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さらわれた姫は、自由を謳歌する事にした。  作者: 花籠 密
1章 魔王城での生活
1/14

1︰私の部屋は何処ですか

燦燦と降り注ぐ陽の光に照らされる中、風に揺れる草花が辺り一面を覆い尽くしていた。

 どこまでも陽気なその雰囲気を壊すように、武装した集団がその中を進んでいる。

 彼らは魔王軍の兵士らだ。つい3日前に任務を終えたばかりだった。

 

 「なんだかなぁ…。余りにも簡単すぎて拍子抜けしたよな」

 「あんな見えやすい場所で、護衛も見張りもつけずに一人でいるなんてな」

 「まぁ、予定よりずっと早く作戦が終わったとなりゃ報酬も期待できるな」

 

 笑いながら語り合う彼らの頭には、黒々とした太いツノがその存在をありありと主張している。

 それこそが彼らが人ならざるものだと証明していた。

 進軍する度にジャラジャラと音を立てるのは、軍の中ほどに居る、2メートルを超える大きさのヒッポグリフに付けられた首輪の鎖だ。

 ヒッポグリフの背にはこの軍の将軍、サディアス・リークが乗っていた。

 そして彼が後ろから支える形で股の間に座らせているのが、今回の任務での目的――人王国『アシュヴィ』の姫君、エリノアだ。

 第二王女で在りながらも、先祖返りによる雪のように白い肌と髪を持つ彼女は一種の神聖さを放っているのだろう、国民に熱狂的に愛されている。

 頭脳も明晰なためにスピーチでは聴衆の心を鷲掴み、その美貌も相まって外交の席にも頻繁に出てくるのが彼女だった。

 

 「…ん…」

 「む。起きたか」

 

 微かな声を上げて身動ぎしたエリノアの顔を、サディアスが覗き込む。

 ゆっくりとした動きで彼女の真っ青な瞳はサディアスを捉えた。

 

 「…………」

 「まだ頭が覚醒していないな。今の自分の状況が理解出来ているか?」

 「……………た……」

 「む?」

 

 目を丸くして何かを呟いたエリノアだったが、瞳は徐々に弓なりになっていく。

 

 「…成功した…これで私は…」

 

 そして遂に、姫だとは到底思えないニヤリとした笑みを顔にうかべた。

 

 「――っ?!」

 「おっと、落とさないでくれるかな」

 

 警戒を一気に引き上げてサディアスが身を強ばらせると、逃がすまいとエリノアはその服を鷲掴んだ。

 上流階級の女性なら使うはずも無い口調で彼女は言葉を紡ぐ。

 そして掴んだ服を引き寄せるとぐっと顔を近づけて、サディアスにしか聞こえない声量で更に囁いた。

 

 「私を攫ってくれるんだろう?

礼を言いたいくらいさ。

 …あぁ、そう警戒しないでくれ。私が姫という身分に飽き飽きしていたと言うだけの話さ」

 「………では、我々が忍び込んだ時にたった一人でいたのも、これを見越しての事だったと?」

 

 勿論、とでも言うようにエリノアは口角を上げる。

 任務である手前、サディアスとしてはどれほどこの姫君が怪しかろうと連れ帰るしかない。

 深くため息を一つ吐いて、彼は自分の服を掴んでいる白魚のような手に視線を向けた。

 はいはい、と言うような雰囲気で彼女はパッと手を離す。

 

 「…今はなにも聞くまい。我が王の元に着くまで、大人しくしていろよ」

 「分かっているとも」

 「やれやれ、とんだ姫君だな。

 ……――皆に告ぐ!

 あと少しで我らが祖国が見えてくる。ここまでご苦労だった!!」

 

 オオオオ、と兵士達の野太い声が上がる。

 満足そうにエリノアが微笑むが、たった1人、彼女と直接言葉を交わしたサディアスだけが、眉間に皺を寄せて前を見据えていた。

 

 

 ♢

 

 

 ――その頃、人王国アシュヴィでは1人の哀れな伝令兵が慌ただしく走っていた。

 彼の齎した報せはすぐさま王城内を駆け巡り、国王であるダグラスの元まで届いた。

 すぐさま長老会議が開かれ、国の重鎮達による話し合いが行われた。

 議題は『エリノア第二王女誘拐』についてだ。

 

 「皆ももう聞いておるだろう。

 ……エリノアが、魔国の者に攫われた」

 

 その事を知らなかった者たちによるざわめきが途端に湧き上がった。

 それを手で制すると、ダグラス王は眉間に皺を寄せて深くため息をついた。

 それは奇しくも、かの魔将軍サディアスと同じ仕草であった。

 

