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さらわれた姫は、自由を謳歌する事にした。  作者: 花籠 密
1章 魔王城での生活
13/14

番外︰アルバとサディアス

サディアスがアルバに謝った後くらいの話です。

この話を飛ばしても本編に問題はありません。

今日はもう1話投稿する予定です。

(文章は結局長くなってしまったのですが、週一投稿になったのでプラマイゼロかな、と一人で考えている作者です。)

 その日、レオはある光景に衝撃を受けていた。

 エリノアの所にお邪魔しようとしていた彼は、部屋をめざして角を曲がった時に丁度サディアスと彼女が出てくるのを見たのだ。

 それだけならまだ「将軍は監視役だから」と納得できたかもしれない。

 彼の目を釘付けにしたのは、2人が一緒に部屋から出てきたことではなく――。

 

 (エ、エリノアちゃんが、ちゃんとした服を着てる…!!!!)

 

 エリノアは、いつものようなシフトドレスでは無く、きちんとしたドレスを着ていた。

 とはいえ、動きにくいのは嫌だと言う彼女が身につけて居たのは、スッキリとしたシンプルなドレスではあったが。

 それでも、エリノアと会ってからシフトドレス以外の姿を見たことがないと言っても過言ではないレオにとって、天から魚でも降ってくるような出来事だった。

 

 「何処に行く気だ?」

 「まぁそう焦るなよ、サディアス。訓練場に行くだけだ」

 

 そう話しながらレオのいる方向とは逆に進んでいく2人の声は、悲しいかな、彼には届かなかった。

 

 (ま、まさか、サディアス将軍と2人で、デ、デート…?!)

 

 あれだけサディアスやレオ、さらにはエリベルトが注意しても下着姿を貫いた彼女だ。

 そんな彼女が男と2人で、きちんと服を着て歩いているなら、それはもうそういう事なのだろう。

 覚えずその背中を追いかけようと足を踏み出した彼は、笑っているらしい肩を揺らすエリノアを見て、その足を留めた。

 

 (ダメだ、いくら2人がデートするのが気がかりでも、エリノアちゃんがあんなに笑ってるのに邪魔は出来ない…)

 

 複雑な心中で奥歯を噛み締めたレオは、そのまま2人に背を向けて踵を返した。

 一方、そんなことなど露知らず歩いているエリノアは、渋い顔をしているのサディアスの腕を引いていた。

 

 「いいから。本当に訓練場でちょーーーっと見たいものがあるだけだ。お前は監視役なんだから来るのは当然だろう?」

 「くっ、姫君がわざわざ私を連れていこうとする辺り、嫌な予感しかしない…!着替えているのも尚更だ!」

 

 エリノアがあれこれと言葉をかける度、サディアスの歩みは更に遅くなっていく。

 そんな彼を言いくるめ(出来ていなかったが)ながら、彼女はとうとうお目当ての訓練場の前にたどり着いた。

 エリノアがキョロキョロして誰かを探しているのを、隣に立つサディアスは訝しげに眺めていた。

 

 「おぉ!いたいた。おーい、アルバ〜!」

 「あ、エリノアさ――」

 

 パッと顔を上げたアルバは、エリノアの隣にいる人物を見た途端表情を曇らせた。

 それに気づいたエリノアは、やはりか、と内心で呟く。

 

 (このニブニブ堅物騎士の事だから、どうせ正直にアルバに向かって『女性だと気づかず申し訳ない』とか言ったんだろ)

 

 チラリと彼女が隣の男を見れば、彼は彼で視線を彷徨わせていた。

 堪えきれず息を吐き出したエリノア。

 

 (コッチもか。これは今日までアルバの事を避けていた可能性が高いな。真面目さも行きすぎれば厄介だ、全く。

 やはり連れてきて正解だったな)

 

 隠しもせずに呆れた顔をしているエリノアは、アルバの顔がここ数日翳っていることに気づいていた。

 理由は深く考えずとも推察できた。サディアスがアルバを男だと思い込んでいた件だ。

 アルバを可愛がっているエリノアとしては、2人を仲直りさせなければ気が済まない。

 その為に、苦手なドレスまで着てわざわざ城外にある訓練場まで足を運んだのだ。

 

 「エリノアさん、サディアス様が来るなんて、聞いてないです…」

 「言わなくても来るのは分かるだろう。コイツは私の監視役だからな」

 「う…」

 「姫君、どういうつもりか説明を」

 

 前と隣から責めるような視線を投げられる彼女は、逆にムスッとした顔で返した。

 

 「単刀直入に言うがな。お前達2人ともあからさまに態度がおかしすぎて研究に集中出来ない」

 「うぅ〜…」「む」

 

 いつもと違うという自覚があるだけに、2人は言い返せずに口ごもった。

 ヤレヤレともう一度ため息をついた彼女は、さながら喧嘩した子供達を諌める母親のようだ。

 

 「とりあえず。今日はアルバにお願いしてあった通り模擬戦を見せて欲しい。

 サディアス、お前は私と一緒に見学だぞ」

 

