59 一掃
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東海道の清洲城へ向けて光秀の命令を受けた池田輝政は駿河14万石の中村一氏と伊豆7万石の堀尾吉晴を指揮下に加え22000の軍を自身の居城吉田城に集合させた。
「正則め……日頃より賤ヶ岳の七本槍の自慢ばかりしてもううんざりしておった!この手で首をはねるのが楽しみじゃ!」
輝政と正則は仲が悪いのを知っていて光秀は輝政を大将にしていた。
だが輝政が思っていたよりも正則の抵抗は少なかった。
豊臣秀頼の命令を受けた討伐軍に対して正則は驚きと焦りのあまりに迅速に対応出来なかったのだ。
「まずい、まずいぞ!このままではワシは謀反人じゃ……」
器の小さい正則は清洲城の天守を右往左往していた。
「殿!このままでは城下に吉田侍従の軍が入ってきますぞ!」
輝政の名前を聞いて正則の目の色が変わった。
「あやつが大将だと!?随分偉くなったものだ!才蔵、我が軍はいくら動員できる?」
「多くて8000でございます。」
家臣の可児才蔵が答えた。
「まあ良いわ。桶狭間にて迎え撃てば運気も開かれよう。」
そうは言ったものの正則は桶狭間の戦いを知らない。
ただ桶狭間に行けば何とかなるという安直な考えで動いているのだ。
さらに言えば尾張はかつて輝政の統治下にあり、尾張の民衆は所詮信長の陪臣の正則より乳兄弟の真柄であった恒興の息子の輝政の方が好きであり戦いたくはなかった。
「尾張の者をあまり傷つけたくはない。矢を撃ち投降すれば命は助けるし罪にも咎めないお伝えよ。」
輝政がそう忍びに命じるとその文を見た尾張兵は1人、また1人と帰っていった。
「なにぃ!?兵が逃亡しておるじゃと!」
正則はこれを聞いて激怒した。
「尾張はかつては吉田侍従の所領であり奴と戦いたくないものも多数おるのでしょう。」
「ええぃ!逃げる奴は殺せ!」
「そうは申されてもまもなく桶狭間です。」
「とりあえずそこで対策を練る。一旦休憩じゃ。」
「殿……」
才蔵は呆れてしまった。
それで討ち取られたのが今川義元なのだ。
「はっはっはっ。奴は本当にうつけじゃのう。全軍一気に攻めよ。奴の首をここに持ってまいれ!」
それを好機と見た輝政は総攻撃を命令し22000の大軍が正則に襲いかかった。
「殿、敵襲でござる!ここはお逃げくだされ。」
「ぐぬぬぬ。覚えていろよ、輝政!」
「敵の将じゃ!討ち取れ!」
池田家の侍大将が才蔵目掛けて斬りかかると才蔵はそれを難なく交わし逆に十文字槍を侍大将の背中に突き刺した。
さらに雑兵が5.6名襲いかかって来たのも返り討ちにした。
才蔵が奮戦する中、逃げる正則を池田家の鉄砲隊が補足した。
「見つけたぞ!清洲侍従じゃ!撃てぇぇぇぇぇぇ!」
50人ほどの鉄砲の照準が正則の背中を狙いそして鉛玉が襲いかかった。
正則は何も言わずその場に倒れた。
「福島正則討ち取ったりぃぃぃぃ!」
その声が桶狭間にこだました。
それを聞いてもなお才蔵は戦ったが間もなく力尽き立ったまま動かなくなった。
「これはなんと申すのじゃ?」
輝政は正則の首よりもその才蔵の遺体に興味を持った。
「可児才蔵と申すもので福島家随一の武勇の持ち主です。」
中村一氏が説明した。
「正則には勿体ない男じゃ。私が召抱えてたかったくらいじゃ。」
輝政は才蔵に手を合わせた。
その頃同時進行で伊予正木の加藤嘉明と淡路洲本の脇坂安治を討伐する軍も出陣した。
嘉明に対しては長宗我部信親の兵7000と藤堂高虎の兵3000の計1万が当たり安治には信親の弟の香川親和の兵5000が当たった。
「抵抗しても勝ち目はない。開城する故に配下の命は助けて貰いたい。」
嘉明は無駄な抵抗はせず信親と高虎にそう頼むと切腹した。
安治も多勢に無勢、自刃して果てた。
信州飯田城の浅野幸長は父長政により殺害、仙石秀久は城を捨てて逃亡し越後にて捕縛され処刑、残るは隈本城に篭もる加藤清正のみとなった。
しかし加藤勢も攻め手の九州勢も長きに渡る朝鮮出兵の疲れからか士気は低く特に九州勢の足並みが乱れていた。
「金吾中納言を旧領に戻し直ぐに援軍として向かわせろ。」
光秀はそう命令した。
これはつまり小早川秀秋が旧領に戻るということである。
早速、筑前に入った秀秋は9000の兵を率いて諸大名と合流し隈本城をあっという間に攻め落とした。
秀秋はそのまま捕縛した清正を京まで連行した。
「はっはっはっ。これこそが真の武士の戦いぞ。治部少にこの様な真似は出来まい!」
「おのれ!金吾め!治部少が憎いなら何故ワシらに付かん!」
両手を後ろで縛られ竹籠に入れられた清正が言う。
「主計よ。お主とは違いワシは頭が回るのでな。」
そんなやり取りを続けながら秀秋は尼崎にて軍を止めた。
「お主は京にも大坂にも入れるなというのが本庄中納言の命令じゃ。ここでお主には死んでもらう。」
そう言って秀秋が合図すると竹籠に周りの兵士が槍を突き刺した。
清正は体中から血を流し籠の中で息絶えた。
豊臣秀吉を古くから武功にて支えた諸将が光秀によってあっという間に一掃された。
「次は内府じゃ……覚悟しておけ。」
6人の首を眺め光秀は思った。