 「まさか第一王女でもなく、第三、第四でもなく…エリノアが攫われるとは私も思わなかったのだ。

 いや、思えなかった、の方が正しいというべきか」

 「お言葉ですが国王陛下、我らにはエリノア王女が自ら出ていったようにしか思えず…」

 「………良い。それは私も思っていた。腹立たしいことにな」

 

 ダグラス王は無意識に腹部へと手を這わせた。

 まるで胃痛を労る様なその仕草に、エリノア王女に関する悩みを共有する長老達は同情的な視線を送る。

 

 「エリノアは常日頃呟いておったからな。姫という肩書きなど邪魔なだけだと」

 「………………」

 

 最早城内に居るものなら大抵が聞いたことのあるセリフだった。

 エリノア王女はシャツ1枚などと言うとんでもない姿でよく城内を闊歩しては、時折倒れているのを衛兵に目撃されたり、肩書きについて愚痴っていたのだ。

 

 「これまでは何とか言い聞かせて国交や国民の前では真面目に演じておったが…。

 それも限界だったというわけだな」

 「ですが国王陛下、問題なのはエリノア王女の“趣味”では」

 「分かっておる…………」

 

 再び胃の辺りをさすってため息を吐く国王に、長老達は最早同情を禁じえなかった。

 何故か泣きそうな顔で同じように胃をさする者までいる。

 彼らをこうまでさせるエリノア王女の“趣味”とは、すなわち――研究であった。

 

 「ポーション、魔法陣、数々の新たな魔法の開発に、魔道具の発明…エリノアが魔国の手に渡ったのはこちらとしてはかなり厳しい状況だ」

 「確か、この数ヶ月は執務が詰め込まれていて中々研究が進められないとボヤいておりましたな…」

 「そして遂に拉致られることにしたと…?」

 

 『…有り得る』

 

 全員が心の中でそう呟いた。

 革命的な発明を息を吸うように生み出していく彼女だったが、その分変わり者である王女に、ここに居るものは皆嫌という程振り回されてきたのだ。

 それでも彼らが必死に彼女を国につなぎ止めていたのは、やはりその頭脳を求めてのことだった。

 彼女が研究に携わってから、この国の防衛力は格段に跳ね上がり、国民の生活水準も上がり、ここ数年は紛争も戦争も起こっていない。

 それもこれも全て、彼女の頭脳あっての事だった。

 

 「…仕方あるまい、勇者に頼るしか無かろう」

 「で、ですが彼は…」

 「分かっておる…皆まで言わせるでない…」

 

 今までエリノアの恩恵にあやかってきたからこそ、彼女が敵に回る恐ろしさが分かるのだ。

 研究第一なあの王女なら、自由と引き換えに研究成果を喜んで魔族に手渡すに違いないと誰もが確信していた。

 だからこそ、今ここで躊躇う余裕は持っていられない。

 国王はもう何度目かになるため息を吐いてから、長老達に告げた。

 

 「勇者に招集を。それから国民に知らせてくれ。

 エリノア第二王女が魔国に攫われたと」

 

 ♢

 

 エリノア第二王女が生まれたのは、草花が萌え盛る、風の心地よい季節だった。

 生まれた当初は、その眩いばかりの美貌に国王や王妃ばかりでなく、周りの者達まで目じりを下げたものだ。

 しかし成長するにつれ、真っ白な髪やその人工物のように整った顔立ちに、王妃も国王も不安を感じ始めた。

 幸いにも彼らは深く愛し合っていた為、話し合いと調査によって我が子の容姿は先祖返りによるものだと大事なく探り当てたのだった。

 

 「草花の図鑑が欲しい」

 

 それが、エリノアが7歳を迎えた時のお願いだった。

 ドレスや宝石類を想像していた国王や王妃は驚きつつも、愛娘に望み通りのものを与えてやった。

 

 「父様、研究室をください」

 

 それが、エリノアが12歳の生誕式に放った言葉だった。

 この頃には既にエリノアの探究心の強さを両親は共に理解していた為、少し迷いつつも結局彼女の願いは聞き届けられた。

 これが、彼女の暴走の始まりだった。

 まず彼女は、何年も貯めていたお小遣いをつぎ込んで研究に必要なものを次々と揃えていった。

 薬草には疲労回復効果がある事に目をつけ、塗り薬や風邪薬としてしか使われていなかったこれを大量購入したのである。

 様々なものと組み合わせては試行錯誤を重ねつつ、2年かけてようやく被検体として使っていたアース・ラットの傷が回復するのを確認すると、彼女はフラスコに入ったポーションを片手に、手軽な人間の被検体を求めて城内をうろつき始めた。

 どうせなら手負いの者がいいと考えたエリノアが向かったのは、訓練場だった。

 そこに運悪く居合わせたのが、まだ城に来たばかりの勇者アルバートだったのである。

 白熱しすぎた訓練にて教官の出した技を防ぎきれず、アルバートは気を失った状態で床に寝かされていた。

 簡単な応急処置だけを施され、治癒魔法が使える者を待っている途中だったのだ。

 

