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長靴を履いた猫  作者: 若林 信
2/7

第二場

*この作品の読み方*


小説になっていますが、これは舞台演劇用の脚本になります。

なので、基本的に地の文などがほとんどありません。あくまでも、会話を楽しんでいただく、演劇をイメージして楽しんでいただくものになっております。

ご了承の上、お楽しみくださいませ。



第二場      城




(中央にテーブルがあり、椅子は三つ(王、妃、姫のもの)。朝食にしては多量の料理が王の席の前にのみ用意されている。執事が登場し、王様の部屋の方向に声をかける。)


執事「王様、おはようございます。朝食の準備ができました。」


(王様、「今行く」と答え、登場。不機嫌な様子で椅子に座る。)


執事「お妃様はご気分が優れないので、先にお召し上がり下さいということです。」


王様「またか?」


執事「はい。」


王様「また長々と化粧でもしておるのだろう?」


執事「まだお休みになっておられます。」


王様「いつものことだな。一体いつになったら、その『ご気分』とやらが直るのか。」


(王様、食事を始める。最初にお茶を飲む。)


王様「熱いではないか!」


執事「申し訳ありません。昨日はぬるいと言われましたので。」


王様「今日のは熱すぎるのだ!」


執事「申し訳ありません。次から気をつけます。」


王様「全くどいつもこいつも……。(食べながら)姫の様子はどうだ?」


執事「お変わりありません。」


王様「お変わりないとは、相変わらず食欲もなく、笑うこともないということか?」


執事「そうでございます。」


(王様、これみよがしにため息をつく。)


王様「それで、今日は来ておるのか?姫を笑わせる者は。」


執事「誰も来ておりません。」


王様「何故誰も来ないのだ!?国中に御触れを出したでないか!王である私の名で!」


執事「恐れながら申し上げます。あの御命令から、すでに何年も経っております。実際、多くの者が城を訪れ、マリア・クリスティーナ姫に笑って頂こうと苦心いたしました。けれど、お姫様はにこりともなさらず、そのご病気が治る気配もありません。」


王様「(怒って)もうよい!朝食が済んだら、いつものように馬車で散歩に出かける。わかったな!姫を笑わせる者も、引き続き集めるのだそ!」


執事「はい、かしこまりました。御命令の通りに。」


王様「御命令の通りか。ごめいれい、ごめいれい。(食べながら、執事に向かって)お前もどうせ私の出す命令はバカで無意味と言いたいのだろう!?」


執事「いいえ。滅相もございません。」


王様「妃の奴は口を開けばその話だ。『(妃の声色で)信じられませんわ。なんという命令でしょう!どこの馬の骨ともわからぬ者が姫の夫になってもいいというの!?』」


(執事、相槌を打つこともため息をつくこともできずに無言でそこに立っている。)


王様「バカなことを言うな!娘の幸せを祈らぬ父親がどこにいる!!ましてや、私は王ではないか!いい加減にしろ!!………お前もそう思わぬか?」


執事「…………はい…」


王様「大体、どこの馬の骨ともわからぬというなら、妃とて同じではないか?商人の、しかも船が嵐で沈んだとかいう、ほぼ無一文の家の出ではないか!」


(執事、返す言葉もない。)


王様「そのせいか、あれには教養というものがないのだ。つねに外見だけ整えておけばいいとかんがえておる。『(妃の声色で)マリア・クリスティーナ、姫というのもは美しくなくてはなりません。心も、見目形も、立ち振る舞いも。』はあ。(執事に向かって)あの表情のない能面のような顔を美しいというのか?」


執事「さあ……私からは、なんとも言えません。」


王様「美しいというか、魔女だな。あれは。」


執事「はあ……そうでしょうか。」


王様「魔女は言うのだ、この私に向かって!

