44 潔白
「又兵衛、お主が迎えに行ってこい。」
「ははっ!」
「伊達殿を警戒しすぎでは?」
三成が2人に問う
「もし伊達が経験豊富で分別のつく者ならば問題は無いがあの小僧は負けを知らん。それゆえ何をしてくるか分からぬ。」
氏郷が言う。
その頃、名生城大手門では
「我は伊達越前守政宗である!ご開門願おう。」
「堀家母衣衆、井尻又兵衛由俊でござる。どうぞこちらへ。」
「ふん!随分俺も警戒されたものだ。ここに木村殿はいらっしゃる。ご無事で有られるゆえ蒲生殿にもそう伝えよ。」
「待たれよ。拙者、石田治部少輔と申す。殿下より上洛せよとの命にござる。」
帰ろうとした政宗を三成が呼び止めた。
「俺になんの疑いがあると?」
「一揆に関与した疑いでござる。」
「殿下はそのような根も葉もない噂を鵜呑みになされるのか?」
「なぜ断られる?もし無実なら素直に上洛される筈であろう。」
三成にそう言われると政宗は少し焦った顔をしたあと
「よかろう。そこまで仰せられるなら出向いてくれるわ。」
こうして政宗は上洛しそれに光秀と氏郷もついて行くことになった。
「まずは堀、蒲生両人に伝えることがある。」
「なんでございましょう。」
秀吉に2人が聞く。
「お主らを従三位中納言及び清家格に任ずる事になった。しかと働くように。」
清家格ということは公家の家格の中で2番目の家格に値する。
現状でこの家格に値する武家は徳川、毛利、上杉、前田、宇喜多であり2人もここに列せられることになる。
「有り難き幸せにございます!」
「それと政宗も侍従に任ずる。それでどう申し開くのじゃ?」
「はっ。私は花押に穴を開けることにしております。されどその書状の花押に穴はあるでしょうか?」
「どうなのじゃ?」
秀吉が三成に確認させた。
「確かに穴はありませぬ!」
「お待ちくだされ!そのような都合のいい話、聞いたことがございませぬ!」
それに氏郷が反論した。
「ふん!なかなか面白いやつじゃ。もう良い。追ってどうするかは知らせる故もう帰って良いぞ。」
秀吉が言うと政宗はさっさと出ていった。
「殿下!あれは嘘にございます。あの田舎者の言うこと信じてはいけませぬ!」
「しつこいぞ!そこまでお主が不甲斐ないやつだとは思ってもおらなんだわ!」
そう言うと秀吉は出ていってしまった。
「実は最近、ご嫡子鶴松様の体調が優れぬのです。先月大和大納言様が亡くなられたばかりというのに。」
官兵衛が教えてくれた。
「左様でございますか。申し訳ございませぬ。」
氏郷が謝罪した。
(政より自分の息子の方が大事とはいつまで経っても甘いのう、秀吉。)
光秀は内心秀吉を嘲笑った。
その後2人は忠興の屋敷に招かれた。
そこには輝政、利長、長重らも来ていた。
「おお、お二人共わ中納言に任ぜられたそうですな。おめでとうござりまする。」
3人が2人の中納言任官を祝った。
「中納言であろうとなかろうと某はいつでも堀久太郎じゃ。それより皆集まって何を話していた?」
「今はもし次に天下を取られるのは誰かという話をしていた。氏郷殿はどう思う?」
忠興が聞く。
「無論、前田様であろう。毛利は宇喜多に止められるし徳川は我らが止める。されど前田様を止められる大名はおらぬ。」
「私では力不足か?」
長重が苦笑いで聞く。
「それはありがたいが後ろから上杉に突かれる故無理でござる。」
利長が言う。
「では島津や長宗我部は如何かな?」
輝政が聞く。
「島津は九州さえ取れればどうでも良いであろう。長宗我部は確かに都からも近く天下への野望もあるだろうがいかせん他の大名より規模が小さい。」
光秀が言う。
「では久太郎殿は誰が天下を取るに相応しいと?」
忠興が聞く。
「織田秀信様以外有り得ぬだろう。あのお方こそ天下を取るに相応しいお方よ。」
それに他のものは皆驚いた。
秀信は信長の孫だが大した所領も与えられていない。
「確かに家格で言えば秀信様ですがやはり力不足では?」
輝政が驚いた顔で聞く。
「それはそうだ。だからこそ我らが秀信様をお助けするのだ。我らが今ここにいれるのは誰のおかげか忘れてはないだろうな?」
「確かに秀政殿の申される通りじゃ。」
長重が言うと他のものも同意した。
すると松井が青ざめた顔で入ってきた。
「大変でござる!鶴松様が亡くなられたとの事!」
「なんじゃと!?」
この知らせは直ぐに諸大名にも届いた。
大体の大名は悲しんだが喜んでいる大名も少なからずいた。
「そうか!嫡男が死んだか!そのままやつも失意のうちに死んでしまえ!」
「そうじゃ!九州を取り返せる日は近いぞ!」
九州薩摩の島津義久と義弘は鶴松の死を喜んだ。
長宗我部元親に至っては喜びのあまりに酒を飲んだ勢いで信親に家督を譲ってしまった。
徳川家康配下の忍びの動きも活発化し天下は不穏な方向へと向かっていった。




