55 魔王の後継者
もしかするともしかしてもしかするかもしれませわん
ちなみにそうめんに関しては関ヶ原でそう書いてありました
慶長3年の春、秀吉の体調が優れなくなった。
「藤孝殿、内裏にこれを献上してくれ。」
光秀は細川藤孝を呼び出し金貨やら銀貨やらが大量に入った箱を藤孝に渡した。
「このような大金……。いよいよだな。」
「ああ。徳川内府よりも先に朝廷に近づくのじゃ。某は伏見に行ってくる故頼むぞ。」
伏見城には亡き小早川隆景を除いた七大老と奉行衆が並んでいた。
「小早川中納言殿。朝鮮において大将ながら先陣を切り敵陣に乗り込んだ。これは軍の指揮官として有るまじき行為でござる。何か申し開きは?」
三成が聞いた。
その目線の先には青ざめた小早川秀秋がいた。
「石田殿、小早川殿はまだお若く武功を焦るのは仕方なき事にござる。それに首を上げられたとか?」
家康が何か言おうとする前に蒲生氏郷が聞いた。
最近体調が優れなかったが光秀が紹介した医師によって氏郷は体調が良くなっていた。
「武功を焦るのを抑え、指揮を執るのが大将の役目。それにその首級ら逃げる敵の首、すなわち追首でござるぞ?」
三成が言い返す。
「追首がダメなら某が小牧・長久手で挙げた首の半分以上は追首でござる。されど殿下はそれを功としてくださったが?」
光秀も負けじと言った。
一瞬家康の顔が暗くなった。
小牧・長久手の戦いで光秀が挙げた首というのは家康の重臣の榊原康政や大久保忠世らである。
「お前には呆れたわ。そんな奴には越前15万石でも与えとけ。」
そう言うと秀吉は去っていった。
もうヨレヨレであり三成や利家らの介護がないとまともに歩けそうにも無い。
秀吉が居なくなると直ぐに光秀は家康よりも先に秀秋の元へ向かった。
「金吾殿、残念でござるがいずれは某が所領をお返ししよう。それまでは辛抱なされよ。とりあえずは金吾殿は伏見に残り家臣を送れば良い。」
「ははっ。どうぞよしなに。」
秀秋は頭を下げた。
「おのれ、あの小僧。ワシが考えることを全て先に実行してきおる。」
家康はイライラしていた。
自分がやろうとしていることを全て光秀がやってしまうのである。
「これは厄介ですな。しかし本庄中納言は何をするつもりでしょう。」
家康の参謀であり友とも言うべき本多正信が言った。
前田利家、長宗我部元親や鍋島直茂と同い年であるがそれらの中で最も老け込んでおり老獪という言葉が最も相応しい男だ。
「秀吉が死んだ後に謀反の疑いありとでも言うて攻め滅ぼすか?」
「会津中納言(氏郷)が厄介ですな。それに吉田侍従(輝政)や甲府侍従(長可)は本庄中納言と懇意でむしろ我らが危ういかと。」
「ううむ、どうしたものか。」
秀吉の家康封じ込め政策は光秀にとってプラスな要素しかない。
光秀と氏郷の所領を合わせれば200万石を超える石高を持ちだいたい家康の2倍の兵力を動かすことが可能でありさらに西より輝政と長可に圧力をかけさせれば家康など一溜りもないだろう。
「むしろ、本庄中納言を取り込めば良いのでは?石田治部当たりに挙兵させて西国の諸大名を一掃させたあと九州にでも移して滅ぼせば良いでしょう。」
「それは名案じゃ。あとは誰が味方につくかじゃな。」
家康と正信は自分たちに味方しそうな大名を出し合った。
だがその大名たちの中には家康ではなく光秀が次に天下を握ると予想し光秀に近づき始めた。
藤堂高虎もその1人である。
「いやいや、佐州殿の働きはあっぱれじゃ。大洲1万石を加増しようと思うのじゃが……どうじゃ?」
「はっ。有り難き幸せにござる。」
高虎は光秀に頭を下げた。
「しかし佐州殿の実力にその程度の石高とは殿下も見る目がありませぬな。」
「なんと……勿体なきお言葉でござる。」
「お主がもし某に付いてくるのであれば20万石いや30万石は与えると約束しよう。」