『(妃の声色で)あなたという人はなんて無神経で分からず屋なの!私や姫のことなんてどうでもいいんでしょう!?王様なんて始末におえませんわ。なんでも命令すればいいと思っているのだもの!私の話なんてひとつも聞いてくださらない!私がこの城に嫁いで来てからというもの、どれほど心細い寂しい気持ちでいたかわかろうともしないじゃありませんか!あなたのようにただそこにある国を、親から継いだだけの方には、女子供の気持ちなどわかりはしません!いつもいつも自分のことばかりで…』

(激昂して)いつも自分のことばかりだと!?何をいうか、それは妃のほうではないか!なんという言い草だ!!(執事に同強く同意を促すように)あの妃をみじめったらしい境遇から救い出し、この城に迎え、ありとあらゆる素晴らしいものを与え、養ってきた私に対して。何故私が責められるのだ?何故私が、責められなくてはならないのだ!!?」


執事「さあ、……わたしからは、なんとも言いようがございません。」


王様「何故だ!!!」


(執事に詰め寄る。)


(ノックの音。門番が入ってくる。執事、これ幸いとその場を去り、門番と王に聞こえないように話す。)


執事「どうした?」


門番「客人です。」


執事「姫を笑わせるものが来たのか?」


門番「いいえ、猫です。長靴を履いています。カラバ伯爵の家来で、王様に御挨拶に伺ったと申しております。」


執事「長靴を履いた猫?カラバ伯爵の家来?何者だ?」


門番「わたしは知りません。」


執事「私もだ。………だがよい、通せ。」


門番「よろしいのですか?」


執事「(うなづいて)しばらくの間、その猫に王の相手をしてもらおう。私はもう限界だ。」


門番「はい。ではお通し致します。」


(門番、退場。)


執事「(王様に向き直って)王様、カラバ伯爵の使いという者が御目通りを願っております。」


王様「カラバ伯爵?誰だ、それは?」


執事「わたしも存じ上げません。ですが…」


(二人が話している最中に、ナイトは勝手に部屋に入る。王様の前に行き、恭しくひざまずく。)


ナイト「偉大にして高貴な王様、わたくし、カラバ伯爵の使いとして、御目通りを許されたことを光栄至極に存じます。こちらは我が主、カラバ伯爵からの贈り物でございます。(袋を差し出す。)」


王様「袋を受け取って)これは、何だ?」


ナイト「とれたばかりのうずらでございます。調理しやすいように血を抜いておきました。」


王様「うずらか!私の好物だ。肉汁とバターのソースをたっぷりかけると実にうまい!」


ナイト「それはなによりでございます。王という、つねに周囲に気を配り、心身をすり減らすお勤めには栄養のある食べ物が必要かと思われます。」


王様「(言葉が咄嗟にでなくなるほど感激して)……!その通りだ。王であるということを一言でいうなら、それは時にひどく孤独であるということだ。」


(執事、ナイトと王様のようすをみてこれ幸いとそれとなく退場する。二人、話を続ける。)


ナイト「はい、王様。恐れながら申し上げます。国を保つ、というのはたやすいことではありません。たとえそれが先代の王から譲り受けたものであるとはいえ、……いえ、それが譲り受けものであるならなおさら、多くの苦労が伴うものでございます。何かにつけ父君と比べられ、その真価を発揮することも難しい中で、よくこれだけ国を保っておられると、カラバ伯爵は感心しておられました。この城の者たちと国の民が、まるで当然のごとく享受している何ら変わったことのない日々、すなわち平和な毎日、そのような中で知恵なき者はわざわざ不足である事柄を見つけ出し不平を言い立てますが、それでもなお、あなたさまは王としてこの国を守っておられます。愚かな者たちは失ってみなければわかりませぬ。けれど歴史はやがて真実を告げることでしょう。あなたさまこそ、まことの王であると。」


王様「(最初はきょとんとして聞いているが、やがて目に涙を浮かべて、ナイトに力強く握手を求める)客人よ、よくぞ申した!いかにも、私こそが王である。時に些細なことで、何もわからぬ妃にねちねちと責められながらも、家族のため、国のため、日々努める者だ。」


ナイト「はい、おっしゃる通りでございます。わたくしカラバ伯爵の使いとして方々の国を周り、数ある王と名のつく方を見てまいりましたが、王様、あなたは特別な方。まさに王の中の王であられます。真の威厳というものはただそこにあるだけで雄弁に語るものですな?あなた様の御威光はまさに昼の太陽のごとく人々を照らし、また岩の如く強く人々を守っているのでございます。」


王様「(感激して)ありがとう客人よ!!!よく言ってくれた!!そのような言葉こそ私の求めていたものだ!」


ナイト「ですが、良き王に孤独はつきもの。高貴な方の苦しみは高貴な者にしかわからぬものです。我が主、カラバ伯爵はあなた様に深い尊敬を抱き、その友情の末席に加えて頂きたい所存でございます。」


