23 和平交渉
次回は仙石権兵衛がメインです
紀州征伐の後光秀は秀吉に呼び出された。
「おお、久太郎。よう来てくれたな。」
「はは。この秀政、殿のご命令があればどこからでも馳せ参じます。」
「頼もしいことを言うてくれるわい。では本題に入る。官兵衛よ説明してやれ。」
「雑賀衆を滅ぼした今次なる敵は四国の長宗我部でござる。しかしまずは和平交渉をしようと考えておりまする。」
「戦はしたくないと。」
「そういう事じゃ。元親は信雄のような頭でっかちでも所詮寄せ集めの雑賀衆でもない。四国一の弓取じゃ。出来れば血は流したくない。そこでお主に1度説得に行って欲しいのじゃ。」
「左様なことでございましたか。それでこちら側の条件は?」
「讃岐と伊予の割譲若しくは讃岐と阿波の割譲じゃ。だが伊予は毛利が欲しておる。恐らく毛利の小早川が譲らぬであろうから、とりあえずは土佐と阿波の安堵の方向で話を進めてくれ。」
「承知致しました。」
こうして光秀は利三と共に四国へ向かった。
阿波白地城に到着した光秀達は長宗我部家の家臣に案内され大広間に通された。
そこには元親を初め長宗我部の重臣が並んでいた。
「ふざけるな!四国は我らが切り取った地であろう。何様のつもりじゃ!」
信親は光秀から講和の条件を聞いた途端激怒し立ち上がった。
「元々俺たちが羽柴と敵対した原因を秀吉は分かってるのか?」
親泰も光秀を睨みつけた。
「もちろんそれは承知の上です。我が主君があなた方を追い詰めたこと、それが本能寺の変に繋がったこと。」
「つまり秀吉は外道。そのような男の言うことなど聞けるか?」
本山親茂が光秀の前に怒りの目を向ける。
長宗我部家の反秀吉感情は相当なものだった。
「しかし皆様お考えくだされ。ここで羽柴の10万の大軍を相手に戦い今まで30年かけて切り取られた土地を全て失うかこれから10年我慢して四国を取り返すか、どちらか選ばれよ。」
「10年間我慢だと?」
森孝頼が質問した。
「信長公の亡き後織田政権があっさり崩壊したように、我が殿亡き後は羽柴政権はすぐに崩壊するでしょう。そうすれば土佐の出来人と呼ばれる元親殿なら四国は愚か西国の覇者にでもなれまする。」
「それあんたが言っちゃうか〜……」
元親が頭を抱えながらやっと口を開いた。
「それで四国を俺達が取り返したらまた信長や秀吉のような男が現れ俺たちを脅す。そうではないか?」
「その男になるのが某にございます。さすれば四国は長宗我部殿にお任せ致します。」
それを聞くと元親は光秀に近づき目を見つめた。
「亡き明智殿も同じようなことを仰られた。しかし秀吉に討ち取られた。お主は第2の秀吉になりうる男を討てるのか?」
「某が第2の秀吉でございます。主家を乗っ取りかつての主君の子の首を跳ねようと考えております。」
それを聞くと元親は自分の席に戻り親泰と目を合わせた。
「1度皆と話をしたい。それまで土佐で取れた魚でも食べておられると良い。」
「良きお返事をお待ちしておりまする。」
そう言うと光秀と利三は退室して行った。
「どうでしょうか?なかなか厳しい反応な気がしますが。」
利三は気がかりだった。
「元親殿は信長様に似て奇抜な事を好まれると聞く。恐らく効いたであろう。」
光秀の予想は合っていた。
「元親、ここはあの者の言うことを信じるべきだ。」
孝頼がまず口を開いた。
一応は主従の関係だが2人は幼馴染のような関係である。
「あれが天下を取るとか俺は思えねえな。」
儀重は光秀を疑っていた。
「そうじゃ。やはりここは戦をしてでも四国の統治を認めさせるべきです!」
信親も儀重に続いた。
