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長靴を履いた猫  作者: 若林 信
3/7

第三場

*この作品の読み方*


小説になっていますが、これは舞台演劇用の脚本になります。

なので、基本的に地の文などがほとんどありません。あくまでも、会話を楽しんでいただく、演劇をイメージして楽しんでいただくものになっております。

ご了承の上、お楽しみくださいませ。



第三場  川のほとり



(ナイト、登場。)


ナイト「ふう、うまくいった。うまくいき過ぎか?王の奴、飢えているなぁ。いろんな意味で…。食べても食べても満たされんのだな。家族も家臣もそっぽを向き、増えるは脂肪ばかりなり(やれやれと首を振る)。

それにしても、この長靴というのは歩きづらいな!全く人間の奴らはこんなモノに騙されて…、王様に冠、猫に長靴。ま、似たようなものか。おっと、急がなくては。時間がないのだ。ウィル、ウィルー!」


(ウィル、登場。帽子がなくなっている。)


ナイト「おお、ウィル!うまくいきましたぞ!王様はカラバ伯爵にぜひ訪ねてほしいと言っておられました。」


ウィル「へえ、カラバ伯爵ねぇ(笑)。」


ナイト「それでね、ウィル。もうじき王様とお姫様が馬車でこのあたりを通るのです。」


ウィル「ふーん」


ナイト「お姫様と会う、またとない機会ですぞ!」


ウィル「会うって、誰が?」


ナイト「ウィル、あなたがですよ!」


ウィル「僕が?この格好で?(笑)」


ナイト「もちろん、それはいけません。ええ、それじゃダメですとも。どれくらいダメかというと、猫に向かって『日向ぼっこをするな』というくらいダメです。」


ウィル「そりゃそうだ。でももう、交換するものなんか何もないよ。」


ナイト「(頷いて)いやあ、あなたのあの帽子でよくあの袋とコレ(長靴を指して)が手に入りましたな?それで王様を騙したんだから、奇跡ですよ。」


ウィル「じゃ、奇跡はおわりだよ。もう何もないもの。」


ナイト「(怪しく笑って)ふふふふふ。」


(ウィル、不審そうにナイトを見る。)


ナイト「ええウィル、あなたに交換するものはありません。というか、今着ている物もいりません。」


ウィル「どういうこと?」


ナイト「脱いで。」


ウィル「え?」


ナイト「脱ぎなさい!早く、その服を全部!」


ウィル「何言ってんだ!?」


ナイト「時間がないんですよ!」


(ナイト、ウィルに飛びかかり無理矢理服を脱がせ、パンツ一丁で川に突っ込む。)


ウィル「何すんだよナイト!このバカ猫!」


ナイト「脱いでしまえばみんな同じです。王様だろうが粉屋だろうがなんら変わりはありません。ウィル、あなたはお腹が出てないだけマシですよ!」


ウィル「そういう問題じゃないよ!どうするんだよ!」


ナイト「ウィル、あなたはカラバ伯爵です。いいですか、カラバ伯爵なんですから、くれぐれもそれらしい、威厳に満ちた態度をお忘れなきよう!」


ウィル「だから、カラバ伯爵なんて知らないって言ってるだろう!?」


(すこし遠くの方から馬車の音がしてくる。)


ナイト「あっ、きたきた!お姫様の乗った馬車だ!

ちょっとウィル、用意はいいですか。あなたの王様物語の始まりですぞ!」


ウィル「ちょっと待っ……」


ナイト「(大声で)助けてーー助けてーーー!どなたかおられませんかー!若君がー大変だーー」


(ちょうど通りかかった馬車が止まる。)


王様「ややっ、そなたは先ほどの、話のわかる猫殿ではないか!いかがなされた?」


ナイト「(王様の顔をみてぱあっと明るくなって)王様!実はカラバ伯爵が大変なのです、川で水浴びをしていたところ、盗人が若君の服を持っていってしまって!(わざとらしく困った様子で)こんなところでーーーもうどうしたらよいやら…」


王様「それではカラバ伯爵は今、川の中で裸でおられるのか?」


ナイト「はい、その通りでございます。カラバ伯爵がいくら高貴な若君と言えども、川の中で裸では……(言い淀む)」


王様「そうか、それはお困りだろう!」


(王様、馬車から降りてくる。)


王様「とりあえず、何か羽織るものを…、姫、そなたの膝掛けを貸してくれぬか?」


(姫も馬車から降りて王に膝掛けを渡す。目は伏せたまま。ナイト、姫の美しさに一瞬目を見張る。)


王様「(猫に膝掛けを渡し)これを使われるといい。」


ナイト「王様、ありがとうございます!

