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10 予知

ここから歴史が変わり始めます

尾張に到着した羽柴軍は既に展開していた池田・森勢と合わせて5万近くにまで膨れ上がっていた。


「この戦で中央の覇権は決まる。分かっておるだろうがもし負ければ信雄様は我らを許すまい。」


光秀は小高い山の山頂から犇めく羽柴の軍勢を眺め言った。


「しかし我らには池田殿も細川殿も居られます。信雄単体は大したことはないかと。」


「忘れてはおるまいな、内蔵助よ。相手は徳川家康じゃ。奴ら三河の兵は士気は高く忠義に厚い。右府(織田信長)様が自害されてからあっさり猿に鞍替えった我らには無いものを奴らは持っておる。」


「しかし森長可が奇襲を受けたのを兵たちも皆知っております。警戒はしているでしょう。」


「警戒していても士気が高いと押し潰される。左様なことはお主もわかっておるであろう。」


「無論心得ておりまする。」


「殿。黒田孝高様がいらっしゃいました。」


柴田勝定が黒田と共に陣に入ってきた。


「おお。官兵衛殿、如何なされた?」


「いや、秀政殿にお耳に入れたい事がございましてこちらまで参りました。」


「ほう。某の耳に入れておきたい事とは?」


「先日の羽黒での戦で森殿が夜襲を受けたのはご存知での事でありましょう。何故森殿が布陣している場所があそこまで正確に分かったか分かりまるすか?」


「間者でござるか?」


「その通りにございます。奴ら伊賀者を使い情報を集めているそうにござる。」


伊賀者とは服部半蔵を代表とする伊賀の忍者集団で家康に仕えている。


「やはり偵察しに来ていたのでござるか。しかし何故それを某に?」


「実は昨日、池田殿が本陣に訪れ殿に三河から奇襲をかけたいと提案しにこられました。」


「三河から奇襲でござるか。つまり家康を尾張に布陣出来なくし敵を各個撃破するということでございますか?」


「流石は秀政殿、その通りにございます。それで殿は秀次様を大将に池田殿と森殿、そして秀政殿にそのお役目を任せるおつもりでござる。」


「しかし、そうなれば部隊は大軍となりましょう。逆に危険では?」


「私もそう思い、殿に進言致しました。1度は殿も却下されたのですが今日池田殿は森殿と共に再度頼みに来られたのです。それに秀次様も同調されて。」


「なるほど、そういうことでございましたか。しかしそうなれば家康が仕掛けてくるのは間違いないでしょう。どの辺で仕掛けてくると官兵衛殿は思われますか?」


「三河へ向かうにはまず、岩崎城を落とさなくてはなりません。池田殿程の御方なら容易いものでしょう。その後三河へ向かうとして問題なのは行軍です。」


「ズラズラの並んで歩けば敵の思う壷という事か……」


「まず戦に慣れていない秀次様が狙わられるのは間違いありませぬ。その次は秀政殿が襲われ戦線を分断、その後各個撃破してくるかと……」


「なるほど。その事は御三方にも伝えたのですか?」


「一応秀次様にはお伝えしたのですが、少し油断なされているご様子でした。しかし家老の田中吉政が補佐すると言っておったので何とかなるかと。しかしあとのお二人は……」


「もしや門前払いでも受けたのか?。」


「いえ、実はまだこの話すら出来ておりませぬ。どうもあのお二人は私は苦手でして……」


「まあ、御二方とも内心は秀吉様のことを良くは思っておらぬであろうな。では私がお伝えいたそう。」


「そう言ってくださると何よりでございます。やはり秀政殿の所へ参って正解でした。では私はこれにて。」


そう言うと黒田はさっさと帰って行った。


「あの男、何故あそこまで見抜いておるのですか?」


柴田は不信感を抱いていた。


「まあ恐らく家康の戦い方を研究したのじゃろう。しかしあの男が内通するとは思えぬ。早速武蔵殿(森長可)の所へ行くぞ。」


光秀は早速馬に乗って森勢の陣へ向かった。


「尾藤!今度こそあの狸野郎に一泡吹かせてやるぞ!」


「森殿!何度も言うておるがワシは羽柴様の軍監でござる。そのような口の利き方は何とかならぬのか!」


尾藤が言い返すと長可は尾藤の胸ぐらを掴んだ。


「猿の軍監だかなんだか知らねえが元はあの野郎も信長様の家臣だろ!ならお前は陪臣だ。なら俺の方が身分は上だろうが!」


そう言うと長可は尾藤を突き放した。


尾藤が立ち上がり何か言い返そうとしたところで光秀が陣に入ってきた。


「今日も元気そうじゃな、武蔵殿。」


「こりゃ久太郎殿じゃねえか。なんの御用です。」


「実は、先程黒田殿と話していてお主に伝えて欲しいと頼まれたことがある。」


「あのおっさん、俺を恐れてるのか?」


「恐れているというかなんというか左様なことはどうでも良い。徳川はまた奇襲を仕掛けてくる可能性が多いに高い。十分に警戒せよ。」


「そんなこと言われなくても分かってますよ。」


「いやおそらく徳川は我らを分断させてくる。我らが退路は切り開く故、不利だと判断したら直ぐに撤退せよ。」


「またあのタヌキ野郎に背を向けて逃げろと!?」


長可は立ち上がった。


「逆にこのような戦で犬死したいか?」


「何!?」


「今ここでお主が死んで今は亡き殿やお主のお父上、それに殿のために本能寺に散ったお主の弟達が喜ぶか?」


光秀が言い返した


「あんたに何がわかる!ガキの頃に親父は死んでこれからって時に殿も信忠様も亡くなり弟達も死んじまった!なら俺もあいつらに恥じぬ死に方をするしかねえだろ!」


「命を無駄にするな。もしお主が死ねばお主の家族はどう思う?お主の母上はどう思う?」


声を荒らげる長可とは対照的に光秀はあくまで冷静だった。

長可も反論したが結局返す言葉が無くなり光秀の進言を受け入れることにした。


その後光秀は池田恒興の元へと向かった。

初めは恒興も反論したが最後は言いくるめられた。


その夜


「何故あの者らを生かそうとするのです?」


秀満が問いかけた。


「わしのせいで彼奴らは右府様という大きな柱を失った。ならばその柱を奪った某に出来ることは生きてもう一度希望を与えることだけじゃ。」


「やはり十兵衛(光秀)様はお優しゅうございますな。」


「ただ甘いだけやもしれぬ。それでも某は道三様や右府様が目指したものを実現したい。明日からは忙しくなる。良いな?」


控えていた秀満も光秀も頭を下げた


(殿、見ていてください。)


光秀は空を眺め心の中でそう言った。

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