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66 南海の片喰


本土の人間たちは散々に四国のことをバカにしていた。

その代表が鳥の無き島だろう。

しかし今、鳥無き島の住人達はその本土の軍を圧倒していた。


さらに金子元家、大野直昌、平岡直房ら毛利家に従属していた伊予の諸将も駆けつけ徐々に毛利勢は押され始めた。

しかしそれでも2倍の兵力を誇る毛利軍も反撃し戦いは一進一退となった。


「叔父上!我々もそろそろ行かんで良かとな?」


島津義弘は毛利からの出陣要請をひたすらに黙認していた。

痺れを切らした豊久が義弘に聞く。


「おもしてか……おもしてかぞ!宮内少輔じゃ!戦はこうでなってはならん!」


「え?」


義弘は笑いだした。


「西国武士ん魂、見せてもろうた!

薩摩隼人ども!一世一代ん大博打じゃ!毛利を打ち破れ!」


「はぁ?」


「行っぞ豊久!ワシに手柄を取られてん良かとな!?」


義弘の唐突の裏切り宣言に豊久はよく分からなかった。

しかしこのままでは義弘に手柄を取られるのだけはわかった。


「叔父上には負けもはんぞ!ワシに続け!」


こうして島津勢二千が毛利軍の側面に攻めかかった。


「なぜじゃ!なぜ島津が裏切る!」


本陣にて元康は大慌てだ。


「まずいですぞ。兄上、このままでは味方は総崩れかと……」


秀包も焦っていた。


「分かっておる!しかし寡兵に我らがしっぽを巻いて逃げるなど……輝元様にどう説明すれば良いのじゃ!」


「それは……」


2人が撤退か徹底抗戦を議論している間に長宗我部軍は益田隊を押し返していた。


「鬼島津の野郎……何を考えてやがる。」


側面より毛利勢に襲いかかる丸十字を元親は怪訝そうな目で眺めた。


「四国の戦が島津を動かしたのだ。我らも負けておれぬぞ!」


そう言って清良は近くにいた足軽数人を一気に斬り伏せた。


「お前ももう50過ぎてるだろ……よくそんなに動けるな。」


元親は感心していた。


「それは貴様だ。それにしても流石は鬼十河の跡継よ。」


清良が指さす先には十文字槍を振り回す存英の姿があった。


「我こそは三代目鬼十河!命の惜しくないものからかかってまいれ!」


諸将が獅子奮迅の活躍をする中で戦場に爆音がとどろき毛利兵が何十人も吹き飛ばされた。


「誰じゃ!誰が大筒など……」


元康は自分が指示していない攻撃が行われ混乱していた。


「まさか村上めが……」


秀包の予想は当たっていた。

毛利軍の背後に展開していた村上水軍が味方の毛利軍に攻撃を始めたのだ。


「遅せぇよ。」


元親は海の方を眺めて言った。


「これも貴様の策か?やはり我らでは勝てる相手ではなかったのやもしれぬな。」


清良も驚き、元親の手の入れように感心していた。


「野郎共!能島を取り返すのに御恩も奉公も関係ねぇ!裏切り者の毛利をひねり潰せ!」


村上武吉ら村上水軍は秀吉と輝元により所領の能島を追われ、海賊としての立場を失っていた。

元親は放浪中に武吉に所領の変換と長宗我部水軍への加入を打診した。

これを武吉は快諾したが家中の反対の声などもあり、やっと決断したのだ。


「村上も味方につけっとは……

やっぱいおもしてか男や!鬼若子じゃ!」


そう言って義弘は笑いながら軍の先頭に立ち毛利兵を斬り殺した。


「叔父上には歳って言葉がなかとな……

負けてられん!