さ、カラバ伯爵、こちらへ…」


(ナイト、ウィルに膝掛けを渡す。ウィル、仕方なくそれを羽織り、川から上がってくる。)


ウィル「あの、俺……」


ナイト「(ウィルが変なことを喋らないようにすかさず)王様、こちらが我が主、カラバ伯爵でございます。」


王様「なるほど、良い若君だ!年回りもマリア・クリスティーナにぴったりだ!」


(ウィル、恐る恐る目をあけて姫を見る。姫もそっと目をあげてウィルを見る。二人、互いに驚いたように見つめ合い、また目を伏せる。)


ナイト「(二人を横目でみながら)王様のおっしゃる通りでございます。」


王様「(戸惑っているウィルに)カラバ伯爵、今は何も言われずとも良い。そんな格好では話もしずらいであろう。何か服が…そうだ、城に戻ればわしの若い頃の服がある。

(御者に向かって)おい。急ぎ取ってまいれ」


ナイト「(すばやく王様に身を寄せ、耳元で囁く)王様、もしよろしかったら我々はすこし場を外し、お姫様と若君二人きりにしてみたらいかがでしょう。若い者同士、話が合うかもしれませぬ。」


王様「(ナイトに小声で答える)ほお、いいかもしれんな。もしかしたら姫の病気も治るかもしれん。」


(ナイトと王様、互いにニヤリと笑う。)


王様「(居住まいを改めてから)ごほん。では猫殿。わしは馬車で城に戻り、服を取って参ろう。」


ナイト「それでは私は、今一度盗人を探してくることに致しましょう。」


(王様、馬車に乗り込み御者に城へ行くように命じる。)


王様「姫、わしはすぐ戻るから、カラバ伯爵のお相手を頼んだぞ!」


ナイト「カラバ伯爵、姫のお相手を頼みましたぞ!」


(馬車、出発する。ナイトも退場。ウィル、待ってと言うが誰も聞いていない。ウィルと姫、二人残される。二人しばらく無言のまま立っている。)


ウィル「……………あの、ごめんなさい。俺、こんな格好で…」


(姫、俯いている。)


ウィル「………あなたのことは聞きました。あの、ずっと病気で……。王様はあなたを笑わせた者をあなたの夫にする、とか?」


(姫、答えない。)


ウィル「でもそれ、王様が勝手に決めたんですよね?」


(姫、かすかに頷く。)


ウィル「(少し迷ってから)あの、聞いてほしいことがあるんです。僕は、カラバ伯爵じゃありません。ただの粉屋の末っ子です。いや、正確に言うと、今はもう粉屋の末っ子ですらないんです。父も母も死んで、兄たちに家を追い出されたから…。僕は何者でもないし、何も持っていません。」


(姫、驚いてウィルを見る。)


ウィル「全部、あの猫が仕組んだことなんです。僕が昔言った『もし僕が王様だったら』って話を勝手に膨らませて……。でも王様はもうあの猫に騙されてて、しまいには本当に僕をあなたの夫に、とか考えるかもしれない。」


(姫、話をきいているが、途中から目を伏せる。)


ウィル「僕は、もうどうでもいいやって気もしていました。本当に何もないんだから。どうやって生きていけばいいのかもわからないし……。あなたに会うまでは。」


(姫、びくっとする。)


ウィル「あなたみたいな人に、こんな場所で、こんな格好で会うなんて……。でも、カラバ伯爵は嘘です。本当にごめんなさい。あなたまで、騙されることなんかないんです。あなたは親のいいなりになって、好きでもない男と結ばれたりしないでください。あなたがどうして病気になって、どうして治らないのか、僕にはわからないけど……どうか、幸せになってください。だって、あなたはすごく綺麗で、可愛い………。」


(姫、顔を上げて一瞬、ウィルを見る。)


ウィル「王様があなたの望まないことを言い出したら、嫌だって言ってください。僕は本当は粉屋の末っ子で、カラバ伯爵なんて嘘だって。僕はあなたみたいに美しい人を騙してまで、王様になろうなんて、思っていません。」


