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67 北の国から

秀包が殺された頃、伏見城を守る利三も限界を迎えていた。


豊臣御所を制圧した黒田、石田軍と宇喜多、小早川軍の猛攻撃に本丸を残し城は落ち、千五百いた城兵のうち五百人が本丸を守っていた。

連日にわたる鉄砲や石火矢の攻撃に対し兵達の疲れは限界に達していた。


西軍本陣にて


「明日には城も落ちるでしょう。総攻撃を仕掛けましょうぞ。」


秀秋が総攻撃を提案する。


「金吾の申すとおり、時間を無駄には出来ぬ。攻撃致そう。」


秀秋も続く。


「そうじゃな。では毛利殿と吉川殿にお任せしたいのだが?」


如水がそう言って2人の方を見た。


消極的な行動しかとっていなかった2人は不意をつかれたのか一瞬戸惑った。


「あ、ああ。すぐにでも攻め落としてくれようぞ。」


秀元が言う。


「秀頼君も毛利殿のお働きには期待されております。お任せ致しますぞ。」


三成がそれに返す。


その後、毛利の陣


「まずい……まずいぞ。利宗は大納言の重臣中の重臣。これでは大納言に何を言われるか分からぬ……。」


「そうじゃ。それに内通の話の窓口は利宗じゃ。どうする?今ここで裏切るか?」


2人とも焦っていた。


「馬鹿言うな、広家!ここで裏切ればそれこそ袋叩きにされるぞ……。おのれ、如水。恐るべし。」


秀元は如水の陣の方向を睨みつけた。


その如水の陣では


「今頃焦っておるでしょうな。しかしこれで内通は反故にされるでしょう。」


三成が満足気に言う。


「仮にも一門の家臣を討ち取られれば大納言とて許しはしまい。それに毛利を潰す理由ができて向こうは喜んでおろう。はっはっはっ。」


如水も高らかに笑う。


「次は金吾ですな。」


「金吾にはうちの家臣を送り込んでおいた。動かなければ尻を叩いてやる。」


そして翌日、総攻撃が始まった。


「かかれ!利宗を討ち取れ!」


秀元も広家も仕方なく突撃を命令した。


秀元と広家合わせて一万八千の大軍に対し利三はよく奮戦したものの多勢に無勢。

周りのものはどんどんと倒れていった。


「拙者は毛利家家臣、宍戸備前守元続!貴殿は堀利宗殿とお見受けいたす。お手合わせ願おう!」


「毛利の家臣であれば、ワシの首よりもこれを宰相殿にお渡し願いたい!他の者に見せてはならんぞ!」


そう言って利三は書状の入った木箱を投げた。


「承知致した!何としても秀元様にお渡し致す。御免!」


宍戸が去っていくと変わって別の男が入ってきた。


「拙者、豊前小倉城城主、毛利豊前守勝永!堀利宗殿、その首頂戴いたす!」


毛利勝永は毛利の苗字を与えられているだけで毛利一門でも毛利家の家臣でもなく豊臣家譜代の家臣である。

毛利だけでは不安だと感じた如水により城に乗り込んでいた。


勝永は名乗るといきなり薙刀で斬りかかってきた。

利三はかわそうとしたがその一撃は素早く、利三の腹を刃が斬り裂いた。


「くっ!」


「温いわ!」


勝永は目にも止まらぬ早さで2発目を繰り出し利三はその場に崩れ落ちた。


「毛利勝永、堀利宗、討ち取ったり!」


勝永の声が伏見にこだました。


「宰相様、お人払いを。」


秀元の陣に戻った宍戸は木箱を秀元に差し出した。


「なんだこれは?」


隣いた広家が聞く。


「利宗がこれを宰相様にと……」


「ほう。書状か?」


秀元が箱を開け書状を読んだ。


「して、なんと書いてある?」


広家がソワソワしながら聞いた。


「此度の攻撃は致し方ないこと故、この書状を大納言殿に渡すように書いてある。」


「そうか、大納言殿もこれなら御容赦してくださるな……」


2人は胸を撫で下ろした。


その頃、加賀小松城。


「大谷刑部が大聖寺城まで来ておる。そこが決戦の場所だな。」


「決戦は大納言と合流してからだろう?気が早いぞ。」


加賀の前田利長と丹羽長重は総勢二万の兵を率いて越前を制圧し如水らを包囲するように光秀から命じられていた。

対する西軍は大谷吉継ら越前衆が加賀の大聖寺城に詰め両軍は対峙していた。


「それで長重、敵はどれくらいなのだ?」


利長が聞く。


「物見の報告によれば一万。我らの半分じゃ。」


「一万!?形部は五万石だろ?」


「越前と北近江の兵も連れてしておる。むしろ少ないくらいじゃ。」


「そうか、そうなのか?では先陣はお主に任せるぞ。」


「任せておけ。」


まず長重率いる三千の兵が大聖寺城に向かった。


「前田殿で大丈夫でしょうか?」


長重の家臣の江口正吉が不安げに聞く。


「あの阿呆の事じゃ。何をしでかすか分からん。」


