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57 仲裁

お待たせしました。

ここから歴史を崩し、破壊していきます。

秀吉が死んだ日、伏見には雨が降っていた。

光秀はその雨に打たれながら織田秀信の屋敷に向かった。


「おい、久太郎!大丈夫か!」


びしょ濡れになりながら深夜に訪ねた光秀を秀信は手厚く出迎えた。


「まあ湯漬でも食え。それで深夜に来るとは只事ではあるまい。太閤が死んだか?」


「殿は……信長様は……」


「お祖父上がどうかされたのか?」


「信長様は豊臣秀吉に暗殺されるように仕向けられました!」


それを聞いて秀信は絶句した。

まさかとは思っていたがまさかの事だった。


「それは誰から聞いた!?」


「秀吉本人でございます!あの者は明智日向守を追い込み、明智日向守の性格につけ込み信長様と信忠様を!」


「人の弱みにつけ込んだが!許せん!今すぐにでも奴を斬り捨ててくれるわ!」


「秀吉は死にました。秀信様、いえ殿!これこそ好機!今こそ秀吉に奪われし天下を取り返し織田家を再興致しましょうぞ!」


「わかった!しかし今は早すぎるのでは無いか?」


「前田利家さえ消えてしまえば徳川と石田で戦が起きるのは明白。そこで両者を弱らせ尽く討ち取りその後、秀頼を討ち取りましょうぞ!」


「わかった。とりあえずは蒲生や池田に伝えれば良いか?」


「秀信様は時が来るまで私にお任せくだされ。」


「わかった。お主に全て任せる!頼んだぞ。」


「ははっ!」


光秀は秀信に深々と頭を下げた。

秀信は明らかに怒っていた。


その後秀信は名前を信秀に改名した。

秀吉の秀の字が先にあることを嫌がったのだろう。

また曽祖父で織田家の勢力を拡大させた織田信秀と同じ名前にすることで織田家がこれより再興することを世に知らしめる意味もあった。


「まずは背後を安全にする必要がある。大崎少将を呼べ。」


光秀は秀吉の死んだ翌日には伊達政宗を自身の屋敷に呼び出した。


「これは本庄殿、この政宗をお呼び出しとは相当なことがあったようにございますな?」


「まずは道中ご苦労。担当直入に申し上げる。貴殿の娘、五郎八姫を我が子政成と婚約させて欲しい。」


「は?」


光秀の突然の申し出に政宗はキョトンとした。


「しかし、太閤の命で大名同士の私的な婚儀は……」


「太閤亡き後、太閤の権威など無きも同然。いずれは伊達家代々の土地を伊達殿にお返しするつもりじゃが?」


領土欲の強い政宗にとってそれは悪い話ではなかった。


「分かりました。では娘は貴殿にお預け致す。」


「あと、蒲生とは仲良くするのじゃぞ。蒲生は某の親友故に。」


「いやぁ、それは少し難しいですな。」


「これは織田秀信様のご意向である。」


それを聞いた途端片目しかない政宗の目が変わった。

政宗は織田信長を尊敬しており孫の秀信も同様である。

その秀信の意向とあれば政宗も逆らえない。


「仕方ありませぬなぁ。ははは。」


その後光秀は伏見城に向かった。

大老の合議によって朝鮮の豊臣軍は撤退させることに決まった。


その後光秀は長宗我部信親の屋敷に行った。


「いやぁ、堀殿、こうして話すのはお久しぶりですな。」


「そうですな。ところで土佐殿のご息女はお幾つになられました?」


「1番上の娘は12になります。そろそろ貰い手が欲しいところですな。」


「実は1人、良きお相手がおりましてな。」


「ほう、誰でござる?」


「岐阜中納言様の弟御吉侍従様です。」


「岐阜中納言殿の……」


「信親殿の烏帽子親は亡き信長様でござる。御吉侍従様も是非嫁に欲しいと。」


信親の娘は斎藤利三の姪の娘である。

すなわち明智家の縁者と織田家の人間が婚約するというのは光秀にとって重要な意味があった。


「承知致した。娘のことを良しなにと侍従殿にお伝えくだされ。」


「これはめでたい話でござる。それとお父上は?」


光秀は信親に聞いた。


「いや、2年前に土佐に流れ着いた南蛮人と親しくなってからというもの港の整備をし始めたり四国中の回ったりしておられたのですが昨年末に呂宋に行くと言ったきりでして。」