(ウィル、勇気を出して姫を見る。姫の顔にかすかに微笑みが浮かんでいる。)


ウィル「…………え?」


(王様の馬車が近づき、止まる。王様、服を持って降りてくる。同時にナイトも戻ってくる。)


王様「カラバ伯爵、わしの若い頃の服を持って参りましたぞ。これならきっと体に合うでしょう……」


(と言いながら、王様も姫を見る。)


王様「マリア・クリスティーナ?笑っている……?」


ナイト「笑っておられますな!」


ウィル「笑ってる?どうして………。」


王様「(舞い上がって)おおおおおお!カラバ伯爵、マリア・クリスティーナが笑っておる!何年ぶりのことであろう、まるで花が咲いたようだ!カラバ伯爵、カラバ伯爵!あなたこそ我が王国の救世主だ!」


(ウィルの手をがっしりと取る。戸惑うウィル。)


ナイト「さすがはカラバ伯爵!なかなかやりますなあ!いやこれは予想以上だ!凄い奇跡だ!」


(王様とナイト、二人で盛り上がる。)


王様「さあカラバ伯爵、我が若き日の服を着てくだされ。私と姫は向こうを向いております。高貴にして未来有望なる伯爵の、真の姿を見せてくだされ!」


(王様と姫、背を向ける。ウィル、ナイトにせっつかれ王様の服を着る。見事な若君が出来上がる。)


ナイト「できましたぞ!これなる方が高貴にして未来有望なるカラバ伯爵でございます!」


(王様と姫、ウィルの方を向く。)


王様「素晴らしい若君だ!今こそ約束を果たす時だ!姫を笑わせた者を姫の夫とする!」


ナイト「似合いのお二人ですな!」


王様「まことに似合いの二人だ!」


(王様、少し考えてから)して、カラバ伯爵。ご無礼を承知でお尋ねするが、そなたはどのあたりを治めておられる?お住まいは何処に?さぞや立派な城であろうが……」


ウィル「………城?」


ナイト「(ウィルを押し除けて)さすがは王様、ごもっともなご質問でございます。どこの馬の骨ともわからぬ一文なしに、大切な一人娘であるマリア・クリスティーナ姫を委ねるわけには参りませんからなあ。」


ウィル「でも城なんて」


ナイト「(ウィルを黙らせて)王様、ここから北に三里ほど行ったところに大きな城があるのをご存知ですかな?」


王様「いかにも。先代の国王一族は亡くなられ、現在はひどく性悪の魔法使いが治めているとか。」


ナイト「その通りでございます。が、この世において、そのような者の治める世は長続きせぬもの。今はこのカラバ伯爵があの城の主でございます。」


王様「そうであったか!高貴にして未来有望、我が城と比べても見劣りせぬ城の主でおられるカラバ伯爵…。これほど条件の整った素晴らしい相手がほかにあろうか?妃め、驚くにちがいない!わしは間違っていなかったのだ!」


ナイト「王様、おっしゃる通りでございます。このような良縁、早く話を進めるに越したことはありません!」


王様「そうじゃな!カラバ伯爵、お会いしたばかりであるが、姫の夫となる者として、これから我が城に来てはくださらぬか?妃とも顔をあわせ、それから伯爵の城へ姫と共に伺うことにしよう。」


ウィル「(ナイトにせっつかれ)は、はい。」


ナイト「王様、どうぞカラバ伯爵をお連れください。わたくし一足先に城に戻り、王様と姫君を迎える準備を整えましょう。」


王様「よし!すべてがうまくいくにちがいない!」


(ナイト、ウィルを隅にひっぱっていく。)


ナイト「ウィル、城の方はわたしがなんとか致します。あなたはカラバ伯爵として、なんとかうまいことやってください。もし王に領地や城のことを聞かれたら、微笑んで「これから御覧にいれます。」とだけ言っておきなさい。あとは適当に相槌を打っておけばいいのです。喋りすぎないほうがいいですぞ?いやむしろあまり喋らない方がよろしいですな。」


ウィル「そんなこと言ったって……」


ナイト「おっと、王様と姫をあまり待たせてはいけない。」


(ナイト、王様の方にウィルを押し出す。)


ナイト「それでは王様、若君をお願い致します。」


王様「(ナイトに頷いて)さあ参りましょう、カラバ伯爵。我が城へ!」


(王様、姫、ウィル、馬車に乗り込み退場。ナイトも馬車を見送って退場。)





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