16 高虎
多分藤堂高虎が初登場です。
翌日、信包と一益と高虎は松ヶ島城に向った。
信包が高虎に話しかけた。
「そういえばお主以前は信澄に仕えていたそうじゃな。」
信澄とは信長の甥の津田信澄の事で光秀の娘が妻だったため本能寺の変後謀反の疑いをかけられ殺されていた。
「5年以上前の話でございます。」
「信澄は亡くすには惜しい人材でおった。そうであろう?」
「はっ。仰る通り信澄様は優れたお方でした。」
そう言いつつも高虎は信澄には冷遇されていた。だからこそ信澄の元を去り秀長に仕えていたのだ。
そうこう話しているうちに松ヶ島城に到着した。
一行を城主の滝川雄利が出迎えた。
「お久しぶりでございますな。信包様、叔父上。」
「うむ。久しぶりじゃが元気そうでなによりじゃ。」
一益は久しぶりの甥との再開に嬉しそうだった。
3人は広間に通された。
城の兵士達は疲れ士気も明らかに下がっていた。
「さて雄利よ。はっきり言うてもうお主らも疲れたであろう。降伏すれば命は取らぬと秀長様は仰せじゃ。」
一益が話し始めた。
「叔父上も成り下がられましたな。」
「なに?」
「私の知る叔父上は勇ましく知略に優れ忠義に厚く私は誰よりも叔父上を尊敬しておりました。しかし今の叔父上は全く尊敬出来ませぬ。」
「つまり今の某とは話さぬと?」
「ええ、信包様とも話は致しませぬ。その横のものと話をしましょう。」
雄利は高虎を見てそう言った。
「お主がそう言うなら我らは外で待っておる。行くぞ左近。」
そう言うと信包と一益は部屋を出た。
「さて。どうも昔から知る方々がいると腹が立ってしまう。私はあくまで羽柴の家臣と話がしたいのでな。」
「そういうことでございましたか。では早速本題に参りましょう。」
「話の分かるかで安心致した。では開城の条件じゃが、まず私を信雄様の元へ向かわせて欲しい。私は最期まで信雄様の元にいたいのじゃ。お主も家臣なら分かるじゃろう。」
「貴殿のお気持ちはよく分かります。我らとしてもここでずっと包囲している訳には行きませぬ。早速秀長様にお伝え致しましょう。」
「こちらの身勝手な考えではありますがよろしくお頼み申し上げる。」
そう言うと雄利は高虎に頭を下げた。
高虎も同じように頭を下げ部屋を退出した。
「あの者、なかなかの忠義ものだったじゃろ。」
廊下で待っていた信包が問いかけた。
「はっ。滝川殿に劣らぬ器をお持ちの方だと見ました。」
「ほう。お主なかなか面白いことを言うでは無いか。」
誰でも褒められて怒る者はいない。一益は少し機嫌が良くなった。
「ですが少し古い考えをお持ちの方なのかもしれませぬ。もはや忠義だけの時代は終わりました。これからは我々のような人間は時代の流れを読みその度に主君を変えて生き延びていくことが重要と某は考えまする。」
「お主やはり只者でないな。いずれ天下に知られる名将になるやもしれぬ。楽しみにしておこう。」
そうこう話しながら秀長の本陣に到着した3人は早速事の次第を報告した。
「左様か!なら直ぐに兵には滝川殿は攻撃するなと命じよう。」
兵達も皆疲れていたので素直に秀長の命に従った。
そして翌日に雄利は少数の配下のものを連れ尾張に逃亡し兵達は皆投降した。
「お主が交渉をまとめたそうじゃな。」
投降した兵を眺める高虎に氏郷が話しかけた。
2人は同い年だった。
「大したことではございませぬ。それに秀長様が器の大きい方だからこそ無血開城にこぎつけられたのです。」
「お主は秀長様を慕っておるか?」
「当たり前にございます。」
「そうか。ならその忠義が迷わぬようにしっかりと尽くすのじゃぞ。」
キョトンとしている高虎を置いて氏郷は去っていった。




