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80 豊臣征伐 ⅳ

「あの砦はなんだ?」


大谷丸の前に来た堀秀成が池田輝政と森長可に聞いた。


「砦だろう。入ってせいぜい三千か?」


「いやもうちょい入るな。五千が限界だろ。」


2人が答える。


「なら潰せるな。能登守に先手を任せる。」


秀成が前田利常を先手に任じた。


「おう!」


利常は意気揚々と陣を出ていった。


「あの野郎で大丈夫か?」


長可が聞く。


「父上がそうせよと仰せじゃ。誠に織田家に忠義があれば手を抜かずに戦う。まあ退路は無いがな。」


「つまり退路を断ち試練を与え百足のごとく前身させるということじゃな。」


輝政が納得したように言う。


「2番手は筒井勢、3番手は森殿、4番手がワシ、5番手は池田殿に。」


「おうよ。にしても清須中納言様は来ねえのかよ?」


「この方面の大将なのにどこに行かれたのか……」


長可も輝政も大将の秀雄がいないのに頭を抱えた。


「お散歩中らしい。」


秀成が答える。


「はぁ……、三介のバカ殿(信雄)にほんとに似てるぜ。」


「口を慎まれよ。仮にも上様の一門であられる。」


愚痴を言う長可を輝政が注意した。


「まあとりあえず、前田勢に働いてもらうしかない。」


秀成が言うと2人も頷いた。


大谷丸の近くに布陣した前田勢の眼前には前田勢を煽る男がいた。

大谷刑部の嫡男の吉治だ。


「おい!裏切り者の前田の者共!前右府の恩を仇で返し柴田修理の恩を仇で返し太閤殿下の恩も仇で返すか!この卑怯者め!」


「くっ!」


それを聞いて利常は拳を握りしめた。


「えぇい!黙れ黙れ黙れ!全軍かかれぇぇぇぇ!」


利常が命じると前田勢五千二百が大谷丸へ突撃を始めた。


「まだだ。まだ撃つな。」


その大谷丸の挟間からは大量の鉄砲の銃口が前田勢を狙っていた。


そして前田勢が堀から砦に登ろうとした時だった。


「撃て!」


吉継が命じると大量の鉄砲が火を吹いた。

慌てふためく前田勢に対し大谷勢は驚異的な連射で逃げるものも仕留めていく。


「ふん!所詮は恩返しも出来ぬ前田勢よ。我らが戦を見せてやれ!」


それを見て筒井勢一万一千も動き出した。


前からは鉄砲による射撃、後方からは突撃してくる筒井勢と逃げ場を失った前田勢は混乱した。


「おのれ、大和侍従め!これでは我が軍の兵の逃げ場がないでは無いか!」


後方からそれを見ていた利常は激怒した。

筒井定次は利常を13の小僧とバカにしていたので前田勢などどうでもよかった。

とりあえず手柄を上げたかったのだ。


だがその筒井勢も大谷勢の射撃に圧倒されている。


(この速さ……。まさか火縄銃では無い?)


前方より聞こえる銃声に光秀は不安を覚えた。


大谷勢の鉄砲は想像以上の連射力と射程を誇り火縄銃と違う物であるのは明らかだった。


「殿、我らもそろそろ……。」


「無理だ。俺らは八丁目口からあの砦を奇襲するぞ。」


森長可は独断で陣形から外れ八丁目口を目指した。

同様に長宗我部盛親も谷町口を目指した。


「来たか、鬼武蔵よ。本多様の仇、ここで取ってくれる!」


八丁目口を待ち構えていたのは井伊直政だった。


井伊勢がこちらに向かってくる森勢に鉄砲玉を浴びせる。


「怯むな!こっちは4倍の兵がいる!押し殺せ!」


森勢は鉄製の盾と竹束を使い少しづつ前に進んで行った。


「これじゃ埒が明かん。一旦引くぞ!」


撤退する森勢を横目に谷町口を攻める長宗我部勢は戦列歩兵に弓矢を持たせ斉射による攻撃をより一層強めた。


「桑名、なにか不思議な感じがするな。」


盛親が家老の桑名吉成に言う。


「やはり殿もでしたか。実はワシもです。」


「にしても大将は誰だ?なかなか硬いな。」


「後藤又兵衛かと……。」


「関ヶ原以来だな。ひねり潰せ。」


対して防戦を強いられる後藤又兵衛は怒号を上げていた。


「怯むな!相手は土佐の小僧だぞ!」


そうは言うものの長宗我部勢は弓を使い石盾の上から矢を落としてくるので石盾がほとんど意味をなさず鉄砲兵はバタバタと倒れていった。


「ちっ!援軍は来ないのか!?兵部の軍は?」


「現在、森長可と交戦中との事で……」


「くっ!」


又兵衛はただ舌打ちするしかなかった。

大谷に話を戻そう。


「前田も筒井も森も何をしておるか!我が自ら行ってくれる!」


秀成は苦戦する味方にイライラしながら自身の兵一万も動かした。


それを見て笑う男がいた。


「はっはっはっ。皆、10年も戦をせんと戦い方を忘れるものか。」


伊達政宗である。


「義親父殿、我らもそろそろ。」


政宗の娘婿の堀政成が言う。


「そうですな。藤堂隊にも伝達せよ!我らも行くぞ!」


さらに伊達勢と藤堂勢合わせて三万も大谷丸に襲い掛かり合計して五万六千の兵が大谷丸を攻撃している事になった。


「そろそろ厳しいのでは?」


吉治が聞く。


「我らには最新式の武器がある。幕府軍は持ってないものだ。何万来ようが大丈夫じゃ。」


吉継の考えた鉄砲は撃鉄を引き起こし引き金を引けば六連発の回転式弾倉から弾が放たれる火縄を必要としない回転式鉄砲だ。

この時代に南蛮でも流通していない代物である。


光秀の予想は当たっていたのだ。


「あれは明らかに我らが持つ銃と違う!早く全軍を撤退させろ!」


本陣からその銃声を聞いてそれを確信した光秀が命じた。


「しかし何故そのようなものを豊臣が持っておる?」


「分かりませぬ。しかし大谷刑部は恐ろしき男です。やつならやりかねません。」


信秀は困惑しているようだ。


前線に撤退の命令の使者が来た時には開戦から5時間が経ち前田、筒井両軍の被害は甚大だった。


彼らが撤退したのを見た豊臣方は谷町口の後藤又兵衛の援軍に向かい長宗我部勢も敗走させた。


大谷丸の戦いは幕府軍の完敗だった。

後にこの戦いは大谷刑部の伝説として語り継がれる事になる。


そしてここで大敗を喫した幕府軍は新たな策を考案することを強いられることになる。

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