修行編 第27話 いざ、チェンマイへ その5(54)
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この日の夜、中堀と健一は一緒にご飯を食べに行った。
「チェンマイの街の名物麺を食べなあかんやろ。その店がここや」
そう言いながら中に入り、それを注文した。
来た麺は、カレースープの中に入っていて、上の麺は油でカリカリに揚げてあるのだった。「これはカオソーイいうて、チェンマイなどタイ北部の名物麺や」
中堀の説明を聞きながら健一は早速食べてみる。
タイのレッドカレー(実際は黄色に近い)のスープの辛さが、
麺と一緒に食べる事で中和されるのか、程よく美味しい。
揚げ麺が付いているのがお得な感じの印象がする。
「バンコクばかり行ってましたので、地域によっていろんな味がある事が良く分かりました。いずれはこの麺も自分の物にしたいと思います」健一は、始めて食べたカオソーイにタイ料理の奥深さを感じるのだった。
中堀は先に食べ終わると、「後で、近くのバーに行ってビールでも飲みまへんか?」と
もう少し話がしたいのか、健一を次の店に誘うのだった。
2人は2軒目に移動し、タイのビールを飲みながら、中堀は語り始めた。
「青木社長とわいは、同じ大学の先輩と後輩でな、社長の方が1年先輩。
その頃からの付き合いなんや。
社長ほどやないんやけど、わいも大手の商社に就職して、このタイにも5年ほど駐在した事があってやなあ」「それでタイ語もお得意なんですね」健一が相槌を打つ。
「そうやで。で社長が独立する時に、声かけてもうたんや。
わいも社内ですこし行き詰まっとったからな。会社辞めて社長と青木貿易作ったんや」
一旦ビールを口に運んで中堀の話は続く。「今考えたらえらい冒険やったけど、
ようやくタイとの貿易は無事に軌道に乗ったという事で、『次の展開』やいうて社長!
他のアジアの国々へ拠点を作り出してな。
それで、『タイは中堀君に任せるから自由にやって』って言われて、
それまでずーと本社を守っとったわいが、タイの総責任者になったわけや」
「中堀さんがいなくなって、日本は?」健一の問いに中堀は笑いながら、
「まあ優秀な子が何人も居るから心配していないけどな。
確かあんたと一緒に来た、大串君がえらいがんばって、
東京事務所がどんどん大きくなってな。
今では本社と機能も変わらんようになったんや。
それで彼、若いのにもう課長や。社長もえらい期待してるで」
大串の活躍を聞くと健一も嬉しくなり、
「おう、あの大串がんばってるんだ!」
「でもな、わいかてただ社長の下で働いとんのと違うで。
タイを任されたから、ここでもっと大きいビジネス出けへんか思うて、
社長に許可もうてチェンマイの事務所立ち上げたんや」
「え?これって中堀さんの提案だったんですか?」
追加のビールの注文をしながら少し驚く健一。
中堀はピカピカの頭をなでながら、
「そうやで、バンコクもやけど、このチェンマイもこれからどんどん日本人が駐在しよる。
当然日本料理店も増えるわけや。
そこでな、せっかくのルート使うて、日本の食材とかをタイ国中に運べるネットワークを作ろうとしてるんや。
わいはここには後3ヶ月ほどおるけど、一旦バンコクに戻って、
次は南のプーケットにも行って、そこでも事務所立ち上げる。
当分日本には戻れんやろうな」