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36 成政

その頃日向国根白坂で秀長軍と島津軍が激突し島津軍は35000の兵のほとんどが討死するという大損害を被った。


それを受け島津家は石田三成を窓口に降伏したいと申し入れ当主義久が剃髪し降伏。

秀吉の九州平定はここに終了し小早川隆景に筑前、筑後37万石、森吉成に豊前半国6万石、大友家家臣立花宗茂、佐々成政に肥後50万石、筑後13万石そして黒田官兵衛に豊前半国6万石が与えられた。


光秀はかつて織田信長の黒母衣衆の筆頭であった佐々成政に大名復帰を祝うため彼の陣に訪れた。


「此度は大名復帰の儀、お喜び申し上げまする。」


「堅苦しい挨拶など良い。もはやお主は越前68万石の大大名、オヤジ殿(柴田勝家)以上では無いか。」


「例え大領を与えられようと佐々様は某の上司でござる。」


「はっはっはっ!流石は信長様のお気に入りだった男なだけある。気を利かせるのが上手いのう。だがワシに気など使わなくて良い。それに五郎左殿や滝川殿から話は聞かされておる。三法師様のことは任せるぞ。」


「何を申されます。佐々様も前田様もいらっしゃるではありませぬか。」


「犬千代はダメだ。あの野郎は藤吉郎の親友。それにワシはおそらくもう長くない。」


「肥後の統治がですか?」


「左様。肥後は元々国人意識の強い国。そこをワシに任せたとは藤吉郎はいずれはワシを処分するつもりじゃろう。槍働きは出来てもワシに国を治める力はない。達者でな、久太郎。」


光秀が初めて成政に会ったのは35年前、あの時のまだ若々しい成政の目は何も変わっていないように見えて少し悲しい目をしていた。


数週間後。


九州平定を祝う茶会が京で開かれた。


「これで西に敵はおりませぬ!」


氏郷が光秀に酒を注ぎながら言った。


「うむ。残るは関東の北条のみだと考えて良いですな。」


但馬と因幡を与えられ晴れて30万石の大名となった忠興は上機嫌で仲の悪い氏郷にもフレンドリーだった。


「しかし奥州の伊達が怪しい動きをしているそうでござる。」


長重が言う。


「伊達など調子に乗って佐竹にしっぽを逃げて返った若造ではないか。我だけでも討てる相手よ。」


忠興が意気揚々に言う。


「苦っ!」


そこから少し離れたところで元親は茶を1口飲んだ途端吹き出した。


「お主は礼儀作法の欠けらも無いのか?」


隆景が呆れながら声をかける。


「俺は酒を飲みてえんだ。茶はどうも合わん。」


「だったらあちらで殿下の子飼いの者共が飲んでおる。若者に混ざって飲んできたらどうだ?」


向こうでは福島正則や加藤清正達が酒を飲んで盛りあがっていた。


「そりゃ参加したいこった。って信親の野郎なんであそこにいるんだ……」


信親も彼らに混ざって酒を飲んできた。


「全く親子揃って酒好きとは……。」


「まあ良いではありませぬか。酒を飲むのは悪いことではありますまい。」


唖然とする隆景の横に徳川家康が座って話しかけてきた。


「おおこれは大納言(家康)殿、こうして話すのは初めてでござるな。」


隆景は慌てて一礼した。


「そういえばそうでござるな。是非とも厳島の戦いのことなどお聞かせ願いたい。」


「おお、家康!久しいな!」


元親が家康を呼び捨てで呼ぶと隆景が慌てて元親を注意した。


「なんと無礼な!徳川殿は従二位大納言、しかも殿下の弟君であるぞ。口の利き方に気をつけぬか。」


「無礼も何も家康とは10年前から呼び捨てで呼び合っているぞ。」


元親がそう言うと隆景がキョトンとした。

元親と家康は小牧・長久手では共に秀吉と争ったものの領地は離れており面識があるはずがないと隆景は考えていたのである。


「実は10年ほど前に安土で元親と知り合いましてな。そこからはこのような関係なのです。」


「なるほど。それは知りませんでした。すまぬな、長宗我部殿。」


隆景は素直に謝った。

その頃先程隆景が指さしていた子飼い衆は森長可の酒の強さに唖然としていた。


「ふん!殿下の古参の者共がどの程度のモンか気になったが大したことはねぇな!」


長可は既に5本の日本酒を瓶ごと飲み干していたがそれでもまだいけそうな雰囲気であった。


「では私が御相手いたそう!」


信親はそう言うと5本続けざまに飲み干した。


「これで互角じゃ!どうですかな武蔵殿。」


「どうですかもこうですかもお前は殿下の子飼いでもなんでもねえだろ……」


横にいた清正が言った。


「ああそうであったな!はっはっはっ!」


「まあ良いでは無いか!信親はワシの次くらいに武勇に優れておるしな!」


顔を真っ赤にした福島正則が意気揚々に言う。


「なにぃ!?武勇で1番は俺だろ!」


加藤嘉明が立ち上がる。


「いや俺だろ!」


平野長泰も続く。


「なんじゃと?なら今決めてやるわ!」


正則にスイッチが入る。


「こいつらといると阿呆になりそうじゃ。そろそろ父上のところに戻るわ。」


それを後目に信親はさっさと帰っていった。


「しかし奴らはいつでもうるさいのう。茶会に酒を持ち込む阿呆がおるか?」


浅野長政が呆れた目で子飼い衆を見る。


「まあ若いうちは騒げば良いものじゃ。それにあやつらがこれからの豊臣の矛と盾になるであろう。」


官兵衛が言う。


「そうじゃ。ワシと又左も昔はあのような感じだったしのう。」


秀吉が利家の方を見て言う。


「そんな昔の話はやめてくれよ。」


「はっはっはっ!」


秀吉が高らかに笑うと他のものも笑い先の戦の緊張感からはかけ離れた空気に一体は包まれた。


すると三成が青ざめた顔で秀吉の元に訪れた。


「申し上げます!肥後で大規模な一揆が起きた模様!その規模約35000!佐々殿より至急救援の要請が!」


「なんじゃと!?直ぐに北九州の諸大名に兵を出すように命じよ!四国勢も兵を集め待機せよ!」


和やかな空気が一瞬で崩壊した。


(成政……)


光秀は成政の無事を密かに祈った。

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