43 居城
今回はクレヨンしんちゃんのあの叔父さんが出てきます
1度越前に戻った光秀は春になるまで待ち、近臣達を引き連れ武蔵へ入った。
既に代官として入っていた秀満に案内され
とりあえずは河越城に入った。
「ここがかつて北条氏康公が8万の軍を打ち破ったという河越城か……。」
今から50年ほど前に去年滅びた北条氏の当時の当主北条氏康は10倍の兵を夜襲で打ち破っていた。
「なかなか良き城ではありますが少し造りが古く天守閣はありませぬ。新たに城を築かれる方がよろしいかと。」
「直政の言う通りじゃな。ではこの城は直政に任せよう。もし南で何かあればここを最前線にしよう。」
ということで河越城を中心とした8万石が堀直政に与えられた。
次に光秀達は春日城に訪れた。
この城の国人領主、春日和泉守は一行を出迎えた。
「ようこそ、お越しくださいました。何も無い土地ですがどうぞごゆくっり。」
「何も無い土地ではあるが春日合戦の事は聞き及んでおる。貴殿の采配のおかげであろう。」
天正2年に北条家家臣の大蔵井高虎率いる2万の兵を3000の兵で打ち破った和泉守に光秀は会うのを楽しみにしていた。
「あれは私の働きではありませぬ。ここに控えておる又兵衛のおかげにございます。」
「井尻又兵衛由俊にござりまする。」
横にいた長身の男が深深と頭を下げた。
「ほう、この者が。確かに戦に強そうな雰囲気をしておる。」
「勿体なきお言葉にござる。」
「それで堀様にお願いがありまする。」
「なんじゃ?申せ。」
「この又兵衛はこのような田舎に置いておく将ではありませぬ。どうか堀様の元で召抱えて頂けぬでしょうか?」
「殿!?」
和泉守の申し出に又兵衛は驚いた。
「おお、それは良い。丁度母衣衆を結成しようと考えていたのじゃ。お主には知行3000石とその筆頭を任せよう。」
「有り難き幸せにございます!」
2人は頭を下げた。
「では又兵衛よ。これからは某のために働いてくれ。」
「ははっ!命に変えましても!」
こうして新たに優秀な人材を獲得した光秀は次に上野にほど近い本庄城に入った。
「何とも粗末な城ですのう。」
石垣すらもないその城を見て秀勝が小言を叩いた。
「うむ。ではここを建て直して居城にするのはどうだろうか?ここなら我が領地の中央にあたり有事の際にも対応できる。」
「良きお考えにございます。されど城が完成するまでは何処に?」
義明が聞く。
「箕輪城に入ろうと思う。某が出たあとは利宗に任せる。あと義明は沼田城、秀勝は宇都宮城を任せる。皆任せたぞ。」
利三と秀満が7万石なのに対し光秀は義明と秀勝には10万石を与えた。これは秀吉から与力として付けられていたためである。
こうして光秀の新たな領国経営が始まった。
その時の春に東北で大規模な一揆が起きた。
光秀は両国に入ったばかりだったため動員されなかったが秀次を大将とした大軍が編成された。
そのうち陸奥中部での一揆には蒲生氏郷と伊達政宗が当たることになった。
そこで氏郷と政宗の間で軍議が開かれることになった。
しかし氏郷はそこで政宗が一揆を煽ったと知らされた。
「殿。おそらく伊達は我らを一揆勢の仕業にして討ち取るつもりかと……」
氏郷の重臣の関一政が言う。
「同じことを私も思っていた。あの男ならやりかねん。」
「明日の対談が心配でござる。」
「案ずるな。私に策がある。」
翌日会談が行われた。
「これはようこそ、お越しくださいました。ささ、お座りなされ。」
政宗直々に氏郷を出迎え氏郷は上座に案内された。
「我らが率いる兵は8000、伊達殿は15000。ここは伊達殿の城であそばれよう。伊達殿がここに座られるべきでござる。」