王様「友情……(遠くを見つめて哀愁を漂わせながら)時々、夢に見ることがあるのだ。民や家族を思う私の心を、そのまま受け取って貰えたら、どんなに良いだろうか、と…。王として、弱音を吐くことは許されぬ。だが、時に理解ある友を持ちたいと思うものだ。」


ナイト「(今まで以上に大袈裟に)お言葉の通りでございます!」


王様「そうでなくては、この胸の苦しみは誰にも理解されることはなく、私は常に一人…。」


ナイト「(芝居がかって)おおっ、なんという孤独!」


王様「けれども耐えなくてはならないのだ。何故ならばそれが王であるということなのだから!」


ナイト「(力強く、拳を握り)国を守るものとして!」


王様「(力強い同意)その通りだ!」


ナイト「(芝居がかった悲壮感で)御身を犠牲にしてでも!」


王様「(悲壮感のある力強い同意)いかにも!」


ナイト「(拳を握り、大袈裟に観客に向かって)なんという深き愛!まさに偉大な王!」


王様「(拳を上に向かって突き上げ、大袈裟に観客に向かって)そうだ!我こそは王!」


(話の途中で時計の鐘が鳴る。門番と執事が入ってくる。)


執事「王様、お姫様のお出かけの準備が調いました。」


門番「王様、馬車の準備もできております。」


王様「なんだっ、お前たちは!わしがせっかく客人と話しているというのに!いいところで…!」


執事「私達は王様の御命令を忠実に果たしているのみでございます。」


王様「何をっ、口答えする気か!この執事風情が……!」


ナイト「(横から口を出す)お姫様の準備とは?」


執事「ご存知かもしれませんが、マリア・クリスティーナ姫は随分前から体調が優れず、一日中部屋で過ごしておられます。王様は一日一回は外の空気に触れなくてはならないと言われ、毎日共に馬車で散歩に出掛けられるのです。」


王様「(ナイトと同時に)そうだ、わしは姫の為、妃の反対を押し切って…」


ナイト「(王様と同時に)ほおっ、それは素晴らしい!まさに御英断!」


王様「……… 御英断、とな?」


ナイト「お姫様の治療の為に、それほど素晴らしい方法がありますでしょうか?なるほど姫を笑わせる者は、都合が悪ければ城を訪れることはありませぬ。けれど、お姫様を思う王様の気持ちは決して離れることはありません。そのような配慮こそがお姫様を癒すのです!」


王様「よくぞ申した!その通りだ!猫殿、そなたの言葉はいつも私を勇気づけてくれる。礼を申すぞ。」


ナイト「(わざとらしく深々と一礼する)いえ、もったいなきお言葉で御座います。御目通りを許されただけでも光栄至極でございますのに。」


王様「新しい友情のよしみに、猫殿も一緒に来ぬか?ちょうど話相手が欲しかったところだ。そなたの主、カラバ伯爵という御仁にもぜひお会いしたいものだ。」


ナイト「ありがとうございます、王様。カラバ伯爵は、家来である私が言うのもなんですが、素晴らしい若君でございます。」


王様「なに、若君?して、年の頃は?」


ナイト「マリア・クリスティーナ姫様よりも、少し上かと。」


王様「(一人で考え込んで独り言をブツブツ呟く)そうか、なるほど…。ちょうど同じ年頃の若君…、悪くないかもしれん…。姫の病気は私たち夫婦には手に負えんし…。(ナイトに向き直って)猫殿、カラバ伯爵にお伝え願えるか?後日、この城を訪ねてほしい。王は伯爵と友情を結ぶ機会を待ち望んでいる、と。」


ナイト「ありがとうございます、王様!しかと心得ました。わたくし、今日のところは急ぎカラバ伯爵のもとに戻り、王様のお言葉を伝えましょう。次は必ず、伯爵と共にお邪魔いたします。」


王様「よし。猫殿、わしも待っておるぞ。」


ナイト「はい。本日は突然、はじめてお伺いしたにも関わらず、かくも丁重にお迎えいただき、なんとお礼を申して良いかわかりません。また近々、再びこの城を訪ね、主人共々お話をさせていただきとうございます。それでは、本日はこれにて。」


(ナイト、恭しく一礼して退場。)


王様「(満足な様子で頷く)さあ、わしらも出かけるぞ!姫を呼んで参れ!」


(一同、退場。)




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