11 岩崎
黒田が言っていた通り秀吉は秀次に8000の兵を預け池田、森、堀にも出陣を命じた。
そして堀軍の陣に軍監の役を任じられた戸田勝隆がやってきた。
「そなたが戸田殿であるな。噂は聞いておる。頼りにしておるぞ。」
光秀は頭を下げている戸田を激励した。
戸田は秀吉の古参の家臣で武勇に優れることで知られていた。
その男を軍監に付けられるとは秀吉はよっぽど堀秀政を信用しているらしい。
その頃早速出陣を命じられた池田恒興は三河を目指し森長可は周辺の城を焼き払った。
そして岩崎城内では
「思ったより早いな……。我らに勝ち目はなかろう。」
池田勢と燃え盛るほか城の炎を眺めこの城の大将らしき男がボヤいた
この城を預かっているのは丹羽氏重という男である。
まだ若干16歳で城主氏次の弟である。
「皆の者よく聞け。ここで奴らを見過ごすのは末代までの恥であろう。それに我らがここで交戦したとなればその知らせは間違いなく家康様に届く。今こそ家康様の御恩に報いるとき。女子供は逃げよ。後のものは我に着いてまいれ!」
そう言うと氏重は槍を取った。
わずか200名程度である。
6000の池田勢に勝てるはずもない。
しかしこの少年は攻撃を命じた。
「恒興様。岩崎城より我が軍攻撃を受けております。」
「何!?あのような小城は放っておこうと思ったが致し方ない。あのような城捻り潰してくれる!かかれぇ!」
池田勢は一気に岩崎城に攻撃を始めた。
「殿!敵勢2000が大手門に向かっておりまする。」
「わかった!わしも出る。押し返すぞ!」
氏重は馬に跨り大手門へと向かった。
「池田の方々!我はこの城を預かる
丹羽二郎三郎氏重である。命が惜しくないのかものからかかってまいれ!
」
「たった200の兵に何が出来る!討ちもらすなぁ!」
池田家の侍大将が命じると池田勢の足軽数名が氏重に襲いかかった
「うォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
長重は槍を振り回し足軽を突き刺した。
さらに池田兵が長重に斬りかかるも長重は返り討ちにした。
「申し上げます!大手門にて敵の大将と我が隊の先鋒が交戦!苦戦しておりまする。」
「こっちは2000であるぞ。私も向かおう。」
大手門方面の大将 池田恒興の次男の池田輝政は焦る様子もなく大手門に向かった。
「まだまだ!天下の織田軍の重臣の兵はこの程度のものかァァ!」
長重の鬼神のような槍捌きに池田兵は足をすくめていた。
「えぇい!お主ら何をしておる!討ち取れ!討ち取れぇ!」
侍大将が激を飛ばすも皆恐ろしく震えていた。
「お主も道ずれにしてくれるわァ!」
長重はそう言うと侍大将の首に槍を突き刺した。
侍大将の首が吹き飛び胴体が転げ落ちた。
「お見事でござるな。貴殿のお名前をお聞きしたい。」
到着した輝政が氏重に話しかけた。
「貴様がこの軍の大将か!」
「左様。私は池田恒興の次男池田輝政である。貴殿の名は?」
「我は岩崎城城代の丹羽二郎三郎氏重!お主も我が功にしてくれる!」
そう言うと氏重は輝政に槍を向けた
「まあ、そんな殺気を放たれるな。貴殿のその武勇をここで失ってしまうのは心が痛む。どうじゃ?私に仕えぬか?」
「殿!何を言っておられます!」
家臣が輝政に焦りながら言った。
「私は敵味方問わず優れた人物を家臣にしたい。悪いようにはせぬ。お主のような優れた男が私には必要じゃ。」
「我はこの場で死ぬと決めた。お誘いは有難いが家康様以外に私に主君はおりませぬ。貴殿も武士として我に挑まれよ!」
そう丁寧に誘いを断ると氏重は輝政に向けて走り始めた。
「まずい!」
家臣達が止めようと氏重に斬りかかる。
「邪魔じゃァァ!」
氏重は止めに入った輝政の家臣を瞬く間に斬り伏せるとその死体を踏みつけ輝政に飛び掛った。
その瞬間に銃声が鳴り響いた。
空中にいた氏重の胴体から無数の血が吹き出し氏重は落下した。
「貴殿のような方をこの場で失うとは誠に残念じゃ。」
輝政は少し悲しげに血で染まった氏重の死体を眺め言った。
「危なかったじゃねえか、坊ちゃん。」
まだ鉄砲の煙が立ちこめる中から森長可が現れた。
「いやぁ森殿、申し訳ない。まあ私は受け止めれましたが。」
「なに見栄張ってんだ。俺が来てなかったら不味かったろ!にしてもこの小僧、半端ない強さだったな。」
「ええ。しかしもう少し柔軟な考えを持つべきでした。であれば私の天下の支えになったのに。」
「おめえ天下取る気かよ……」
輝政の盛大な野望に長可は少し引いていた。
「かつて明智日向守殿は平らかな世を作りたいと仰っておられました。亡き信長様も同じことを私に言ってくださいました。」
「麒麟が何とかだっけ?俺にも教えてくれたよ。まあそれが拡張して信長様を殺したんだろうよ。」
「なら私は羽柴の明智日向守になってみますよ。」
「おめえみたいに変わりモンだと姑殿も困るんじゃねえか?」
「長可程ではありませぬよ。」
「違いねぇな!さっさと首実検済ませんぞ!」
辺りは笑いに包まれた。
その後首実検を済ませた池田の陣に光秀も訪れた。
「敵ながら見事だったそうでござるな。」
光秀が恒興に話しかけた。
「あそこまで忠義に厚い若者はなかなかおらぬわ。うちの倅も危なかったわ。」
「そこまでの激戦となると兵の疲れも相当なものでしょう。大丈夫でございますか?」
「いや、まだ我らは戦える。久太郎も安心せよ。」
「なら安心致しました。」
光秀はそう言うと恒興に一礼して本陣を去った。
岩崎城にはおびただしい数の死体が転がっていた。
光秀はそっと手を合わせ自陣へと戻っていった。