「呂宋!?呂宋まで行ってあのお方は何をお考えなのじゃ。」


まだ四国を取り返す上で四国中を回るのはわかるが呂宋に行くのが光秀には理解できなかった。


「分かりました。お帰りになられたらご一報を。」


その後光秀は京の豊臣御所に行った。

秀吉は遺言の中で秀吉の死から50日が経てば前田利家は豊臣秀頼と共に伏見から大坂に移り伏見には家康、そしてここには光秀が入るように命じていた。

つまりこの出来たての城があと1ヶ月足らずで光秀の物になるのだ。


「なかなか豪華な城じゃ。誠にこれが私の物になるとは。」


「ここを改築していずれは信秀様に入ってただきますか?」


秀満が聞いた。


「いや、ここは内裏と我らを繋ぐ場所じゃ。藤孝と前田玄以に入ってもらおうと考えておる。」


朝廷にパイプのある2人をここに入れることで織田、堀家の立場を上げる事を光秀は狙っていた。


その頃、石田三成は名護屋城へ向かっていた。


「殿、徳川内府と本庄中納言。どちらが先に動くでしょう。」


家臣の島左近が聞いた。


「おそらく内府じゃ。というよりもまずは内府を捻り潰さねばならん。秀吉様に逆らいながらも命を許され筆頭家老の座を与えられておるのに……恩知らずな奴め。」


名護屋城に入った三成らは帰国した加藤清正と黒田長政を出迎えた。


「お二人共、朝鮮ではご苦労であった。近日、京で茶会など行い働きを労いとうござる。」


「ふん!ワシら毎日毎日死ぬ気で戦っておったのに。茶会とは気楽なものよのう。」


清正はそう吐き捨てるとさっさと歩いていった。

長政も一礼すると清正を追いかけた。


武断派と文治派の対立は決定的だった。


現時点で豊臣家の大名は前田利家ー文治派と徳川家康ー武断派、そして堀秀政ー文武派に別れていた。

家康は武断派の諸将と私的に婚姻関係を結び武断派との結び付きを強めていった。

しかし利家が大坂に入ってからこれが露見してしまった。


「おのれ、狸め!直ぐに諸大名を屋敷に集めよ!あやつの首をはねてくれるわ!」


この利家の呼び掛けに毛利輝元、上杉景勝、宇喜多秀家、佐竹義宣、立花宗茂、増田長盛、長束正家、そして三成らが集まった。

対して家康を守らんとした武断派諸侯が伏見の家康屋敷に集まった。


「2人とも気が短いのう。ここはひとつ私が仲介してやるか。」


「誠に良きお考え。これで殿の名声はますます上がりますな。」


光秀と信秀は不敵な笑みを浮かべた。


まず光秀は大坂の前田屋敷に向かった。


「おお、本庄殿。来てくださったか。」


利家はそれを出迎えた。


「随分と気が短いのう。利家。」


そう言って光秀の後ろから出てきたのは信秀だ。


利家の顔が青ざめた。


「婚姻ごときでここまでの大騒ぎになるとはお主らいい大人であろう。」


「しかし!これは亡き殿下のご遺命でござる。」


「で、あるか。しかしわしの弟と長宗我部の娘の縁談には何も申さぬのじゃな。」


秀則改めて信則と信親の娘の縁談も三成は追求しようとしたが利家がそれを止めた。

信秀が怖かったのだ。


「あっ、それはその……」


「言い返せないか。では誓書を」


信秀が言おうとした所を三成が遮った。


「お待ちなされ!いくら織田家のお方とはいえ亡き殿下のご遺命を蔑ろにするなど言語道断。それ相当のお覚悟があってやられるのでしょうな?」


「なんと無礼な!身の程をわきまえよ!」


利長が刀に手をかけ三成に言った。


「無礼はどちらか!前田殿は大納言であり秀頼君の後見人。いくら旧臣とはいえ岐阜中納言殿の方が無礼じゃ!」


黙って聞いていた諸侯の中から毛利秀元が三成に言った。


「お主のその真面目さには不愉快じゃ。ワシは帰る。」


秀元が出ていくと吉川広家も続いた。


輝元はキョトンとしていた。


この時点で2人は文武派であり毛利の所領をいずれは2人で分割するという光秀の調略に合っていたのだ。

それも秀吉が死ぬ2年前からだ。


それを見た輝元も2人を追いかけ立花宗茂、佐竹義宣らも出て行き残ったのはひたすら無言の上杉景勝と三成ら奉行衆のみとなった。


「前田殿、信秀様は事を穏便に終わらせたいとお考えです。もし前田殿が一旦徳川殿に譲歩なさるなら信秀様から徳川殿に今後このようなことはしないと誓書を出させます。よろしいです?」


「あいわかった。お力添え感謝致す。」


利家は信秀と光秀に頭を下げた。

光秀は心底気分が良かった。


「さぁ次は家康じゃな。」


家康の屋敷に向かう信秀が光秀に言った。


「そうですな。簡単に行くと良いのですが……」


徳川屋敷に2人が着くと家康は手厚く出迎えた。


「これは信秀様。ようこそお越しくださいました。」


「随分と騒がしくしてくれたのう。この騒動の責任を取って腹でも斬ってくれるのか?」


信秀が聞いた。


「いや、これは前田大納言殿が始められたことで。」


「どの道お前達のせいで我々まで戦の危機に晒された。だが此度は許してやろう。」


「今後このようなことはしないと誓書を前田殿に提出して頂きたい。」


光秀が家康に言った。


「は、ははぁぁ。寛大な処分。誠にありがとうございます。」


家康も2人に頭を下げた。

光秀の機嫌はさらによくなった。


「ははは!豊臣政権の権力者ふたりがあそこまでヘコヘコと頭を下げるとは気分が良いのう!」


光秀は屋敷に帰ったあとそれを思い出して高らかに笑った。


「父上、太閤殿下の御恩に背くようなことをしてよろしいのですか?」


秀成が聞いた。


「何を言う。今の堀家が栄えておるのは全て信長公と父上の手腕。そうでございましょう?」


秀治がそれに答える。


「まあそういうことじゃ。明日は秀信様をこの城に迎える。それゆえ今日はもう寝る。」


光秀が寝た頃、家康はイライラして爪を噛みちぎっていた。


「なぜワシが!あのような若輩者に頭を下げねばならん!」


「殿!もう少しの辛抱です。大納言さえ亡くなれば天下は我らのもの!」


正信が抑えようとするが家康のイライラは止まらない。


「明日は島津の屋敷に行く。そのあとは長宗我部じゃ。武断派共だけでは信用ならん!」


家康は武断派だけではなく外様大名にも手を回そうとしていた。


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