そん首貰うど!」


負けじと豊久も斧で敵をなぎ倒した。


毛利勢は混乱し右往左往するも全方面から攻撃してくる長宗我部軍に為す術もなく討たれていくだけだった。


「ええい!ワシは逃げるぞ。熊谷!ついてこい!」


負けを察した元康は熊谷と共に逃亡した。


「全く……恥を晒してまで命が惜しいか……。」


秀包は2人が逃げたあとの本陣で呆れて言う。


「殿、我らも逃げた方が……」


「ここで逃げたら死んだ者共に顔向けできん。私は戦うぞ。」


この時点で益田と清水もそれぞれ十河と島津に討ち取られ三千以上の兵士が倒れていた。


秀包は騎馬に跨ると


「父上……兄上……。私に力を!我こそは毛利元就が8男、小早川秀包!者共、ついて参れ!」


薙刀を突き上げ兵たちを鼓舞した。

しかし毛利軍の大半は既に戦場から逃亡し残るのは二千程度だった。


逆に存英らが本陣に突入する。


「貴様が大将か!四国を狙った罪を死をもって償うが良い!」


「その旗印、十河殿か!かかって参れ!」


秀包は存英の一撃を薙刀で受け止めると、逆に存英に一撃を喰らわせた。


「まだまだ!」


存英は一瞬よろけたがすぐに立て直した。


「さすがは三代目鬼十河……見事だ。」


「お主こそ、やるではないか。」


2人が体制を立て直した激突しそうになった時だった。


「動くな!」


秀包が後ろを振り返ると村上武吉が鉄砲隊と共に銃口を秀包に向けていた。


「武吉、貴様……。」


「お前は生け捕りにしろと旦那は仰せだ。ついてきてもらうぞ。」


こうして秀包は捕らえられ元親の本陣に連れてこられて。


「武吉、存英、ご苦労さま。話すのは久しぶりだな。」


縄で縛られた秀包を見て元親が言う。


「14年振りですな。随分と歳を取られたようで……」


「そんなに経つのか。お前の養父か兄かは知らんが隆景殿には世話になった。」


「兄上はいつも申しておられました。宮内少輔は西国一の兵だと。」


「それは違う。俺の元に西国一の兵共が集まってるだけだ。」


それを聞き秀包が辺りを見る。


「優れた大将ということですか……。良き戦を見れてこの秀包、思い残すことはありませぬ。首をはねてくだされ。」


「いや、俺そういうのしないんで。」


それを聞くと秀包は仰天した。


「バカにするのも大概にしてくだされ。私とて将でござる。敗戦の責任を取り死ぬ覚悟は……」


「殿は負けたものを殺そうとは致しませぬ。どうぞ妻子の元へ帰られよ。」


親茂が言う。


「左様。我が殿もそれは元親に感謝しておられた。」


清良も続く。


「そういう事だ。俺は家臣に与える領地以外、興味はない。」


(下田で皆殺しにしてたじゃないか……)


近くにいた家臣達はそう思ったが言わないことにした。


「勝てる相手ではなかったか……。お心遣い感謝致します。」


秀包は深々と頭を下げると縄をほどかれ陣を出ていった。


「さて、みんな本当に感謝してる。侵略したことは戦国の世とはいえ本当にすまなかった。身勝手だが御家再興も認めるしもし子供がいなかったらウチから養子も出すし、本城は返す。本当にありがとう。」


元親は援軍に来たもの達に感謝した。


「らしくないことを言うな。それさえ認めてくれれば俺達は家臣として貴様を支えるぞ。」


清良がそう言って膝まづくと他の者達も膝まづいた。


「そうか。ならこれからはしっかりと信親の事、支えてやってくれ。」


元親はそう言うと親茂に話しかけた。


「親茂、孝頼と忠兵衛(忠澄)の遺体は……」


「既に回収させました。2人とも損傷が激しくて見れる物ではありませぬ。」


「そうか……。あいつらに感謝の言葉のひとつも送れなかった。やっぱまだまだ半人前だな。」


「最終的には殿の勝ち戦です。2人もあの世で喜んでおるでしょう。」


親茂が元親を励ます。


「そうか、そうだな。んで鬼島津よぉ。なんのつもりだ?」


元親は陣の端にいる義弘と豊久を睨みながら聞いた。


「島津は良き戦をすっ。良き戦をすっ相手は尊重すっし毛利ん子せがれに従うほど落ちてんおらん。」


義弘が言う。


「毛利より俺を選んだって訳か?」


「左様。西国武士ん戦いに心惹かれたちゅうわけや。」


「んでこっからどうすんだ?」


「九州は如水に制圧されちょって戻れん。お主ん指揮下に入ろう。」


「なら先鋒は任せたぞ。」


「任せい。」


「おっしゃ。お前ら勝鬨の時間だ!エイエイオー!」


元親が勝鬨を上げると他の者も続いた。


翌日、大坂城には這這の体で逃げてきた元康と秀包が頭を下げていた。


「それで四万五千も兵を与えてやったのに宮内少輔如きに負けたのか……」


「誠に申し訳ありませぬ。まさか島津や村上が裏切るとは……」


元康は必死に弁明しようとしている。


「輝元様、まずはこの敗戦を隠蔽するべきかと。伏見城を包囲している者にこれが漏れれば味方の士気にも繋がります。」


「左様なことお主に言われなくても分かっておるわ!おのれ、長宗我部め。西国の覇者は我が毛利であるぞ……。その首、洗って待っておけ。」


輝元は秀包という男が嫌いだった。

隆景は輝元よりも秀包を可愛がっており実際、秀包は輝元よりも優秀で家中からの信頼も厚かった。

だから四国征伐の大将にしてやったのにこのザマだ。


「元康はここに残れ。秀包は自身の屋敷にて蟄居しておれ!」


「ははっ。」


秀包が去った後、輝元は元康に聞いた。


「敗戦の責任は誰にあるのじゃろうな。お主か、それとも秀包か……。どちらじゃ?」


「そ、それは……」


「どちらじゃ、元康!!」


一瞬戸惑った元康だったが輝元に怒鳴られ睨みつけられた事でビビってしまい


「ははっ。我が弟、秀包の責任でござる。兄としてどんな罰でも受けまする。」


「そうか、なら責任のある秀包の首をここに持って参れ。良いな?」


「はっ!ははぁ!」


そしてその日の夜


「何か騒がしいな……グッ!」


屋敷の外に出ようとした秀包の胸に矢が突き刺さった。


「兄……上……」


「許せ、秀包!」


元康は秀包に刀を突き刺した。


「そうか、死んだか!責任を取ったことだけは褒めてやる。」


輝元は秀包の首を見て満足気だった。


(殿は正気では無い……。毛利は大丈夫なのか……)


元康は毛利の行く末を心配した。


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