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58 三成襲撃事件

徳川家康の趣味は薬作りと鷹狩である。

信長や秀吉のように茶道などに興味はなかった。

しかし家康は茶の湯で薩摩の島津維新入道(義弘)をもてなした。


「島津殿、先の朝鮮における働き、お見事でござる。ワシの方から島津殿に新たに所領を与えたいと思うております。ご期待くだされ。」


家康は島津所領内の豊臣家蔵入地を勝手に島津に渡すつもりだった。


そして家康は翌日は文治派の増田長盛、その次の日には長宗我部信親の元へ訪れた。


「おお、これは内府殿、いかがな御用で?。」


信親は突然の来客に驚いた。


「いえいえ、たまたま近くを通りかかったのでご挨拶しておこうと。お父上は?ご息災か?」


「最近は旅に出て何をされているのやら。ささ、お上がりくだされ。」


信親は家康を案内し酒を出した。


「土佐殿の近頃の豊臣家への忠節、あっぱれでござる。それに応えるために、讃岐の3万石を長宗我部殿に与えようと考えておる。」


この3万石は十河存保のものだったが存保が2年前に病死してからは豊臣家の直轄領になっていた。


「それは有難い話ですが、讃岐は元々生駒殿の所領。生駒殿の方が私よりも豊臣家譜代の家臣であり生駒殿の方が相応しいかと。」


信親は光秀よりいずれ四国は返すから家康に加増すると言われてもその話に乗るなと命じられていた。


「それは残念じゃ。にしてもこの酒は美味い酒でござるな。」


調略に失敗すると家康は信親を褒めまくった。

信親も機嫌が良くなった雰囲気を出していた。

家康が帰った後。


「やはり加増を申し出てきたな。」


「中納言殿の仰せられる通りでしたな。にしても我らは本当に中納言殿についてよろしいのですか?内府殿と大殿は親しき真柄では?」


親茂が聞く。


「父上が中納言につけと申すなら中納言につくまでじゃ。それに今讃岐の3万石に食いつくよりいずれ待てば四国90万石が手に入る。それまで待つのじゃ。」


信親は西の方見て言った。


家康が島津に手を出したと知った光秀は島津の弱みにつけ込むことにした。

島津の強さである四兄弟体制は既に亡く知恵の歳久と軍略の家久は既に亡く、今は惟新と彼の兄で先代の龍伯(義久)、惟新の嫡子忠恒による三つ巴の対立関係にあった。


「豊臣に親しい惟新入道を内府が崩そうとするなら我らは豊臣を憎んでおる龍伯じゃな。」


「どうやら、内府はあくまでも政治的な話はしておらぬようです。こちらはどう致しますか?」


高虎が聞いた。


「間接的に内府がするなら我らは直接やる。それだけじゃ。」


光秀としてはめんどくさい言い回しよりも直接言う方が島津のようなタイプの人間は良いと考えた。

そしてその考えは正解だった。


「龍伯殿は天下に名をとどろかせた島津の大将、島津家を取り仕切るのは龍伯殿しかおられません。いずれは肥後のうち20万石を加増しようと考えております。」


肥後の20万石は小西行長の所領である。

光秀は明確に小西行長の所領を与えると言ったのである。


「摂津守はどうすっとな?」


龍伯が聞く。


「無論、武断派、文治派共々消えて頂こうと考えております。」


「ははは おもしてか。ではそん時が来れば島津は中納言殿ん手足となり働きもんそ。」


龍伯は笑いながら言った。


「ではその時が来るまでは、内密に。」


そんな風に光秀と家康が諸大名を切り崩していき年が明け、前田利家が死んだ。


「前田殿が亡くなられた今!治部少を討つ時が来た!」


「そうじゃ!あの者はワシらを蔑ろにし誠に腹ただしい!」


甲冑を身にまとった福島正則と加藤清正が完全武装の男たちに呼びかけた。

並ぶのは黒田長政、浅野幸長、加藤嘉明、脇坂安治ら武断派の諸将である。


「おめえら、気ぃ抜くんじゃねえぞ。」


そして中央に立つのは仙石権兵衛だ。

権兵衛は武断派の兄のような存在で三成の事を快く思っていなかった。

他の6名が頷くと


「出陣じゃ!!」


権兵衛が大声を上げ完全武装の100名ほどの一団が出陣し三成の屋敷に突入した。

しかし三成はいない。

屋敷はもぬけの殻だ。


「今頃は奴ら、私を探しておるだろうな。」


三成はその騒ぎの声を駕籠の中から聞いていた。


「しかしいずれ見つかるのも時間の問題です。ここは本庄中納言の所へ向かいましょう。」


そう提案したのは三成の家老の島左近だ。


「本庄中納言だと!?私が何故奴のところに!」


「おそらくこれを仕向けたのは内府。それを本庄中納言に訴えれば内府を始末したい本庄中納言は必ずや力になるでしょう。」


左近は策士であり光秀が武断派を始末したいのも分かっていた。


一行は早足で豊臣御所へ向かった。


「殿!石田治部殿がお会いしたいと!」


「何!?治部少が?」


重利の報告に光秀は驚いた。


「直ぐに通せ。」


光秀の前に訪れた三成は涙ながらに訴えた。


「如何いたした。服も乱れておるし息も切れておる。茶でもお出ししよう。」


「お目通り頂き有り難き幸せ。どうぞ私をお助けくだされ。」


「助ける?お主を助けるとは?」


三成は武断派に襲撃しその裏に家康がいることを説明した。


「なんだと!私的な婚姻では飽き足らず上方にて騒乱を起こすとは……とりあえずその襲撃に参加した諸将を国元にて蟄居とさせる。あとは内府以外の大老を至急ここに呼び寄せよ!又兵衛と勝定は直ぐに手勢を率いて城の門前に鉄砲隊を並べよ。」


