修行編 第31話 本格修行開始 その3(58)
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そこには、一人でから揚げを食べている、大林信太郎の姿があった。
「あなた、大畑健一君をご存知なのですか?」吉野が熱燗を飲もうとして、
素手では無理なのでおしぼりを使ってお銚子を取ろうとしながら、質問を浴びせた。
「ええ、私、大林と申します。何を隠そうこの店大畑さんから紹介されてここに来ました。
ノンカーイの鍋屋さんで知り合って、チェンマイ行きのバスが一緒で、本当にお世話になったんです。
で、最後にお話した時に、階級社会があるから働けるのは屋台しか無理とか言ってましたよ」
「屋台しか無理かあ・・・」オーケンがため息をつく。
「あっそれから、“サパーン”とかいう料理学校が経営している一門では、階級の違う外国人を嫌っているのに
資格を取れたら仕事につけるとか言って、金だけ巻き上げたとか言っておられました。はい」
「『ええ!』健一君が、そんなことを?絶対おかしいって。日本人は階級が違うから、金を巻き上げる?
あなた、そんなんほんまに聞いたん??」
大林の説明が納得できないオーケン。
「それは、ちょっと誤解だよ!外国人はタイの階級社会とは直接関係ないはずだよ。
でも、バンコクの料理学校ってそんな詐欺まがいのことをするのかあ!」源次郎も戸惑う。
タバコを吸いながら、天田が静かにしゃべりだす。「どうやら、確認をする必要があるようですね。
サパーン料理学校はむしろ外国人を受け入れるので有名なところで、
現在のタイ料理界の第一人者とも言えるモンディ師が校長のところですよね。
その料理学校の建物のすぐ近くのホテルには、よくセミナーや催しとかでよく行くんで、知っているんですよ。
あんな、目立つところの堂々とした建物の中で、いくら外国人だからわからないといっても、
観光地でうろうろしているような安物の詐欺師のような事をしたら、すぐに表ざたになりそうですけどね。
今度その誤解を解くために話をしてきましょう。国沢さん、と言うことで一緒にね」
「ああっはい!技師長」なぜか不用意に慌てる国沢。
「何か、さっきから聞いとったら、ややこしい話になっとるようやなあ。こりゃチェンマイ戻ったら早よ、
健一君にレストラン探したらなあかんなあ。で、ビール一杯飲ませてえな」
「中堀さん、よく見てよ、そこに置いてるじゃないか」「ああほんまや、源次郎はん、すんまへん」
中堀が、源次郎らに健一の消息を伝えてから1ヶ月ほど経ったある日。
天田と国沢の2人は、ホテルでの会議の後、帰りにサパーン料理学校を訪問。
講師サパトラに事情を説明した。
サパトラも、あれだけ熱心だったのに突然行方をくらました健一の事を非常に気になっていたが、チェンマイで元気に頑張っている事を聞いて、胸をなでおろすのだった。