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81㎡  作者: たいやき
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為虎添翼

「あれ? お前が俺を呼び出したんだよな?」

「ん、そう」

「告白するために、呼び出したんだよな?」

「ん、そう」

「なら今さっきの発言は、おかしくないか?」

「ん、そう?」

駄目だ、会話にならねぇ。AIでも、もうちょい友好的だぞ。

「……勇輝に聞いた。美澄…今は、フリー…….違う?」

問いかけと言うより、懇願と言ったイントネーションで、仙波が迫ってきた。

え? やっぱり告白? 頂点って、カップルの頂点?

「私は、あなたが……欲しい」

上目遣いに、恥ずかしそうに、甘い声で追い詰めてくる。

「……もし、良かったら」

そこで言葉を止め、決意したような顔でーー

「私の家に……来て」

是非などあるはずも無かった。


「ここが、私の家……上がって」

「あ、ああ」

中学校から、徒歩10分。住宅街を抜け、薬局とコンビ二の間の路地裏を通った先に、彼女の自宅はあった。

左手には行き止まり、畑が広がってた。右手には車一台ギリ通れるかってぐらいの細い道が続いていて、何軒かの住宅があり、その先に、大通りへと戻る道があるみたいだ。前までは、右手にも2つほど家が並んでいて、大通りへと出る道もそっちにあった。だが、どちらも取り壊されて、畑の土地が広がった。すると、ここぞとばかりに、その道に隣接していたラーメン店が敷地を広げ、その道があったスペースを駐車場に変えた……とか、何とか理由がありそうな立地だ。要するに、不便ってことだな。

外装は普通の一軒家って感じがする。別段、庭が広いってわけでもないし。ありふれた一般家庭って感じだな。内装は二階建ての2LDKって感じの。


「じゃあ、脱いで」

「…….は? ここで!?」

彼女の爆弾発言に驚いて、思わず聞き返してしまう。

「……ここ以外で、どこで脱ぐの」

すると彼女は、さも当然とばかりか、変な物を見るような目で尋ね返してくる。

脱衣所じゃないのか? ここは玄関兼、脱衣所なのか?

不可解な点はたくさんあるものの、言われた通り服を脱ごうとズボンに手を掛け……

「何してんの!!」

顔を真っ赤にした彼女に、怒鳴られた後、思いっきり右腿の横側を蹴られた。

「パワハラかよ!!」

「セクハラだよ!!」

いつもとはかけ離れた口調で、声を荒げている。なんだ? タブーを犯したのか? 脱ぎ方にルールがあるとか? そんな家庭ルール知らねぇよ。なんだ? シャツから脱げば良かったのか? 靴下から脱げば……ああ!!

「脱げって、靴のことかよ!!」

「それ以外に、何があるの!!」

今思えば、当然のことだ。普通玄関で脱げって言われれば、誰だって靴を脱ぐだろう。アメあげる、と言われて口を開けて上を見上げるやつが、この世界のどこに居るんだ。

ここで逆ギレして、『主語を明確にしろよ!』とか宣ったら、『は? 文脈の前後から察知することもできないの? 小学生からやり直したら?』ぐらいの毒舌を……キャラじゃないか。だが、似たニュアンスのことを言われるのは必至。

