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修行編 第14話 逆境への挑戦むなしく その4(41)


居酒屋源次に親友の宗教学者。井本幸男が、タイ仏教の研究のために、現れたからであった。

「おう、井本久しぶり。大学の研究で来たのか?」「そうだ、大畑ずいぶん日焼けしているなあ。やっぱり常夏の国タイにいるからか?」

健一と違って、色が白い井本は、これも逞しさが増している健一と対照的に弱々しく見えた。

「まあ、一番気づかないのは、本人だろうな。井本、今回もバンコクのワット研究か?」

「いや、違う。今度は北のチェンマイに行くんだ」

「チェンマイ?聞いたことあるけど、どのあたりなんだ?」

健一の意外な質問に、目を大きく開く井本。

「お前、タイに住んでいながら、なんでチェンマイの場所を知らないんだ?

バンコクほどではないものの北の都会で、

昔タイがアユタヤ王朝だった頃、北部にはランナータイ王国と言う別の国があって、その首都だったところだよ。

バンコクから飛行機なら1時間強だが、鉄道やバスなら12時間くらいかかるんだ」

自慢げに語りだす井本。

「だって、俺は、料理以外は余り興味が無くて...。何でそんなところに行くんだ」

「もちろん研究だ。ランナータイの様式はバンコクのものとはやや違う。そのあたりをこの目で確かめたいんだ」「じゃあ、明日には行くのか?」

健一は少し寂しそうに聞く。

「そうだ、忙しいが大学の講義もあるからな。

朝一番の飛行機でチェンマイに行って向こうで数日滞在してそのまま日本に戻る。だからお前と会えるのは今晩だけだ」

「そうか、研究も忙しそうだな。俺も少しずつだがいい方向に来ているんだ。もう少しなんだ。頑張るよ」と、やや寂しげにビールを飲む健一であった。



年が明けた1994年。

バンコクに来て初の新年を迎えた健一は、日本のような伝統的な行事がほとんど見られない

バンコクの新年に対して不思議な感覚を感じたが、大阪に残っている息子の泰男と面倒を見てもらっている母・京子。

さらに東京の福井真理に、続けざまに国際電話を入れ、近況報告を行った。


この1月に、非常に気になる事があった。実は、“サイアムプラス”にて。

いつものようにせっせとゴミ収集を行っていると、店の入口のほうから、日本語での大声がするのが聞こえてきた。

その方向に行ってみると、背の高い、目鼻立ちのハッキリした、明らかに男前の日本人が、女性2人を従えて、店のタイ人スタッフに対して「何だ、この店は!辛いだけでまずいくせに値段だけは高くて!!」と怒鳴り散らしていた。


「ありゃりゃ。観光客かなあ。タイ料理合わなかったんだろうなあ。仕方ないな。

ん?ここに食べ残しがある。これを食べたのかな。ちょっと味見しよう」

そういいながら、厨房の洗い場に置いてあった食べ残しのパッタイを一口食べると、健一の表情が険しくなった。

「まさか!こんなものを・・・・。観光客向けに適当に作ったのだろうか?不味い」

思わず、吐き出しそうになるところを我慢して無理やり飲み込むのだった。

味のわからない観光客向けとはいえ、余りにも酷いパッタイを出しているという現実に、健一は、悲しさすら感じるのだった。


その日の夜、久しぶりに愚痴を聞いてもらおうと、居酒屋源次に向かった健一。

「いらっしゃい。あれ珍しいね。休みじゃない日に来るなんて」源次には、週一度の健一が市場で買ってきた食材を使った料理を提供する日だけに絞っていたため、城山源次郎は驚いた。

「あっ大畑君。いっしょにこっちに来ないか?」テーブルでは天田が、同僚と思われるやや老け気味の日本人と飲んでいた。

「あっ天田さん。同僚の方ですか?」

「ああっ紹介するよ、彼は国沢紀昌さん。年は私より6歳上の47歳。初めての海外勤務で、私の部下なんだ。まだタイに来たばかりで不安も多いようなので、大畑君に、タイの在住の話をしてもらって、少しでもリラックスしてもらおうと思って」

「はぁ!」あまり乗り気では無い健一。

「どうも、国沢と申します。いや、この年になって海外勤務になるとは・・・」

顔の汗を拭きながら、慌てて名刺を手渡そうとする国沢であった。


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