20 旧領
戦争が起こらないと短くなりがちです
小牧・長久手の戦いで勝利した秀吉だったがいい事ばかりではなかった。養子の羽柴秀勝が病死したのである。
これにより光秀の旧領でもあった丹波が空白地となった。
しかし秀吉も味方になってくれた諸将への恩賞を与えないわけにもいかず諸将を大阪城へ呼び寄せた。
まず池田恒興には織田信雄の旧領のうち尾張清洲35万石を与えられ移封となった。
そしてその池田恒興の旧領は森長可に与えられ美濃金山を中心に18万石の大名となった。
蒲生氏郷も伊勢松ヶ島を加増され20万石の大名となる。
信雄を討ち取った滝川雄利と土方雄久も伊勢にそれぞれ5万石を与えられた。
細川忠興や丹羽長重は加増は無かったものの秀吉から報酬が与えられた。
最後に広間には光秀のみが残った。
「さて久太郎。此度の戦で最も活躍したのはお主じゃ。どこでも欲しいところを申すと良い。」
「どこにでもにござりまするか?」
「そうじゃ、どこでもじゃ。」
「では丹波を頂きとうございまする。」
「丹波じゃと?」
「ははっ。先の領主である秀勝様が亡くなられた後丹波は混乱していると聞き及んでおります。なので某がその混乱を沈め羽柴様に安心していただきたく丹波を頂きたいと考えております。」
流石に自分の死んだ息子の土地を寄越せと言われ初めは秀吉もムッとしたがそう聞くと機嫌が良くなった様子だった。
「お主は誠に忠義者じゃのう。ならば丹波亀山29万石はお主に任せよう!」
こうして光秀は堀秀政になってから案外早く丹波に戻った。
早速光秀達は丹波に入国した。
「いやぁまさかこんなにも早く丹波に戻れるとは思えませんでしたな。」
利三も秀満も嬉しそうだった。
早速光秀は丹波の亀山城に入った。
「私も晴れて30万石の大名となった。これも皆が働きのおかげじゃ。お主らの功に酬いたい。まず直政よ。」
「ははっ!」
「福知山城をお主に任せる。」
福知山城は元々光秀が秀満に与えていた城である。
「利宗は黒井城じゃ。」
「お任せくだされ!」
黒井城も利三がかつて治めていた城である。
「勝定は以前柏原城を治めていたと聞いている。今回も柏原城はお主に任せよう。」
「あ、ありがたき幸せにございます!」
勝定は感激していた。
こうして明智家による丹波の支配が始まった。
「あまりあの頃と変わっておらぬな。」
「ええ。あの頃と変わらず活気のある街でござる。」
光秀は城下町を懐かしみながら歩いていた。
「そういえば殿、城下の者が話しておったのですがどうやら町外れの村に天野源右衛門という武辺の者がおるそうにござる。」
利三が光秀に教えてくれた。
「ほう。早速会ってみよう。」
光秀と利三は早速外れの村の天野家へ向かった。
「お主が天野殿か?某は新たにこの地を任された堀秀政と申す。」
田植えをしていた天野は光秀を睨みつけた。
その男を光秀はよく知っていた。
元は利三の家臣で本能寺の変でも先鋒として活躍した安田作兵衛であった。
「お主、もしや安田作兵衛か?」
光秀は目を細め聞いた。
「そのような者は知りませぬな。お引き取りくだされ。」
「そうでござるか。お忙しいところお邪魔しましたのう。」
そう言うと光秀はさっさと帰って行った。
「よろしいですか?殿。」
「ああ。また日を改めて会いに行くとしよう。」
翌日
「また来られたのですか……何度来られようと私の考えは変わりませぬ。」
作兵衛は迷惑そうにしていた。
「では某の考えを聞いて頂きたい。無論聴き逃して貰っても構わぬ。私が亡き信長公にお仕えする前にとあるお方にお仕えしていた。そのお方は私に大きな国を作れと仰った。」
初めは興味が無さそうに田を耕していた作兵衛がふとこちらを見て話しかけた。
「その話は私も聞いたことがありまする。」
「当たり前であろう。某が話したのだからな。」
「どういうことにございまする?」
「某がそなたのかつての主君、つまり明智光秀だからじゃ。」
「ご冗談を。光秀様を討ち取ったのは何を隠そうあなたではありませぬか?」
「もしその弾みで中身が入れ替わっていたら如何致す?」
「まさか……」
「もしお主が某のことを明智光秀だと信じてくれるなら某と共に大きな国をまた作って欲しい。信じないならそのまま静かに暮らしていくと良い。」
そう言って光秀が立ち去ろうとした。
「この安田作兵衛。再度殿にお仕え致しまする!」
作兵衛が膝まづいて頭を下げた。
「またよろしく頼むぞ。作兵衛。」
光秀が笑顔で作兵衛の手を取った。
こうしてこの世に初めて光秀の正体を知る武将が現れた。