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修行編 第28話 いざ、チェンマイへ その6(55)


健一は、中堀の野望にただ感心しきりで、「中堀さん、本当にすごいですね。

僕なんかは料理人になれるかどうか悩んでいるだけで」

すると中堀は、健一の右肩をポンと叩いて、

「いや、大畑君。これからやないか。君なら出来る!間違いない。いずれ日本でも本格的な店を作ってな」

健一も嬉しそうに頭を下げ、「はい、がんばります。ところで、バンコクの“居酒屋源次”と言うお店にいかれた事ありますか?」

「ああ、源次。社長の好きな店やな。

でもわい、あの人の江戸っ子ぽいあのしゃべり苦手やねん。仕事で取り引きはあるけどプライベートではちょっとな」


少し戸惑う中堀に健一は、「でも中堀さんの関西弁、僕も最初は苦手でしたけど、もう全然平気ですよ。実は青木社長との出逢いを作ってくれた城山源次郎さん。

前のバンコクの仕事を辞めた時に挨拶なしに、ノンカーイへ行ってしまったので気になってるんです。

今度バンコクにいかれた際、宜しく伝えてもらえへんやろうか?」


中堀は笑いながら「大畑君、ちょっと関西弁入ってるで、よしわかった。城山はんに、大畑君の事を話しちゃうよ」「中堀さんも標準語が」「ア、ハハッハハハハ」2人の会話は、夜遅くまで続くのだった。


レストランの修行先が決まるまでは、中堀の家に泊めてもらう事になった。

中堀がチェンマイ滞在中に住んでいる家(団地)からは、健一が研修することになる日本料理店までは、トゥクトゥク(自動3輪タクシー)で15分くらいかかったが、週2回手伝うディナの屋台がある市場には、歩いて5分くらいのところだったので、こちらのほうは非常に便利だった。


翌日から、健一は、週3回午後から夜遅くまで日本料理店での研修と、早朝から昼過ぎまで週2回、市場の麺屋台を手伝いに行くことになった。

この間、健一は青木貿易の社員扱いとなり、給料もわずかながら支給される関係で、

空いている時間は、青木貿易のチェンマイ事務所にて、中堀の仕事を手伝う日々が始まるのだった。


研修先は日本料理店“武士王”

場所はチェンマイの旧市街のターベー門から東の方角。チェンマイの鉄道駅の近くにあった。

毎週月・水・木の3日間、研修生として午後から夜の10時までが健一の勤務。

青木貿易中堀の紹介と言うことを伝えて、健一が中に入ると、白い帽子にネクタイを締めた白衣姿という日本料理人姿の店主と思われる日本人が「お話は聞いています。どうぞ」と暖かく出迎えてくれた。

カウンターとテーブル席だけの10人も入れば満席となるような小さな店。

健一は、見渡しているうちに、どこかバンコクの居酒屋源次を思い出してしまうのだった。

「お世話になります。大畑健一と申します」

健一が、丁寧に頭を下げる。


「始めまして、私は大塚信長と言います。

まあ小さい店ですが、人手が足りないので、

助かります。タイ料理をやっていたと聞いていますが」

「ええ、日本でシェフとしてやってこのタイで修行するつもりでしたが・・・」

大塚は、めがねを治してやや笑いながら、「ビザの問題だね。まあ、日本ではこんな情報は、

普通流れないでしょうから、気持ちわかります。

不本意かも知れませんが、国の掟は掟。

これを機会に、祖国の料理を異国の地で学ぶのも面白いですよ」


そう大塚に言われながら、健一は早速研修生として店の手伝いを始めた。

店はホールを担当しているタイ人の女性が2人いるだけで、料理人は大塚1人だけ。

その為、初日から健一は何かといろいろな雑用を言い渡され、あたふたするのだった。


ピーク時などでは、大塚から厳しく檄が飛ぶこともあったが、基本的には健一にやさしく接してくれるのだった。

健一に、寿司の握り方や造りの切り方、あるいはてんぷらの揚げ方などを丁寧に教えてくれるのだった。


健一は、飲み込みが早かった。

扱う料理の国が違うとはいえ、包丁などは普通に使えていたし、ホールのタイ人女性とのコミュニケーションも全く問題ない。


それよりも、最も大きかったことは、健一がバンコクにいた頃にあった。

週一度居酒屋源次で、タイ料理の仕込をした後、城山源次郎が、「何かの役に立つから」ということで日本料理の賄などを健一に作らせていたのだった。


最初は、ちょっと微妙な味付けだった日本料理の賄いも、源次郎の指導の下、徐々になれて行き、最後のほうは十分営業の店でも出せるほどの味付けになっているのだった。


大塚は健一が、想像以上に能力があると思い、頻繁に「君、そのままうちで働かないか?料理のセンスあるから、優秀な日本料理の職人になれるよ絶対に」

と誘ってくるが、「いえ、僕には夢が・・・」

とその都度健一は断るのだった。


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