対する西軍は大聖寺城城主の山口宗永の1200を仕向けてきた。


「大納言殿の戦法を使う。江口、任せたぞ。」


長重が江口に命じると江口は急いで先鋒部隊の元へ向かった。


「総員!進軍開始!」


江口が命じると太鼓の音がなり鉄砲隊がいっせいに動き始めた。


「装填!」


鉄砲隊は種子島に弾を装填した。


「よし!とまれ!」


山口勢との距離が50メートルほどになった所で江口が進軍を止めた。


「今ぞ!はなてぇ!」


江口の怒号と共に150の鉄砲が一斉に山口勢に火を吹いた。


「2列目、撃て!1列目は装填!」


3列の鉄砲隊が連続して山口勢を銃撃する。

初めて見る先鋒に山口勢は混乱した。


「よし、着剣し突撃!」


鉄砲隊達はそれを聞くと銃剣を付け一斉に突撃し始めた。

混乱している中で突っ込まれた山口勢は大将の宗長も討死するほどの大損害を蒙った。


「初めて見る戦術!?」


山口兵の話を聞いた吉継は驚いた。


「正面から立ち向かうのは厳しいか……それであれば。」


翌日、長重の元に驚くべき報告が入ってきた。


「は!?前田軍が撤退しているだと!?」


「どうやら、敵の虚言に流されたようで……。」


「まずいですぞ。このままでは我らは孤立します。」


江口も長重も焦り始めた。


「やはり阿呆であったか!我らも撤退するぞ。」


「殿はそれがしにお任せを。」


「すまぬ、江口。孤立する前に引くぞ、急げ!」


こうして、江口の鉄砲隊500を殿に丹羽勢も撤退し始めた。

そしてこれを吉継は見逃さない。


「敵が逃げ始めた!全軍攻撃開始!」


江口隊に八千の大谷勢が襲いかかる。


「撃ちまくれ!弾が無くなるまで撃ち尽くせ!」


しかし500の訓練された鉄砲隊は強力で3段撃ちにて大谷勢を迎撃した。


「殿、敵の抵抗かなり激しい模様!」


家臣の報告を聞いた吉継は


「本戦の前に無駄に兵を失うわけにはいかぬ。全軍戻るぞ!」


攻撃を止めた。


数日後、東海道を西進中の光秀の元に長宗我部が四国を制圧、伏見城落城、丹羽勢の奮戦と前田勢敵前逃亡の報告がまとめて入ってきた。


「そうか……すまんな利三。」


光秀が小声で言う。


「敵前逃亡とは利長は利家に似ず不出来な奴のようだな。」


信秀が呆れて言う。


「大谷刑部の策略のせいでしょう。致し方ありませぬ。」


利長を擁護したのは柴田勝家の妹の子の佐久間安政である。


「兄者も手柄を立てれば加賀を頂けるかもしれませぬな。」


隣でそう言ったのは安政の弟で佐々成政の養子だった佐久間勝之だ。


「貴様らは柴田と佐々を継がせてやるか。川尻はどこが欲しい?」


信長の重臣だった川尻秀隆の嫡男の秀長に聞いた。


「そうですな。東国に父と同じほど頂きとうござる。」


「南部を潰してそこに入れるか。一時はどうだ?」


信秀は滝川一益の次男、滝川一時にも聞く。


「野に下った兄上を呼び戻し上野に5万石でも頂ければ充分でございます。」


「雄利と合わせて30万石くらい与えてやっても良いぞ。太閤は能無しの福島や加藤共に20万石も与えたのだからな。」


信秀は既に天下人の振る舞いであったが誰もそれに異を唱えるはずがなかった。

この軍の実質的な総大将は信秀であり光秀はあくまで信秀の傘下として動いているつもりだからである。


「久太郎はどこが欲しい?」


「はっ。関東は他の方にお任せし私は畿内にて殿をお支え致しとうございます。」


「おお、それは良き心がけじゃ。まあ論功行賞はお前と協議で行うつもりだが。」


信秀も光秀を信用していた。


「それで戦はいつ始まるのだ?」


秀雄が聞いた。


「明日には先鋒の池田殿と森殿が清須に入るかと。」


「そうか。それで津軽はなんと申しておる?」


信秀が聞く。

津軽とは陸奥北部の大名で未だ去就不明だった。


「そろそろ文は届いている頃かと。味方する気なら南部なり秋田なりの所領を攻撃していましょう。」


だが光秀の期待とは別に津軽家当主、津軽為信は悩んでいた。


「今、堀に味方すれば切り取り次第とのこと……。しかしそうなれば南部は総力を持って攻めてこよう。どうしたものか。」


為信は元々南部家の家臣だったが南部家を裏切り3万石の所領を秀吉に認められていた。


「南部と秋田はそれぞれどの程度の兵を伊達と最上に送っておる。」


為信が家臣に聞く。


「南部は三千、秋田は千五百と聞いております。」


「となるとほぼ総兵力か。秋田くらいなら潰せるかもしれぬ。」


「では……」


「出陣の支度をせよ。秋田を落とし余力があれば南部も落とす!」


こうして津軽為信が光秀側についた。

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