82 最終決戦 ⅰ
慶長20年五月、再度豊臣を叩くことを決意した信秀は再度諸大名に出陣を命令。
対する豊臣勢は紀伊、大和へ侵攻するもどちらも失敗する。
幕府方は大和方面より水野勝成、川尻秀長、溝口秀勝、黒田長政、徳川忠直、伊達政宗、堀政成の順に侵攻した。
深夜に道明寺に到着した大阪方の後藤又兵衛は小松山に兵を敷いた。
「申し上げます。後藤勢は小松山にいる模様です。」
奥田忠次が報告する。
「そうか。勝手に手は出すなよ。包囲してジワジワと苦しめるぞ。」
勝成の命令により幕府方は小松山を包囲した。
この時点で水野勢以外は到着しておらず水野勢は勝成を除けば徳川の若手武将の集まりであった。
(馬鹿なことしでかさんといいが……)
水野は不安げに思った。
そして水野の不安は現実になる。
松倉重政と奥田忠次が後藤勢を攻撃したのだ。
「敵はそこか!全軍かかれぃ!」
好機と見た又兵衛は奥田を討ち取り松倉を散々に追い回した。
「アホめが!勝手に攻撃するなと言ったのに!」
「ふん!幕府の犬となりさがったか。」
イラつく水野の前に又兵衛が立ちはだかった。
「おお?未来の見えねえバカとは違うんでね。」
「ワシは戦場で死ぬために戦っておるのだ。覚悟のないお主らには負けぬ。」
又兵衛はそう言うと去っていった。
「あの脳筋野郎……」
水野は総攻撃を命令するか悩んだが味方が来るのを待つことにした。
援軍として到着した川尻と溝口は1万近い軍勢で後藤勢に攻めかかったが勢いの衰えない後藤勢により押し返された。
「のう小十郎。」
「はっ!」
「この弱さではワシが天下を取れるかも知れんな。」
「そうかもしれませぬな。」
そう言うのは伊達政宗と片倉重長。
そしてその後ろには騎馬鉄砲隊が並んでいた。
「この時のためにとって置いた竜騎兵の恐ろしさ。とくと味あわせてやれ。」
「ははっ!」
重長率いる竜騎兵が又兵衛に襲いかかった。
「むっ!なんだあれは。」
「古き時代に取り残される愚か者よ!あの世への扉はこの重長が開けてくれる!」
ダダダダダァァァァンッ!
大量の銃声が鳴り後藤勢の前衛が吹き飛ばされた。
「騎馬鉄砲か。小童が珍しい玩具を持ってきた者よ。負傷者は下がれ。残りの者は着いてこい。」
又兵衛はそう言うと突撃を敢行した。
「突撃しようが同じことよ!鉄砲隊放て。」
重長は冷徹に言う。
ダダダダダァァァァンッ!
再度銃声が鳴り突っ込んでくる又兵衛の体中から血が吹きでた。
「くっ!形部殿、兵部……申し訳ない。如水様、直ぐにそちらに参りますぞ……」
又兵衛はそう言うと崩れ落ちた。
「なに!?後藤が死んだだと?直ぐに死体を見せろ!」
又兵衛討死の報せを聞いて反応したのは旧主の黒田長政だ。
元々2人は折り合いが悪かったので長政は嬉しそうだった。
「はっはっはっ!この愚か者が。父に乗せられて勝てぬ戦に2度も挑むとは!誠に愚か者よ!」
「こういう時って泣くのが普通では?」
「実の親父も裏切るような野郎だ。普通じゃない。」
一通り死体を見て罵倒した長政は小声話す重長と政宗の方に行き2人の手を握って言った。
「お二人共、これで私も悪夢から解放されまする。誠にありがとうございます。」
「お、おう。」
嬉し涙を流す長政に2人はドン引きした。
「申し上げます!敵の援軍です、おそらくは井伊直政と毛利勝永かと。」
「どこにいる!?」
政宗が驚いて聞く。
「毛利隊は道明寺、井伊隊は後藤勢の敗残兵と共に誉田村付近に展開しております。」
「そうか。小十郎、井伊だ。やれるか?」
「お任せくだされ。」
「よし、行ってこい。」
重長は一礼すると陣を出ていった。
「なかなか頼もしい若者ですな。」
長政が感心したように言う。
「そなたにもあれのように手放せぬ家臣はおらんのか?」
「もうおりませぬ。」
その頃、少し離れた八尾と若江でも戦が始まろうとしていた。




