3話
「ッッッッッつ!」
手すりは別に低くない。
だからがりがりっと脇腹を傷付けたし、腰だって強打した。
それでも引っ張られる力は緩まない。
私を掴む手は肘から先はモヤがかかったように見えなかった。
掴む手は青白く、爪は全て黒かった。
まるでスローモーションの様にゆっくりと見えたのは一瞬で、すぐに真っ逆さまにどぼん!!!!と、私の体は川へと落ちた。
季節は夏から秋に移り変わり、長袖でちょうどいい季節。
川遊びをしてる人達も最近は見かけなくなった。
そんな季節のしかも夜。
川の水は冷たいに決まっている。
川に落ちた衝撃で、体は痛かったし何より水が冷たくて、刺すように痛かった。
そして苦しい。
鼻に水が入ってくる。
息がしたい。
酸素を求めてぐちゃぐちゃに手足を動かす。
ふと、こんなにあの川は深かったろうかと思った。
膝ぐらいの深さじゃなかっただろうか?
そんなことを思ったとき、ぎゅっと二の腕をつかんでいる力が強くなった。
自分を引きずり込んだ腕がまだそこにあったのだ。
目を凝らして見たけれど、水の中だからよくわからない。
でもそこにはやはり腕しかないように思う。
だけどそんなことより、とにかく酸素だ。
この手が引っ張っていて私は川の中から出れないんだ。
そう思った私は、右手で思いっきりぐぎぎぎぎぃ!っと手の甲をつねってやった。
手はびっくりして私の腕をやっと離した。
これで川から顔を出せる!
と思って必死に上へ上へと泳ぐ。
「っぶはぁ!!!!」
ぜーはーぜーはーと酸素を体に巡らせる。
生きている。
死ななかった。
死ぬかと思った。
鼻にも水が入って、痛いし鼻水とかだらだらだ。
女の子とか言ってられない。
そんなの無視だ。
「なん、なの…一体………」
少し呼吸も落ち着いて、川から這い上がった。
ん?
やっぱりおかしい…
這い上がるってなによ……?
あの川は子供が水遊びでばちゃばちゃ遊べるくらい手前は浅い。
なのに勢いをつけて這い上がる??
そんなに流されたのだろうか?
うーんと首をひねりながら辺りを見回す。
……あれ?
上には私が落ちたはずの橋があって、街頭やマンションもあり、夜でも明るいはずだ。
でも今私が見ている所には橋なんてない。
街頭もなければ、マンションもない。
木だ。
木が沢山ある。
というか森?
流されたにしても変わりすぎである。
てか絶対流されたにしてもこの風景はありえない。
「なに…ここ。」
全身ずぶ濡れで重くなった服とリュックのまま呆然と辺りを見渡し続けた。