頭を下げる。

「ようやく解かったようやな。そういうことやだから、給料は青木貿易から出すさかいな。どうや武士王でちゃんと研修できたかいな」中堀の口元にも白いものが見える。

「ええ、おかげ様で大塚さんに鍛えられました。寿司もてんぷらそれにコロッケなんかも作れるようになりました!」と、先ほどとは180度変わって異常なまでに張り切る健一であった。


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