ここは素直に、謝るか。

「本当、信じられ「悪い、勘違いしちまった」……え?」

急に彼女は、信じられない物を見るような目つきで、まじまじと観察してくる。

「何だよ」

「……驚いた。謝ること……できたんだ」

「それって、キャラ付け?」

また蹴られた。見た目にそぐいてバイオレンスだ。

「違う……叫ぶのは、疲れる……」

と、本当に疲れているような満身創痍な顔で、息を整えながら愚痴ってくる。

「で、何で俺が謝ったことに、そんな驚いたんだよ」

「いつも、子供みたい……だから」

「喧嘩売ってんのか?」

「じゃあ何で、加藤に……謝らないの?」

若干、言い澱んだのか少し間を開けて……いつも通りだな。

「は? 何で俺が謝る必要あんだよ? 悪いことしてねぇだろ?」

「ない……でも、逆らうと…教室で立場、悪くなる。それでも……頑なに、歩み寄ろうとしない姿勢……理不尽を嫌う、子供みたい」

「別に良いだろ、子供なんだから。それに、それを言ったらお前も、同じじゃねぇか」

その言葉に心底驚いたのか、珍しく目を見開いてくる。

「私は…違う……狡い大人だから」

「………」

「………」

痛々しいほどの沈黙に、包まれる。逃げ出したい。

「早く、上がって……」

彼女もそう感じていたのか、話を切り上げて催促してくる。彼女なりの気遣いなのだろう。それに甘えて、靴を脱いで玄関に上がる。

「後……これに、履き替えて」

そう言って差し出されたのは、ヴァッシュだった。

「これは、そう言う家訓なのか?」

「ん?……そう」

何とも了承し難いのだが、家訓と言われれば仕方ない。めんどくさいが、きちんと靴紐を縛ってフィットさせる。運動靴は適当でも構わないけど、ヴァッシュは窮屈になるぐらいに足を締めないと気持ち悪い。サイズは意外にもピッタリだった。デザインも無骨で、結構好きだ。欲しいな、これ。

「やっぱり……似てる」

「何が?」

「……何でも」

一人で勝手に納得した後、待ってられないとばかりに先々進んで行く。

部屋にでも行くのだろうか、と淡い希望を胸に階段を下って行く。そう、下っているのだ。

「地下室か、シェルターか、秘密基地かでもあるのか?」

「……違う」

ふーん、防空壕とかかな?

なんて誤魔化しているが、実際この下に何があるのかは、十中八九検討が付いている。


「着いた、この先」

そう言って彼女は厳重な扉に手を掛けた。


仙波深冬の頂点を取ろう発言に、真壁勇輝という名前。ここまでで、大体分かっていた。あれが、告白とはかけ離れていたこと。だが、まだ望みは捨ててなかった。1%もの確率に賭けていた。でも、もう消えた。この家の地下にあるのは、おそらくーー


「ようこそ、『NODUS』へーー


そこには、予想通りと言うべきか予想に反してと言うべきか、悩む光景が広がっていた。

立派なバレーボールコート、そこにネットを点検しているであろう軍服の女性。成る程、これが不協和音なんだな。


ドンッ!!

「え? 仙波?」

「ごめん……不審者、入り込んでた。追い出すから……待ってて」

「不審者? 身内じゃないのか」

「心外。紛うごと無き、不法侵入」

そうなのか? 扉の向こうから深冬ーって、お前の名前を呼ぶ声が聞こえてくるんだが、これは空耳なんだな?

「ん、そう。良い耳鼻科……紹介する」

思考を読んだと言うより経験を積んだ彼女が、扉を押さえながら、気の所為、もしくは樹のこだまだと言わんばかりに、聞こえてくる怨嗟の声から、目を。いや、耳をそらせと強要してくる。

だが所詮は中学生。大人と子供の力が拮抗するはずもなく、努力のあえなく容易く扉は決壊した。

「冷たいじゃないか、深冬ー。折角、私が準備してたのに。口上まで用意してたんだぞ?」

「我ながら……英断、だった」

「何をー!」

軍服を着た大学生くらいの女性は、こちらに見向きもせずに仙波とイチャつき始めた。姉妹だろうか? 見た限りでは、仙波とは真逆な性格の美人だ。まぁ残念なことに、発育は同程度

「おい。溶かすぞ」

そこに含まれていたのは、純然たる殺意。今さっきのフワフワした雰囲気は何処へやら、今となってはこっちの魂をフワフワさせそうな濃密な怒気を、ひしひしと感じる。

「ゴメンナサイ」

選択の余地はない。怒っている女性に対して、誠意を見せる以外のコマンドは存在しない。妹達で予習済みだ。

「舐められたもんだなー。私の身体は、そんな薄っぺらい謝罪一つで済むほど安くはないぞ」

「……薄っぺらさなら、コールド負けだよ」

軍服を着た女が不意にその右手を、俺の左腕と横腹の間に入れてくる。そこから入れた腕をこっちの肩に置き、こっちの左手を彼女の首の位置まで腕を使って押し上げる。彼女の行動に疑問に思ったのも束の間、その肩に置いた手を一気に下へと下げーー俺の身体は前屈をした姿勢に左手を上げた状態で封じられた。驚くことに、この間0.5秒。痛くは無いが、相手を制圧するだけなら恐るべき効力だ。身動き一つ取れないんだから。

「今だ深冬。この礼節を欠いた男に制裁を」

「これは、美澄が悪い……甘んじて……受け入れて」

「おい、待て。何を見せようとしている」

「男と男が、愛を育む……動画。姉の趣味……」

「おい! これでは、褒美じゃないか!!」

「誠に申し訳ございませんでした! 以後、このようなことがないよう深く注意致しますので、何卒、ご容赦を!!」

「貴様! 衆道を愚弄するのか!!」

こいつらは悪魔か!? 待て、動画は止めろ!