 各々頷いた2人を確認すると、彼女は満足気に微笑んだ。

 

 ♢

 

 大剣を構えるインプ族の兵士と相対するのは、短剣を握って立つアルバだ。

 リーチの差が圧倒的に開いているが、小柄な彼女の体格を考えればこの方が身軽で良いのだと分かる。

 

 「私の部屋に来た時もあの短剣を持っていたが、彼女のメインウェポンはアレなのか?」

 「あぁ。だが、たかが短剣と侮ることも出来ない。

 アルバの強みは、その身のこなしだ。1人で自分より大きな相手を数人伸したこともあれば、暗殺だってこなす。

 直ぐに相手の死角に滑り込み、その小さな得物で標的を的確に討つ。毒でも仕込んでおけばより致命的な傷を追わせることも可能だ」

 「流石、副将軍と言ったところだな」

 

 初めて会った時、首筋に当てられた冷たい金属の感触をエリノアが思い出していると、始め、という審判の声が響いた。

 サディアスとエリノア以外にも見物人は多く、場の空気がピンと張り詰める。

 

 「………」

 

 ジリジリとお互いの隙を伺いながら、ゆっくりと立ち位置を変える2人。

 中々仕掛けない二人を見ながら、エリノアは苦笑いする。

 

 「私だったら焦れったくて直ぐに仕掛けたくなるな」

 「そうもいかないのが戦闘というものだ。何せ命のやり取りだからな。

 考え無しに動くわけにもいくまい」

 

 永遠にも続くかと思われる、緊張した雰囲気の中を、ザァ、と一陣の風が流れた。

 それに兵士が一瞬気を遣ったのを、アルバは見逃さない。

 地面を力強く蹴り、一気に距離を詰めたアルバは兵士の視界から姿を消した。

 その事に兵士が気づいた時にはもう、ピッタリと背後にくっついた彼女が、その首に短剣を押し付けていた。

 

 「………っ、」

 「勝者、アルバ副将軍!」

 

 ワッと場が湧く中、エリノアは感心したように頷いていた。

 

 「目で追えない速さだったが…。

 驚いたな、それだけじゃなく水を利用していた。流石はルサールカだ」

 「む。どういう事だ?」

 

 エリノアの呟きを聞いたサディアスは目を瞬かせて問いかけた。

 

 「彼女が動いた後、空気が微かに煌めいていた。

 恐らく自分の周りに薄く水の層を張ることで、光の屈折を利用して自身の姿を見えにくくしているんだろう」

 

 身のこなしだけでなく、術の腕も素晴らしいな、とエリノアは続けた。

 これまで共に戦ってきて初めて知る事実に、サディアスは驚いていた。

 

 「アルバは…そんな事までしていたのか。驚いたな、魔法を使うところはあまり見た事がなかったが、そういう訳ではなかったのか」

 「あぁ。…で、お前はまだ彼女を避けるつもりか?」

 「…何故、それを知っている」

 「そんなもの態度を見れば明らかだろう!

 寧ろ隠しているつもりだったなら驚きだぞ」

 

 兵士と言葉を交わしているアルバに視線を向けたサディアスを見て、エリノアは更に言葉をかけた。

 

 「なぁ、さっき戦っていたアルバは、お前が今まで見てきたアルバと違うか?」

 「いや…」

 「だろうな。アルバが女だろうと男だろうと、アルバはアルバだ。

 性別だとかそんなことに囚われるんじゃなく、お前が今まで共に過ごしてきた彼女の事をきちんと考えてやるんだな」

 

 考え込むように俯いた彼を見て、エリノアはフッと笑った。

 そのまま、戦闘を終えて上気した顔でやって来るアルバに、彼女は手を振る。

 

 「エリノアさん!どうでしたか?」

 「あぁ、凄かった。サディアスも、そう思うだろ?」

 「――あぁ」

 

 突然話を振られて目を丸くしたサディアスだったが、直ぐに眦を下げてそう返した。

 その眼差しを向けられたアルバは、驚いたように固まっている。

 

 「…アルバ、すまなかった。

 たとえ女性だろうと、アルバは私の大事な右腕だ。先程の動きも素晴らしいものだった」

 「っ!サディアス様…!」

 

 ポンポン、と水色の頭を撫でるサディアスに、アルバはボンッ、と顔を赤くした。

 エリノアも優しい微笑みで2人を見つめている。

 

 「早速、今度は私とも模擬戦をするか」

 「はいっ!」

 

 喜々として武器を取り合う二人を見て、エリノアは冷や汗を流していた。

 

 (…あれ、コレ、失敗だったか?)

 

 明らかに師弟関係的な好意を滲ませるサディアス。

 その隣のアルバは異性としての好意を全面に出しているからこそ、その対比が見ている者のアルバへの憐憫を煽らずには居られなかった。

 それでも、仲直り出来たのなら、女性として見られる機会もあるだろう。

 そう考えて2人の模擬戦を眺めるエリノアだった。

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