光秀はこの時を待っていた。

家康と親しい武断派が暴走するのは目に見えておりそれを家康が容認していたのは確実だ。

ここで武断派を家康も一掃するつもりだった。


「ここに石田治部がおるのは分かっておる!城を開けよ!」


正則が怒鳴った。


だがここで突入すれば鉄砲隊の餌食になるのは彼らも分かっていた。


「お主らは誠に呆れた!秀頼様のお膝元で兵を上げ上方を不安に陥れた。これは明らかな謀反行為じゃ。それぞれ己の国元にて蟄居せよ!」


光秀が城から出て怒鳴りつけた。


「俺に指図できるとは偉くなったもんだな!久太郎!」


権兵衛が怒鳴る。


「身の程をわきまえぬ者には武を持って制するのみじゃ。鉄砲隊構え!」


150の鉄砲隊が一斉に照準を権兵衛らに定めた。


「くっ。承知致しました。どうぞ寛大な処分を……」


刀を捨てそう言ったのは長政だ。

それを見ると他の者も武器を捨てすごすごと帰っていった。


そして翌日、豊臣御所に家康以外の大老が集まった。


「とりあえず、実行した張本人である7将は国元にて蟄居させました。私はこのまま謀反人として討伐したいと考えておる。」


「私もそれに賛成です。これ以上動乱を持ち込まれては困る。」


宇喜多秀家が言うと他の者も同意した。


「では宇喜多殿は秀頼様からの御命令を仰いで来て下され。清須侍従(正則)には吉田侍従を始め東海道諸将、左大夫(幸長)と越前守(権兵衛)には甲府侍従と真田安房守、それと私の家臣を付けましょう。左馬助(嘉明)、淡路守(安治)には土佐侍従と佐州(高虎)、主計頭(清正)には鍋島加賀守、小西摂津守と柳川侍従(立花宗茂)を当てましょう。」


光秀がそう言うと毛利輝元が反応した。


「甲州(長政)は如何致す?」


「甲州の父、如水は天下に知れ渡る軍才の持ち主。敵になると厄介です。当家預かりとし黒田家は如水養子の一成に継がせるというので如何でしょう?」


「黒田に対しては慎重にせよということですか。」


景勝が聞く。


「左様。それこれを裏で操っていた徳川内府についてじゃが。」


光秀が言うと氏郷はやっぱりと言う表情を浮かべ輝元と秀家は驚いた。景勝は無表情だ。


「おのれ!内府め!あれほどまで太閤殿下より恩を受けたにも関わらず!ワシが討伐してくれよう!」


秀家が言う。


「いえ、戦になると厄介です。内府は隠居させ結城家を継いだ結城少将(秀康)に跡を継がせようと考えております。」


光秀が答えた。

結城秀康は光秀に懐いておりなおかつ家督を継げずに家康を恨んでいた。


「その上で三河、遠江に移そうと考えておる。」


「なるほど。それは良きお考えですな。しかし内府がそれを受け入れるでしょうか?」


輝元が聞いた。


「受け入れさせる。抵抗すれば軍事力を使うのじゃ。」


「しかしそれを同時にやるのは厳しいですな。先に謀反人共を成敗致しますか?」


景勝が聞いた。


「そうじゃ。各々はもし謀反人共が抵抗した場合、内府が反抗した場合、どちらにも備えていつでも出陣できるようにして頂きたい。」


もう光秀は大老筆頭のような振る舞いだった。

禄高的には輝元の方が多かったが2万石の差であり実際光秀の方が政治的センスは上だった。


早速、淀殿を通して秀頼より7将討伐が命じられた。

彼らの母親のような存在の秀吉正室の北政所は反対したが聞き入れられず逆に光秀によって幽閉された。

討伐されるのを恐れた諸大名は誰も異を唱える者はいなかった。


「誠に私はよろしいのですか?」


豊臣御所に呼び出された長政は光秀に聞いた。


「あの中ならお主は頭も良く、先を見る目がある。どうせ清須侍従にでも言い寄られたのだろ?それにお主の父には小牧・長久手での借りがある故にな。」


「左様でしたか……。それでこれより私はどうすれば?」


「私は今、諜報に藤堂佐州を使うておる。しかし奴は大名故に自領の事もある。それ故にお主には私の耳になって貰いたくて呼んだのだ。」


今まで黒田如水の息子ということしか評価されなかった長政はこれに感動した。

自身が得意とする諜報を正当に評価してくれたからである。


「寛大なご処分、祝着至極の極みでございます。」


長政は涙を流しながら光秀に頭を下げた。

光秀はこうして新たな人材を獲得した。

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