33 戸次川の戦い
長宗我部家の運命の日が来ました
毛利輝元率いる3万と長宗我部元親率いる1万の軍勢はそれぞれ豊前と豊後に入った。
毛利軍は門司城に入りそこから小倉城を包囲した。
小倉城の伏兵戦法により毛利方の先鋒の三浦元忠が苦戦したりしたものの吉川元春の活躍もあり小倉城は落城。
この報せを聞いた周辺の城も毛利軍に降伏し始めた。
「兄者!毛利の勢い相当のもんじゃ!どうする?」
その知らせを聞いたとき島津家の島津義弘が兄で当主の義久に聞いた。
「まずは豊後の大友と長宗我部を粉砕しその後全軍で毛利を包囲殲滅致しましょう。」
3番目の弟の歳久が提案した。
「うむ。それが良いじゃろう。肥後からは義弘、日向からは家久に任せる。」
「お任せくだされ!」
一番下の弟の家久は駆け出していった。
「全く討死せねば良いのですが。」
歳久が家久を心配そうに眺めながら言った。
「あいつが討死するわけがなかろう。」
島津義弘が言った。
「にしても毛利家最強の吉川元春殿と戦えるのが楽しみじゃ!」
義弘は毛利家の吉川元春との対決に心を躍らせながら出て行った。
だが義弘の期待は裏切られた。
吉川元春は陣中で病死した。
元々老体に鞭打っての出陣だった。
更に義弘勢は岡城を攻撃したが城主の志賀親次に大苦戦した。
それに対し家久は豊後の鶴賀城を包囲した。
包囲を初め数日。
「そろそろ仕掛けるぞ。全軍かかれぇぇぇ!」
家久が命じると島津勢は恐ろしい勢いで城を攻め2日のうちに城は落ち城主以下ほとんどが討死した。
「こりゃまずいねえ。日向からは島津義弘の3万も迫ってきてるしここらで1発かましてやるしかないな。」
府内城に詰めていた元親がそう言うと
「持久戦を行なえとの命令でしたが致し方なし。この戸次川で敵を食い止めましょうぞ。」
藤堂高虎も同意した。
こうして長宗我部勢1万と島津家久勢1万が戸次川を介して睨み合うこととなった。
「相手は土佐の出来人か……。釣り野伏せが効くかのう。」
家久が家臣の新納忠元に聞いた。
「かなり厳しいですな。しかし豊臣の四国の大将は仙石というかなりの阿呆だと聞き及んでおります。」
「此度その阿呆は従軍しておるのか?」
「どうやら物見によるとその者の旗印があったそうにございます。恐らく大将は仙石かと。」
「ならいっちょ釣ってやるか!土佐の鮫も釣り上げてやるわ!」
だがこれは藤堂高虎の策であった。
相手が仙石秀久だと島津勢に油断させあくまで正面からの迎撃を主体とさせ自らと長宗我部信親の伏兵4000で背後より襲撃し混乱に至ったところを一気に元親本隊と共に攻撃する策であった。
「そりゃ昔俺が使った戦術だ。さては藤堂殿ご存知だったか?」
「はい。長宗我部殿と戦になるかも知れぬと聞いた時に戦術を調べさせて頂きました。」
「勤勉な方じゃ。じゃあうちの信親の事頼んだぞ。」
「父上、ご心配無用でござる。」
信親はニコッと笑うと意気揚々に出陣した。
「何がそこまで楽しいのですか?」
高虎が信親に聞いた。
「相手は天下に聞こえし島津家でござる。それに相手はその中でも武勇に優れる島津家久殿。どのような敵か楽しみで仕方ありませぬ。」
「信親殿は強い相手と戦うのがお好きなのですか?」
「そうです。まだ見ぬ強い相手と戦うことこそが私の生きる道です。」
「若、お言葉ですが長宗我部の未来を背負ってることをお忘れなく。」
親茂に釘を刺され信親は少し不機嫌になったがそれよりも期待の方が大きかったらしく直ぐにまた小年の笑顔に戻った。
そんな軍が近づいているとも知らない島津勢の囮部隊が長宗我部家に攻撃を開始した。
だがそれを予想していた長宗我部勢の銃撃に囮部隊は撤退した。
それを長宗我部の兵500が追いかけた。
その長宗我部兵が川を渡ろうとするといっせいに島津勢が襲いかかった。
「まて!数が少なすぎる!あれは本軍じゃねえ!」
家久が気づいた時既に背後には信親と高虎の軍勢が陣取っていた。
「どちらが敵の首を多く取れるか勝負しましょう高虎殿!」
そう言うと信親は薙刀を持ってかけだして行った。
「お待ちくだされ信親殿!」
高虎も焦って馬を走らせた。
「なんじゃ。思ったより数が少ないのう。」
長宗我部勢を迎え撃った新納忠元は少し不思議に思い始めた。
長宗我部勢が少なすぎるのだ。
すると早馬が訪れた。
「家久様より言付けがございます!これは敵の伏兵ゆえすぐに兵を引けと!」
「まさか!本陣が危ない!」
気づいた時には遅かった。
背後より一斉に長宗我部勢が襲いかかった。
「島津の者共!我は長宗我部宮内少輔が嫡男信親!我の武勇、しっかりと目に焼き付けよ!」
そう言うと信親は手始めに近くにいた足軽3人を太刀で吹き飛ばした。
「島津は確かに戦は強いが慎重な感じではなくただ敵を殲滅することだけを考えている。それを藤堂殿は見抜いてた。あのあいつすげぇわ。俺達も負けてらんねえ。全軍進め!」
元親が命令すると長宗我部本軍がちょうど後退しようとした島津勢に襲いかかった。
「どうやらこっちが釣られてしまったようだ。こっちが釣り針なら向こうは網か?だが燃えてきた!」
家久はそう言うと目を閉じ念仏を唱え槍を持った。
「薩摩の者共よ!土佐の連中に俺らの強さ見せつけるぞ!チェストォォォォォォォォォォォ!!!」
家久の鼓舞を受けた島津勢は一気に長宗我部勢を迎撃する体制に入った。
「おもしれぇ!全員殺してやるよ!」
長宗我部軍の福留は僅かな供回りを引き連れ島津の鉄砲隊に飛び込んだ。
「なにぃぃ!?」
鉄砲隊長が逃げようとすると福留の刀が隊長の頭を貫きさらに鉄砲隊を縦横無断になぶり殺し始めた。
「なんであいつは鉄砲隊ばかり攻撃してるんだ……」
孝頼はそれを見て少し引いていた。
「島津の鉄砲隊が強力なのは殿もご存知。しかし近距離では役に立たぬゆえ近距離において無敵の存在の福留を使ったのよ。」
親茂はそう言うとかなり離れた頃にいた敵の騎馬武者を弓で貫いた。
「高虎殿、危ない!」
高虎に斬りかかろうとした騎馬武者を見た信親がそれを止めようとしたがその前に高虎が騎馬武者を叩きのめした。
「ご心配無用でござる。どちらかと言えばワシは槍働きの方が得意ですから。」
高虎はそう言うと更に周りの敵兵をねじ伏せた。
「負けてはおれぬわ!」
信親はそう言うと更に敵兵をなぎ倒した。
「家久様!敵の勢い激しくこのままでは壊滅します!」
「チィっ!仙石なんて初めっからいなかったわけか!まんまとはめられたわ、出来人さんよォ!」
そう言い残すと家久勢は戦場側面を大きく迂回して撤退した。
戸次川の戦いは長宗我部元親と藤堂高虎の策略により完全に豊臣方の圧勝だった。
次回は長政メインです




