30 中津川の戦い ⅲ
「鳥居様!井伊隊は壊滅、内藤正成殿と渡辺守綱殿は討死。もはや勝ち目はありませぬ。」
「皆の者!逃げるでないぞ。最後の最期まで戦い抜くのじゃ!」
「ぉぉぉぉぉぉ!」
鳥居が兵たちを鼓舞した。
「これより平岩隊と合流しもう一度突撃する。移動開始!」
鳥居隊は僅かな兵を利三に当て四国勢を足止めしている平岩隊の所へと動き出した。
「そう簡単に逃がすわけがなかろう!撃ちまくれ!」
対する利三隊の攻勢はより一層鮮烈になり鳥居の周りと母衣衆にも鉄砲が命中した。
「もはやこれまでか……」
平岩隊まで辿り着けないと悟った鳥居に鉄砲隊が照準を合わせた。
「元忠も逝ったか。」
その銃声は四国勢と激戦を繰り広げる平岩にも聞こえていた。
「平岩親吉殿だな!我が名は十河孫六郎存保、その首頂こうか!」
「もしやかの鬼十河の息子であられるか!我が首を取って功にされよ!」
こうして平岩も十河存保に首を取られ残った徳川勢は散り散りになって逃げていった。
中山道の徳川軍をほぼ壊滅させた秀次勢は宮部継潤、長谷川秀一、蜂須賀家政ら多数の武将を失い2万近い死傷者が出た。
「申し訳ありませぬ。俺が敵に釣られたばかりにこのようなことに……」
「私も焦りすぎました。どうぞ処罰してくだされ。」
長可と忠興は地面に頭をつけて秀次に謝罪した。
「確かにお主らは焦りすぎた。それは良くない事じゃが敵の首を多数上げておる。それにお主らの失態はワシの失態じゃ。お主らが気にすることではない。」
「左衛門督と信親、それに市松と虎之助はよう戦ってくれた。感謝いたす。」
「もったいのうお言葉でござる!」
清正と正則は泣きながら秀次に頭を下げた。
信親はなんだコイツらと言う顔で二人を見ていた。
「各々方、まだ戦は終わりではございませぬ。これよりは兵を分け支城を落としていくのが良いと某は考えておりまする。」
光秀もが提案した
「うむ、そうじゃな。では隊を新たに分けようと思う。」
秀次により新たな編成が整えられた。
長宗我部信親、加藤清正、福島正則が1番隊
森長可、細川忠興、仙石秀久が2番隊
堀秀政が3番隊
そして秀次本隊である。
「おめえ俺らより歳下だろ?すげえ強えな!」
1番隊に編成された福島正則が大将の信親に話しかけた。
「まあ敵はかなり消耗しておったからな。ところでお主は誰じゃ?」
「なんだとてめぇ!」
「俺達と会うのは初めてなんだ。落ち着け市松。俺は加藤清正、この隣のバカな奴が福島正則だ。」
「どっちも馬鹿そうに見えるが?」
清正の紹介に信親が笑いながら冗談を言った。
「なんだこの野郎!」
清正も怒ると隣に控えていた福留や親茂がそれを見て笑うとバチバチしている3人も笑顔になった。
「いや少しからかってみただけじゃ。2人とも関白殿下の一番槍だそうじゃな。それにしても殿下の家臣は仙石といい黒田の小僧といい喧嘩っぽい奴が多いのう。」
「黒田の小僧っておめえあいつの事知ってるのか?」
黒田長政を信親が知っていることに正則が驚きながら聞いた。
「前に讃岐で俺に夜襲を仕掛けてきた。まあ返り討ちにしてやったがな。」
「ああそう言えば長政が四国でとんでもなく強い武将と戦ったとか言っていたような。」
「じゃあ今か俺と相撲しねぇか!」
正則がいきなり信親に相撲を申し込んだ。
「何言ってるんだお前は。この方は大将だぞ。」
清正が止めようとした。
「いや面白い。かかってこい。」
信親が正則を手招きすると正則は上着を脱ぎ信親に突進した。
「甘いな。」
信親はそれを読んでいるかのように正則の巨体を持ち上げ後ろに投げ飛ばした。
「なに!?」
清正はそれに驚いたが長宗我部の家臣は皆そこまで驚いていなかった。
「こいつ強ぇぇ……」
正則が唖然としていると親茂が寄ってきた
「若殿はお父上から英才教育を受けておられる。そう簡単には勝てぬぞ。」
「まあそれほどでもないがな。まあいつでもかかってくるが良い。相手をしてやる。加藤殿も是非。」
「じゃあいつか。」
1番隊には先程の激戦とはかけ離れた笑い声が聞こえていた。
「まさか婿殿があそこまで愚かとは思わなかったわ……」
逆に光秀は唖然としていた。
長可はともかく忠興は自身と藤孝で軍略や兵法の全てを教えたつもりだった。
しかし今回の戦いでは功を焦り本陣を危険に晒した。
「まあまだお若いのですから仕方ありませぬ。」
そう言う秀満も苦い顔をしていた。
「まったく藤孝殿は何を教えていたのじゃ。功を焦るなとあれほど教えたのに。」
「先の戦で森殿は加増されておりますが細川殿は加増されておられぬ故焦られたのでは。」
利三が言った。
「だとしてもあれではいずれ死ぬぞ。玉が心配じゃわ。」
その頃三河に侵攻した秀長軍の官兵衛の陣では
「秀次様と徳川勢が交戦、宮部殿や蜂須賀殿が討死された模様。」
「そうか。それは残念じゃな。」
そういう官兵衛だったがそこから笑みが零れている事を隣いた長政は気づいていた。




