5話
「うっ………」
振り向くと苦しそうな顔で壁に寄りかかっている女の人がいた。
「大丈夫ですか?」
その人に近づいて顔を覗き込む。
真っ青だ。
「すみません……。身体中が痛くて……。」
無理もない。あんな乱暴に扱われてここまで連れてこられたのだ。
私だって引っ張られて頭皮が痛いし、頬もお尻も痛い。
暴力なんて経験ないけど、中高大とずっとテニス部で体を動かしていたし、実は黒川家は空手の道場を開いている。
そこにずっと通っていたので、私は体力には自信があった。
目の前の体が細い女性に比べたら、私の方がずっと丈夫そうだ。
私は女性の背中を優しくさする。
元気になって、少しでも体調が良くなってと強く思いながらさすっていると手がほのかに暖かくなった。
強く摩りすぎたかなと心配になって、手をとめようとすると女性が顔をあげて、ありがとう、と小さな声で笑ってくれた。
「なんだか痛みが引いて楽になりました…どうもありがとう」
「いえいえ、大したことはしてません!……それよりここは、どこなんでしょうかね…」
「わかりません…」
「というより、ここは日本ですか?」
「……え?」
女性は目が点になった。
「……ここはエルヴィーラ国です。ニッポンという街は聞いたことがありませんね……」
………どこですか、そこ。
ていうか日本知らないて……日本は街じゃないよぅ……国だよぅ。
思ってはいたけど、髪や目がナチュラルに緑やら赤やら……
ここってそもそも地球なのかなとかそんな考えが出てきてしまう……。
いや、でも川に落ちただけで異世界に飛んでっちゃうとかないでしょ。
そもそも異世界とかありえないでしょ!
ぶんぶんと頭を降って冷静になろうと思う。
でも答えは出ない。
「あなた、私たちの村の人間じゃないわよね?別の村から連れてこられたの?」
「いや、別の村というか……川に落ちて、気づいたらあそこに流れ着いてて…」
「そう……。運が悪かったわね…」
可哀想、という表情で言われた。
「最近盗賊が村を襲ってるとは聞いたけど、まさか自分たちが被害に会うなんて思いもしなかったわ……」
向かい側に座っている女性が言った。
「なんでも、最近特に女の人が連れ去られていって、奴隷として売られていくって……」
自分で言って暗くなり、それを聞いた周りの女性たちも泣き顔になる。
牢屋に入れられてから数時間たった頃、盗賊数名が来て鍵をガちゃんと開けた。
「でろ!!!」
偉そうに威張って私たちを外に出す。
外へ出ると黒いフードを顔が隠れるほどに被った人達が沢山いた。
「これが今回捉えた奴らだ」
「……ふむ。こいつはいらない。歳をとりすぎている。」
30歳後半ぐらいに見える女性に近づくと、フードの男はナイフを取り出し、躊躇なく首に切りつけた。
「きゃああああぁ!」
他の女の人たちは悲鳴をあげ、切りつけられた女性は首を押さえながらのたうち回っていたが、しばらくするとピクピクと動いていた体から力がなくなって動かなくなった。
嘘、でしょ?
嘘でしょ!?!?
「騒ぐな五月蝿い。他は屋敷へ連れて行け。」
「畏まりました。」
偉そうなフード男に従う、他のフードのもの達が私たちを捉えてまた別のところへと連れていこうとする。
しかし女性たちはパニックに陥り、悲鳴をあげる。
「いやぁあ!」、「離して!」、「やめてぇえ!!」
「ちっ。だまれ!黙らんと殺すぞ!!」
殴ったり蹴ったり、盗賊に捕まえられた時と同じようにこいつらも酷い扱いをする。
「お前らはもう既に、我々に買われたのだ。我々の理想の為に使われることを光栄に思え!」
なに、こいつら。
何様よ!!!!
ぷつんと私の中で何かが音を立てた。
「あんたたち何様よ!!なんなのよ!!!」
怒りに任せて私はフードの男の1人にタックルした。
「くっ、なんだお前?!」
「うっさいわね!女性には優しくって親に教わらなかったの!?」
タックルした衝撃で転がっている男に向かって、私は仁王立ちしながら言った。
「そんなんじゃ一生女性にモテないし、彼女出来ないし、結婚なんて絶対に出来ないんだからね!!!!」
こんな状況で何言ってるんだろ、わたし。
でもとにかくムカつく。
ここの男たち全てにムカつく!
キッと睨みつけると、反抗されるなんて思っていなかったのか、男たちは怯む。
しかしそんなのも一瞬で、腰から剣をだし、私に向かって振りあげようとした。