「お前達の気持ちはよく分かる。だがあいつは俺たちが思っている以上の男だ。説明してやれ、忠兵衛。」
親泰が谷忠兵衛に説明を始めさせた。
「は。あの堀秀政殿は徳川殿の数多の奇襲を見抜き榊原、大久保を討ち取り紀州では雑賀衆の圧倒的な攻撃の隙を見抜きあっさりと城を丸焦げに致しました。誠に恐るべし男でござる。」
「丸焦げだと……?」
それを聞くと諸将が青ざめた。
「四国が浄土になるということか……」
信親も光秀の恐ろしさに気づき始めた。
「父上はどうお考えなのですか?」
「戦をすれば兵は死に民は苦しむ。それを25年続けてきて皆もう懲り懲りしてるだろう。いくら俺たちが団結したとしても10万の大軍には勝てない。ならあいつの言葉を信じてみようと思う。」
「依存無し。」
親泰がそう言うと皆それに続いた。
「俺はいい家臣を持った。あいつらを呼んでくれ。」
元親に呼ばれた光秀達は広間に戻った。
「どうなさるか決められましたか?」
「ああ。講和の条件をもう一度教えてくれ。」
「讃岐と伊予の割譲、徳川家康との同盟禁止、羽柴家への人質、羽柴家から命令が出る度の1万の兵役でござる。」
「つまり実質的な降伏ってわけね。」
「そういうことでございます。」
「よかろう。今はあの猿に頭を下げてやる。だが猿が死んだあとは息子のこと頼みますよ、秀政殿。」
元親が頭を下げ家臣たちもそれに続いた。
信親も渋々従った。
「では近日大坂に来てください。殿から正式に沙汰がくだされます。」
交渉は終わり秀政達は帰路についた。
「いやぁ、上手くいってようございました。これも殿のおかげでございます。」
利三は光秀に何度も同じことを言っていた。
「長宗我部はいずれ我らの天下に必要となる存在。こんな所で失う訳にはいかぬ。」
数日後元親が大坂城に訪れた。
「会うのは初めてじゃな。宮内少輔殿。」
秀吉が上座から元親を見下ろした。
「あんたの軍隊は完膚なきまでに叩きのめしたがな。」
「おのれ貴様!」
横にいた仙石秀久が元親に怒鳴りかかった。
「黙れ権兵衛!それでわざわざ鳥なき島から来たということは決意は固まったようじゃな?」
「信長公も俺に同じことを言っていた。つまりあんたは信長公と同じだ。そして俺があんたになる。言いたいことは分かるな?」
「堀殿。私は長宗我部殿が何を申しておるのか分かりませぬ。」
横に控えていた光秀に小声で氏郷が聞いてきた。
「つまり、殿の亡き後に天下を貰うという意味じゃ。」
「なんと!」
氏郷は驚いていた。
その元親の言葉を聞いた秀吉は
「宮内少輔は天下を望むか?それとも四国を望むか?」
「無論天下だ。」
「それはお主の器量では難しかろう。」
「あんたがいる‘時代’ではな。」
それを聞くと秀吉はニヤリと笑い刀を手にかけた。
「殿!何をなされます!」
思わず光秀は立ち上がった。
秀吉は光秀を無視すると元親の前に立ち刀を振り下ろした。
「今までの長宗我部元親は1度死んだ。これより如何するかはお主次第じゃ。」
「この長宗我部元親。これよりは羽柴秀吉様の家臣としてどの戦にも先陣を務めましょう。」
元親が頭を下げた。
周りの家臣たちは皆キョトンとしていた。
「左様か!ならお主に渡したいものがある。ほれ、来るのじゃ。」
秀吉は元親の手を引き外に出た。
「見よ、宮内少輔!わしでも滅多に手に入らぬ馬じゃ。これをお主にやろう。」
秀吉が指さして言ったのは2mはあるかと思われる黒い立派な馬だった。
「有り難き幸せにござる。」
「それとお主の人質は秀長に預け丁重に扱う故安心致せ。鬼若子の働きに期待しておるぞ!」
こうして不穏な空気が流れたものの会見は終了し長宗我部家は正式に羽柴家の配下となった。