「なんと、ワシのような若輩者よりも殿下の信頼厚い蒲生殿が座られるのは当たり前のことでござる。」
「それでは座らさせて頂く。」
「道中お疲れであろう。どうぞお召し上がり下され。」
氏郷や家臣達に膳が運ばれてきた。
「おお、これは持て成し有難い。どうぞ伊達殿もお食べくだされ。」
そう言うと氏郷は膳の上から肉を取り政宗の前に置いた。
「なんと無礼な!殿に毒味をせよと申すか!」
伊達政宗の従兄弟の成実が怒鳴る。
「お裾分けするのは上方では当たり前のことでござる。私も家臣たちも皆、近江や伊勢の生まれ故。ささ食べられよ。」
氏郷が政宗の目を見て言った。
政宗は片目で氏郷を睨みつけた。
両者が睨み合い1分ほど経った頃。
「少し腹を下してしまったようにござる。申し訳ありませぬがワシはここで。」
政宗が腹を抑えて退室して行った。
「我々の任務は一揆を鎮圧することでござる。それゆえ私はこれにて。無駄なことはお考えなさるな。」
氏郷は政宗の家臣たちを見下しながら部屋を出ていき家臣もそれに続いた。
「あのような猿芝居で私を欺けるなど……私も舐められたものだな。」
敵の城に行軍する最中、氏郷が関に言った。
「この儀、殿下に報告致しますか?」
「無論報告せよ。それと伊達が謀反を起こした時の備えの軍を送ってもらいたい。出来れば堀殿か上杉殿が良い。」
「承知致しました。」
この知らせは直ぐに秀吉に届いた。
「佐吉!お主が見て参れ。それと久太郎にも兵を出すように命じよ。」
「ははっ!承知致しました。」
こうして石田三成と光秀も奥州に派遣されることになった。
「左少将は考えすぎではないか?もし謀反を起こせば袋叩きにされるのは目に見えておる。」
その報せを聞いた光秀は怪訝そうな表情で三成に聞いた。
「田舎武者は分別が分からぬのです。動員兵については25000と決まりました。」
「承知致した。しかしお主も大変じゃのう。」
「私は殿下のためならばどこへでも行きまする。」
「良い家臣を殿下は持たれたものじゃ。では兵を集めて向かうとしよう。」
奥羽に到着した光秀を氏郷は手厚く歓迎した。
「お待ちしておりましたぞ。堀殿がおられるほど心強いことはありませぬ。」
「私の役目はお主を守ることじゃ。にしても誠に伊達が一揆を煽動したのか?」
「ええ、こちらをご覧くだされ。これの花押はどう見ても政宗のものでござる。」
氏郷が見せてきたおそらく一揆勢に向けての書状には政宗のものと思わしき花押があった。
「治部殿、これを殿下に至急届けよ。」
「ははっ!」
三成は氏郷からその書状を受け取ると直ぐに走って行った。
「にしても木村殿も厄介な所に配された。ものじゃ。おそらく佐々様のように許されぬであろう。」
「ええ。しかしまずは政宗を処するべきでしょう。」
「殿!一大事でござる!」
関が青ざめた顔でやってきた。
「伊達が木村殿を救出したそうにございます!」
「なんと!?」
一揆勢に囚われていた木村吉清を政宗が救出したのである。
「それでどうすると?」
光秀が聞く。
「ここ、名生城に届けるとのことにございます。」
「堀殿、いつでも戦えるように鉄砲隊をお願い致す。」
「わかった。もしもの時に備え皆準備せよ!」
城の動きが慌ただしくなった。
元ネタでは大倉井高虎は独立大名となっていますが本作では北条氏の家臣という設定にしています。
その方が現実味があるので……
又兵衛は死んでますが急所を外れ助かったとでも解釈してください。
葛西一揆と九戸政実の乱は史実では時系列が違いますがこれは史実を元にしたフィクション作品なので御容赦ください。




