6 軍議
「陣立てについては官兵衛から説明する。官兵衛、始めよ。」
「ははっ」
秀吉の指示を受けると孝高は立ち上がり地図に指を指して説明を始めた。
「皆々ご存知のように、織田信雄は徳川三河守と共に我らに宣戦布告し更に関東の北条、越中の佐々、四国の長宗我部、紀州の雑賀、根来らとも交を通じておる。よってこれらのものに対しての備えも万全でなければならぬ。まず越中の佐々に対しては前田殿にお任せしたい。」
「承知致した!」
(最後まで織田に尽くしたのは成政だったか……)
光秀が初めて利家と成政に出会ったのは30年前に信長が斎藤道三と会見した時のことである。
その時に信長はこの2人を家を継げなかったため死んでも戦うなどと言っていた。
あの頃は利家も成政もお互いに戦うことになるなど思ってもいなかっただろう。
「四国の長宗我部に対しては引き続き権兵衛に任せる。十河と連携を取り長宗我部を抑えよ。」
「お任せくだされ!」
(まあ元親殿なら問題ないか。)
光秀の家臣の斎藤道三の妹は土佐の長宗我部元親の妻であり光秀にとっても縁戚である。
信長の急な長宗我部攻めを止めるためにも光秀は信長を殺した。
その元親の対応を任されているのは秀吉の古くからの家臣で武勇には優れた仙石権兵衛である。
「紀伊の連中に対しては岸和田の中村と大阪城に残っている私の息子や生駒殿が対応するのでご安心なされよ。」
「北条に対してはどう対策をとっておられる?もし北条が大軍を率いて西進すれば一溜りもありませぬぞ。」
光秀が進言した。
「北条に対しては常陸の佐竹を初め北関東の諸勢力に牽制させております。また上杉にも連絡を取っております。」
「なるほど。」
「それでは陣立てに参ります。
まず池田殿は犬山城に向かわれよ。
池田殿が犬山を奪われたら森殿も犬山に着陣し織田に備えてくだされ。」
「羽柴様はいつ出陣されるので?」
恒興と長可が揃って質問した。
「御二方が着陣次第大坂より出陣されます。またこの部隊には秀次様と私と蜂須賀様も加わります。伊勢方面には秀長様と蒲生殿、滝川殿、それと志摩の九鬼殿も参陣されます。」
「お任せくだされ!」
蒲生氏郷はやる気だった。
それに対し秀吉に降伏し従っていた滝川一益は少し悲しそうな顔をしていた。
(まあほんの2年前まで自分より格下であった男の弟に従うなどあの頃は考えてもらおらなかったろうしな)
光秀は少なからず同情した。
「秀吉様の本隊には堀殿、細川殿、丹羽殿も加わられよ。」
忠興がこちらを睨みつけてきた。
すっかりさっきの質問で嫌われてしまったようだ。
「以上で陣立ては終わりでござる。質問のある方は?。」
「ないようじゃな。それでは皆の衆抜かりなく。」
諸将がいっせいに頭を下げ秀吉が退室した
「にしても先鋒を任じられるとは羨ましゅうござる、武蔵殿。」
「なに、徳川など人捻りにしてくれる。」
氏郷はフレンドリーな人間だった。
早速先鋒を任された森長可に話しかけていた。
「しかし家康は海道一の弓取りとも呼ばれておる。油断はせぬほうが良い。」
「久太郎殿は心配性でござるな。武蔵殿ならどのような者であろうと瞬く間に切り伏せられるぞ。」
秀政の忠告に忠興が言い返してきた。
「たしかに久太郎殿の言うことも一理あるぞ、与一郎殿。」
「まあ、俺の事でそこまで争われるな。姑殿もいらっしゃるし何より五郎左様も左近様もこちらの味方じゃ。負けるわけがなかろう。」
長可は明らかに忠興が氏郷に反論されて爆発しそうな顔をしていたのを察していた。
気性が荒いことで知られる長可だが年下の忠興の前では大人ぶっていた。
「これは失礼いたした。では武蔵殿、ご武運お祈りしておるぞ。」
光秀は3人に会釈して広間を後にした