表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/89

14 決戦Ⅲ

徳川隊が撤退を始めたのを他所に井伊勢は恐ろしい勢いで池田勢を圧倒していた。


「まずい。このままでは突破されてしまう。」


元助は焦っていた。

もしこのまま自分が討たれれば後方に展開している父恒興や弟輝政にも危険が及ぶ。

しかし直政の攻撃に部隊は大混乱に陥っていた。


「何としてもここを守らねばならぬ!まもなく武蔵殿や秀政殿が来られるはず!それまで何としても耐えよ!」


しかし


「こりゃ今行ったら一溜りもないな……」


井伊勢の勢いには流石の森長可も手出し出来なかった。

長可の分析は正しかった。


「雑魚は邪魔じゃァァァァァァ!」


直政が大槍を振りかざすと2、3人の兵士が一気に吹き飛ばされる。


直政は修羅とかしていた。

もはや人ではなく人の皮を被った鬼であった。


直政に近づいた兵士は皆その恐ろしさに足をすくめあっという間に肉片を散らしながら倒れていく。


ついに池田勢は逃げ出し始めた。


「殿!もはや我等は持ちませぬ。撤退致しましょう。」


「ここで敵に背を見せ逃げるは末代までの恥ぞ!岩崎のあの城主のように戦うことこそ武士の誉れ!死にたくないものは逃げるが良い。わしは戦うぞ!」


そう言うと元助は馬廻りの1人を呼び寄せた。


「父上に先立つ不幸をお許しくだされと伝えよ、池田家の未来を頼むと輝政に伝えよ。良いな!」


「ははっ!」


輝政の名を受けた馬廻りはすぐに後方の池田本隊に向けて走り出した。


「よし!もはや思い残すことは何もない。短い人生ではあったが後悔はないをこんな身勝手な主君で皆すまなかった。」


「いえ。我々は殿に仕えることが出来て幸せでございました。地獄まで殿にお供致します!」


周りの家臣達もみな覚悟を決めた。


「よし行くぞ!武蔵殿や秀政殿がつけ込む隙を与えるのじゃ。かかれぇ!!」


元助達は一斉に井伊勢に突っ込んだ。

元助達の突撃により井伊勢は一瞬勢いが衰えた。


「今じゃ!池田隊を助けるぞ!」


光秀が命じると堀勢が井伊勢の側面をついた。


「邪魔じゃァァァァ!」


赤備えの勢いは衰えても直政の勢いは衰えなかった。


「直政殿。もはや我らは持ちませぬ。ここは敵中を突破されてでも撤退なされよ。後のことは我におまかせあれ!」


家康の家臣の永井直勝が直政に言った。


「しかし、康政殿の仇を!」


「仇を取るならば生き延びることが重要でござる!ここで死ぬのは無駄死でございます。早う逃げなされ!」


「すまぬ!直勝殿!」


直政は一瞬我に返ると赤備えに命令した。


「皆の者!我らはこれより敵中を潜り抜け撤退する!みな覚悟せよ!」


そう言うと井伊勢は一斉に堀勢と森勢に突撃し始めた。


「おいおい。敵中突破なんぞ聞いてねぇぞ!」


まさかの突撃に森勢は混乱した。


「怯むな!井伊直政を逃がすな!」


そう叫ぶ光秀の耳に兵士たちの悲鳴と馬の足音が聞こえてきた。

光秀が振り向くと数多の粉塵の中から赤く染った甲冑を来た一隊がこちらに向かって走ってきた。


「あれが……井伊の赤備えか……」


光秀は口を開けて道をあけ眺めることしか出来なかった。

光秀のすぐ横を赤備えはかけて行った。

その後にはおびただしい数の雑兵の死体が転がっていた。


こうして長久手の戦いは羽柴方の勝利に終わった。

徳川勢はこの一連の戦で榊原康政、水野忠重、大須賀康高、大久保忠世、大久保忠佐、永井直勝ら多数の家臣と3500もの兵士を失うことになった。

対して羽柴勢も井伊直政の攻撃により池田元助を始めとして1500もの死人を出した。


その後負傷兵の介抱や死体の片付けなど戦後処理が行われた。

そして羽柴勢の本陣にひとつの甲冑が届けられた。


「池田元助様の甲冑にございます。ご遺体は損傷が激しくお見せできるものでは……」


「良い。持って参れ。」


その甲冑は傷だらけになっており合戦の激しさを表していた。

光秀も長可も言葉を失い輝政は涙ぐんでいた。

恒興は黙ってその甲冑を眺めていた。


そして木の板に乗せられた元助の遺体が運ばれてきた。

もはや人の形ではなくそこら中が変形し右腕に至ってはちぎれていた。


「元助様の最期は……」


元助の側近で生き残ったものが言おうとすると。


「言うな、分かっておる。」


恒興は静かにそういうと立ち上がり元助の死体を眺めた。


「お主は昔から戦が好きであったな。幼い頃からいつも戦の真似をして遊び、初めての初陣でも敵の首を挙げた。あれはもう何年前のことじゃったか。荒木との戦を覚えておるか?武田との戦は?わしは忘れておらぬぞ……」


恒興の目を光秀は1度見た事があった。

その目は30年前の美濃で見た事のある目だった。

その目をしたものも息子を失い放心状態だった。


「輝政、お主はこの兄に負けぬようよう励め。そして兄のような姿をワシに見せるな。元助の遺体は丁重に葬ってやれ。」


そう言うと恒興は陣の奥へと戻って行った。

誰も止めなかった。

そしてだれも何も言わなかった。

恒興のすすり泣く声が聞こえていた。

輝政はもう涙を抑えきれていなかった。

戦には勝利したもののこの戦は諸将に大きな傷を与えた。


(かようなことがもう起こらぬ為にも平らかな世を作らねば…… )


光秀は決心した。

ここだけは歴史を変えませんでした。

その代わりに元助のような立派な死に様を見せた若き名将が頑張ってくれます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