「頼むから、左耳の近くには持って来るなー!!」


酷い拷問だった。精神的苦痛に心が折れる寸前だったぞ。

だが耐えた。1時間丸々、『男同士でこんな……』とか『正直になれよ。気持ち良いんだろ?』とか、そんな掛け合いが続いていたが、それでも耐え切った。

見終わった後に、『どうだ? お前はどっちの攻めが興奮したんだ? 恥ずかしがらずに言ってみろ』と感想を求められたが、手を出すことも口汚く罵ることもなく、耐え切ったのだ。


「それで、君は一体誰なんだ? 彼氏と言うわけでも無いんだろう?」

身動き取れない状況でのBL攻めという、わけわからん状況に立たされた後、俺はリビングでもてなしを受けていた。先程の苦境も相まって、今の幸福を噛み締めていると、藪から棒に、彼女が威圧気味に尋ねてきた。どうでもいいが、一人称の定まらない人だな。

これは仙波の口から話すべきだろうと言うことで、仙波へとアイコンタクトを送る。向かいの彼女からの威圧感が増した気がするが、気の所為だろう。

「姉上…この人は、美澄……なんとか。期待の……超新星」

「ふむ。貴君が勇輝の言っていた、美澄……なんとかか。私は監督の仙波 千秋ちあきだ。ようこそ、『NODUS』へ、歓迎するぞ」

「美澄颯だ。歓迎する気0だろ」

しかし、『NODUS』ね。そんなクラブチームがこの街にあったなんてな。越したばっかりだったから知らなかった。

「メンバーは何人いるんだ?」

クラブチームだ。あの地下にもネットを2つは立てれる広さがあったし、少なくとも20人は無いだろう。

「…………ゴニョゴニョ」

「は、聞こえないんだが?」

妹の真似をする必要は無いだろう?

「2人」

おいおい。今度はお前がはっきり言う……は?

「冗談にしても笑えないんですが」

「冗談は嫌い。事実」

「……募集はかけてるよな?」

「勿論だ。ホームページも作った。綺麗な器具や自由な練習環境、最高の指導者、果てには美味い夕飯も食べれると、様々な点をPRしたんだぞ。それなのに、誰一人として希望者がいなかったんだよ」

「最高の指導者? 自分でそれを書いたのかよ」

「夕飯? そんなの……聞いてない」

「そ、そんなことはどうでも良いだろ!! 問題は、誰一人として志願する奴が出て来ない。ということだ!!」

「その性格じゃないんですか?」

「違う! 見学にすら、来ないんだぞ」

「知り合いに声は?」

「深冬や勇輝に頑張ってもらってはいるのだが……あまり、芳しくはない」

知り合いという知り合いが、少なそうだもんな。

「もう一人の方は?」

「あいつは……まぁ」

「うん……察して」

「非協力的なのか?」

「そんなこともないんだが……なぁ」

「うん……察して」

俺は一体、何を察すれば良いんだろうか?

「ん? 何だこれ。あんたら、一体何をしたんだよ!」

「急に何だ、何の話だ?」

「お前ら、エゴサーチとかしないのかよ?」

「エゴサーチ……楽しいの?」

「自分で自分のことを調べる行為。これを見て楽しめるなら、相当な被虐性淫乱症だな」

そこには、『NODUS』の公式ホームページが目を霞むほど、『NODUS』に対する批判的なサイトがびっしりと並んでいた。『NODUS』と押したら次に『クソ』とか『ゴミ』とか出てくるほどには嫌われているみたいだ。

「何だこれは!! 好き勝手に言われ放題じゃないか!!」

「多分あれ。無理やりに他のクラブから、引き抜いたから」

「心当たりがあるのか?」

「うん。大いにある」

「引き抜いた? それだけのことで?」

「理由まではわからない。でも、原因は……それしかない」

「引き抜いたって、もう一人のメンバーの?」

「あぁ、名前は……何だっけ?」

「履歴書ならある」

何でだよ。

「よくわからないけど……凄い記録を出した……らしい」

履歴書の意味。

「名前は……丹羽にわ虎狛こはく!?」……知り合い?」

「このクラブ、丹羽虎狛がいるのか!?」

「うん。それが?」

「それが? じゃねぇよ! まさか、丹羽虎狛を知らないのか!?」

「「うん。誰?」」

「『伏見の乱獅子』丹羽 獅童しどうの弟だ」

「「うん。誰?」」

こいつら、まじか。

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