35 魔王
翌年3月には九州に秀吉率いる20万の軍勢も入ることになった。
既に北九州は毛利軍と長宗我部軍により制圧されており日向より秀長、肥後より秀吉本軍が入りそこに光秀も組み込まれた。
小倉城に入った秀吉軍はそこから島津方の秋月家を攻略するため堅固な岩石城を蒲生氏郷や前田利長を抑えとして残し古処山城を攻めることにした。
「では古処山は与一郎に任せるとしよう。」
「お待ちくだされ!ここはまず堅固な岩石を落とす事により我らの恐ろしさを敵に見せつけるべきでござる!」
ほくそ笑む忠興に対し氏郷が反論した。
「左様!ここはどうか我と忠三郎殿にお任せくだされ!」
前田利家の嫡男利長も氏郷に続いた。
「馬鹿言え!無駄に兵を死なせてどうする!」
秀吉の隣にいた利家が2人に指摘する。
「されどここで、敵を前にすごすごと別の城に向かうのは今後の殿下の威信にも関わるやもしれませぬ。ここはまず岩石を落とし敵の士気をくじくべきかと。」
光秀が利家に反論した。
「うーむ。なら秀勝を大将とし忠三郎と孫四郎(利長)に岩石を任せる。しくじるでないぞ。」
2人の表情が明るくなる中、忠興は舌打ちし秀吉の甥の秀勝はめんどくせえなという顔をしていた。
秀吉の命を受けた3人は早速岩石城を包囲した。
「前田殿が搦手口、私が大手口より攻め込みまする。よろしいですな。」
「ああ構わぬ。さっさとねじ伏せてしまえ。」
やる気に満ちる2人に対し秀勝にやる気は無さそうだった。
「あの者共!我に手柄を取られるのが怖いのか!」
逆に忠興は自陣でイライラしていた
「細川殿、落ち着かれよ。聞いた話、殿下はこの戦の後、細川殿に但馬と因幡を与えるととか。」
長重が宥めようとした。
「因幡と但馬じゃと?あそこは先の戦で死んだ南条や宮部の領地ではないか。」
「ですからあの者らが亡くなり今は殿下の奉行衆が管理しておりまするがそれを細川殿にお任せするとの事です。」
「なるほど!ならまあ俺は我は手柄を立てる必要などないな。」
忠興の機嫌が収まった頃氏郷と利長は一気に岩石城に雪崩込んだ。
城兵3000は抵抗したが2人の勢いに飲み込まれ一日で城は落ちた。
「はっはっはっ!さすがは豊臣の次世代を担うものよ!」
「しかし殿下、細川殿を差し置いて良かったのでしょうか?」
城が落ちたことを聞き上機嫌の秀吉に光秀が質問した。
「大丈夫じゃ、奴にはこれまでの功に酬いるため因幡と但馬を与えるつもりでおる。お主も含め畿内には出来るだけ若手の頼れるものを置いておきたいのでな。」
「では丹羽殿は何故?」
「久太郎、分かっておらぬようじゃがワシはもう織田の家臣では無い。まだ織田の威光があった頃は丹羽は必要だったが今の豊臣家に丹羽の力など必要ない。それに織田の譜代が畿内のすぐ北におるなどワシには耐えられん。」
「では殿下は三法師様を如何なさるおつもりですか?」
三法師は信長の孫で秀吉により後継者として確立されていたが今は織田信包の元にいた。
「まあ元服すれば美濃か尾張に10万石程度で良いじゃろう。しかし長宗我部の力を削げぬのは失敗だったわ。」
「どういう事です。」
「本来なら権兵衛に命じて島津と長宗我部を激突させ宮内少輔も信親も討死させてしまう算段であったがわざわざ大坂まで出向かれて直訴されてまで権兵衛に任せるとは言えなかったのでな。」
「毛利から小早川を独立させたのもそれが狙いですか。」
「そうじゃ。力のある勢力は降伏していようが弱体化させる必要がある。ワシは信長ほど甘もうはないぞ。まあお主には期待しておるがな。」
そう言うと秀吉は去っていった。
(この者、本当にあの猿なのか……?)
もはや信長以上の残忍さを見せ始めた秀吉に光秀は困惑するしか無かった。




