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50 秀次事件 ⅰ

「秀次様が謀反!?」


その話を聞いとき光秀は驚いた。


(あの者が謀反するはずは……)


「殿、我らは秀次様と親しくしておりました。殿下に我らは関与していないということをすぐに釈明しに行かねばなりませぬ!」


秀満が言う。


「ああ、そうじゃな。すぐに伏見に向かうぞ。」


早速光秀は伏見城の秀吉の元に向かった。


「秀次様が謀反の報せを聞き飛んでまいりました。我ら堀家は元より謀反には関与しておりませぬ。」


「なんじゃ、そんなことを言いに来たのか?言われなくてもお主が謀反に疑いなどかけておらぬ。そもそも秀次に謀反の疑いありと申したのはそなたの所の直政ではないか。」



「直政がですか!?」


光秀は驚いた。


「なんじゃ、知らんのか?奴が京の町衆が噂をしておると報告しおった。それで調べてみれば京や大坂、堺と畿内中で噂されておる。まあ主君が優秀だと家臣も優秀なのじゃな。追って褒美を遣わす。」


秀吉の衝撃の発言に光秀は屋敷に戻るやいなや秀満の胸ぐらを掴んで聞いた。


「貴様、私に内密にやってくれたな!?」


「これは殿のために細川殿が仕向けたこと!私はそれに従ったまでです!殿は秀次と親しくしすぎでございます!」


それを聞くと光秀は秀満の胸ぐらを離した。


「親しくなどしておらぬ、奴が私を慕っているだけ。案ずることは無い。」


秀満に言われて光秀は我に戻っていた。

豊臣秀吉は憎き存在でその甥、秀次も等しく憎い存在だということを思い出したのだ。

つまり秀次が蟄居させられるのは光秀にとっても好都合だった。


まもなく秀次に石田三成、前田玄以、増田長盛ら奉行衆が誓書の提出を求めた。


秀次は朝廷の重役を通じ誓書を出し何とか取り持って貰うために朝廷に白銀を献上した。

これがまずかった。


さらに家臣を毛利輝元の元へ派遣し密約を結ぼうとしたという有り得ない話を石田三成が秀吉の耳に入れた。


話の真意を聞くために秀吉は秀次を伏見城に呼び出したが事実無根だとして秀次は拒否した。


この時点で秀吉には秀次を殺す意思は無かった。

しかし秀次が邪魔な淀殿と石田三成が秀次を殺すべしと秀吉を唆していた。


結局秀次の元家老の中村一氏や堀尾吉晴の説得もあり秀次は伏見城に出向いた。


「秀次様、殿下は貴殿とはお会いなさりませぬ。暫くは粕谷武則殿の屋敷にて蟄居されよ。それが殿下のご命令にございます。」


伏見城の門前で石田三成が秀次に言った。


「何故じゃ!なぜ叔父上はワシに会ってくださらぬのじゃ!」


「殿下は謀反人と話す気など無いと仰せでございます。」


「くっ……」


悔しげな顔で秀次一行らが戻ったあと、


「木村常陸介殿を捕らえました。如何致しますか?」


信繁が三成に聞いた。


「即刻首をはねよ。謀反人とその一派は一族共々処断せねばならぬ。」



結局秀吉は淀殿に唆され三成らに秀次の家臣達を蟄居させるように命じていた。


これは蜂須賀小六と共に秀吉を初期から支えた前野忠康も例外ではなかった。


「そうか……刑部。殿下は変わられてしもうたのう……。」


使者の大谷吉継から切腹の下知を聞いた忠康は悲しげに空を見上げた。


「墨俣に城を築いた時は大変じゃった。殿下が長浜城を与えられた時は我が事のように嬉しかったのう。それが今では天下の主じゃ。どうか殿下のこと頼んだぞ。」


「はっ。命に変えましても。」


この後忠康は自害した。


だがそれを聞いて驚いたのは光秀である。


「なぜ噂程度でここまでの事態になっておる!?秀吉は阿呆なのか?」


「どうやら淀の方と石田治部らが奴を唆したようで……」


利三が言う。


「思った以上に大変なことになってしまった。これでは秀次も終わりじゃのう。」


光秀も利三も2人とも冷や汗をかいていた。


自分達が行ったことがここまでの事態になるとは思ってなかったからである。


「殿!細川越中殿がいらっしゃいました。」


「越中殿が!?」


突然の意外な来客に光秀は驚きながらも忠興を部屋に案内した。


「実は大変お恥ずかしいことなのですが……秀次様から借金をしておりそれで殿下から疑いをかけられております。それ故少しで良いので金を貸していただけぬでしょうか……」


(あの婿殿がここまで頭を下げているなど珍しい事もあるものだ……)


「無論、お貸しいたす。少しとは言わず全額出そう。」


「全額!誠によろしいのですか?」


「当たり前じゃろう。幼き頃より知るものが困っておるのじゃ。力を貸すのは当たり前であろう。その金は返さなくて良いから戦でその分尽力してくれ。」


「ははっ!この越中、中納言殿から受けたご恩は忘れませぬ!」


忠興が果たして光秀の味方をするか怪しかったがここで光秀は忠興が自身の味方になることを確信した。


(案外この一連の騒ぎ、某にとって好機やもしれん。)


光秀は去っていく忠興を見ながらニヤリと笑った。

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