これが石田三成や加藤清正のような秀吉譜代の家臣なら釣れなかっただろう。
しかし高虎は別段秀吉には恩義などなかった。
「誠に祝着至極の極みにござる。であればこの高虎、本庄様の駒になり働く所存にございます!」
(やはり所領にこだわりなど無い連中は上手いこと釣れるのう。)
30万石というと織田家時代の光秀の石高程はあるが高虎の優秀さを考えれば妥当な量である。
翌月、秀吉は七大老と奉行衆を呼び出した。
その命令は諸大名を集めて利家と家康宛に改めて秀頼に忠誠を誓う血判状を出せとの命令であった。
正直、光秀は任されないと思っていたがやはり家康に先を越されるのは悔しかった。
だが悔しそうにしている人物がもう1人いた。
そしてその人物に光秀は目もくれなかった。
そして翌日、前田利家の屋敷には朝鮮に在陣している大名を除けば100人近い人でごった返していた。
「ったくよぉ。こいつらはほんとにうるせえな。」
政宗が耳をほじりながら周りを見渡した。
秀吉の子飼いの大名らは座る場所ひとつで揉めている。
「輝政!お主が何故ワシより前なのじゃ!」
「馬鹿言え!俺は50万石、お主は20万石ではないか!俺の方が前なのは当たり前だろう。」
「殿下に仕えたのはワシの方が先じゃ!そこをどけ!」
福島正則は輝政に掴みかかろうとしていた。
元々この2人は仲が悪いのだ。
「やはり尾張の連中は下品じゃのう。」
増田長盛が長束正家に耳打ちした。
それを正則は聞き逃さなかった。
「あぁ?近江の連中は高貴な存在だってか!?バカに仕上がって!」
「そうじゃ!小賢しい!」
浅野幸長も続いた。
屋敷に来た光秀は驚いた。
しかしちょうどいいところに織田秀信と信雄嫡男の織田秀雄がいた。
「秀信様、秀雄様。誠にご立派になられ喜ばしい限りでございます。」
光秀は2人に頭を下げた。
秀雄の父を殺した原因は光秀だが秀雄はそのような事は気にしていなかった。
「おお、これは本庄中納言。苦しゅうないぞ。」
秀雄が機嫌を良くする反面秀信は機嫌が悪そうだった。
「おい、久太郎。あいつらにもうワシは我慢ならん。もし何かあったら連中の首を撥ねて屋敷を燃やせ。」
「は?」
信長みたいなことを言う秀信に光秀はキョトンとした。
そんな光秀を他所に秀信は立ち上がり中央に立つと
「ええぃ!貴様ら先程から大の大人のくせにだらしない!静まらんか!」
それを聞いて諸大名は驚いた。
「信長様!?」
長可や忠興らはその気迫に信長を感じとり頭を下げた。
「なんだと小僧!」
正則はそれを感じ取らずに秀信の所へ行こうとした。
しかし足が動いていなかった。
秀信は無言で正則を睨みつけていたがその目力はまさに信長そのものである。
「ううっ。」
正則も恐れおののき指定された席に戻った。
そんな時利家と家康がやって来た。
そして2人とも驚いた。
唖然とした顔で利家が
「各々方、暑い中お疲れであろう。どうぞお食べくだされ。」
そう言ってそうめんを持ってこさせた。
「で、あるか。」
秀信が低い声で言うと
利家も家康も頭を下げるしかなかった。
光秀も驚いていた。
まさか秀信にここまでの気迫があるとは思ってなかった。
「秀信殿、立派になられてワシは嬉しいぞ。」
席に戻った秀信に織田秀包が挨拶しに来た。
他の大名は冷や汗を書いていたが秀包だけはむしろ嬉しそうだった。
いや、光秀も氏郷と利家も嬉しかったがそれを表情に出すことが出来なかった。
「大叔父上!褒めてくださりますか?」
秀信は少年のような顔に戻り秀包に聞いた。
「当たり前でござろう。亡きそなたのお祖父上や父上もお喜びじゃろう。」
「そうか!ハッハッハっ!」
褒めて喜ぶところまで信長そのものだった。
しかしその瞬間家康は気づいた。
堀秀政は天下を自分が取るつもりではない。
天下を織田家に戻すつもりだということに。