 「丁度いい。飲め」

 

 気を失った相手の口を無理やり開くと、彼女はそこにフラスコの口を突っ込んだ。

 ご丁寧にも、膝枕をして頭を抱え、赤子にミルクをやるようにしてポーションを飲ませたのだ。

 果たして効果は抜群であった。

 徐々に傷口が塞がって行き、遂にアルバートはその瞼を開けたのだ。

 これがポーション完成の瞬間であった。

 と同時に、哀れなアルバートが恋に落ちる瞬間である。

 目を開けた時に目の前にいたのが自分を介護してくれていた美しく心優しい王女と来れば、彼が恋に落ちるのも無理はない。

 こうして彼女に夢中になったアルバートだったが、そんな彼をエリノアはここぞとばかりに実験台にした。

 それはもう、数え切れないほど。

 その度にアルバートは『頼りにされている』と喜ぶものだから周りも何も言えなかったのである。

 こうしたアルバートの献身もあって、数々の功績を残していった彼女だったが歳を経るにつれますます研究へのめり込むようになっていった。

 しかし彼女とて、慕ってくれる国民が嫌いな訳では無いので執務は真面目に行っていた。

 お返しとばかりに便利な魔道具を開発したのも彼女なりの国民に対する愛だった。

 けれど研究好きな彼女にとって、何ヶ月も研究室に入ることが出来ない状況は辛かった。

 そう、エリノア王女誘拐4日前の話である。

 繰り返される執務と貼り付けた仮面による疲れで、彼女もハイになっていたのかもしれない。

 悩みに悩んだ彼女はとうとう解決策を生み出した。

 

 「そうだ、拉致されてしまえばいいんだ」

 

 合法的に王女を辞めるにはうってつけだった。

 加えて魔国とは冷戦状態だったので、戦争を始めるきっかけとしては喉から手が出るほど欲しがるものだろうと彼女は思いついたのである。

 なまじっか行動力があっただけに、彼女が動くのは早かった。

 金で旅人を雇って魔国へと流れる川に手紙を流してもらい、丁度彼女の研究室の庭へと通じる道のりと自分の居場所を教えたのだ。

 道のりは細くて大人数では通れないから攻めいられるという心配はないし、くせ者がでたなら攫われた後から国が道を封鎖するはずだから安全面も良し。

 そんな安直な考えから出た古典的な方法だったが、彼女はめげずに一人で多くの時間を庭ですごした。

 そうして3日目。

 ついに彼女は庭で意識を刈り取られたのである。彼女の思い通りに。

 

 ♢

 

 

 「む。あなたが魔王なのか?まだ子供ではないか」

 「無礼だぞ貴様!まだ成長期でないだけで、俺は正真正銘魔王だ!」

 

 魔王城に到着した後、エリノアはすぐさま謁見の間へと連れて行かれた。

 が、そこで彼女が目にしたのは、玉座に座っている彼女の胸ほどまでしか身長がない赤毛の少年だったのだ。

 

 「貴様こそ本当にあのエリノア王女なのか?

 俺が聞いていた話では、八面玲瓏才色兼備、慈悲深く聖女のようで美しい王女だと言うことだったが」

 「ほう。そちらがお望みなら演じてやるぞ?」

 

 ニヤリと笑った後に、彼女は人が変わったように可愛らしい微笑みを浮かべた。

 ふてぶてしい雰囲気が消し飛び、どこか後光でも刺しそうな勢いで神聖な雰囲気を醸し出している。

 片足を後ろに少し下げ、ドレスの裾を摘むと、彼女はぺこりと頭を垂れた。

 

 「お初お目にかかります、魔王様。

 私はアシュヴィ王国第二王女、エリノア・ルルウェ・アシュヴィです。どうぞよろしくお願い致します」

 

 連れてきたサディアスが恐ろしいものを見たとでも言いたげに目をかっぴらいてエリノアを凝視している。

 魔王はと言えば、何故かほんのり頬を染めて固まっていた。

 

 「…おや、魔国の王様は名乗られても名乗り返さない無礼者だと?」

 「ば、馬鹿者!今名乗ろうと思っていたところだ!

 俺はエリベルト!このヴェルダ帝国の王にして支配者である、エリベルト・ユノル・ヴェルダだ!」

 

 どうだ、と言わんばかりの得意顔で胸を張るヴェルダ王を見て、堪えきれないとでもいうようにエリノアが吹き出した。

 

 「…ぷっ、ふ、ふふふ、あはははは!!」

 「な、何がおかしい!!!!」

 「そりゃお前、たかが名前くらいでそんなに得意げに…ふは、本当に子供みたいじゃないか」

 「〜〜〜〜!!!!おいお前!

 俺にはエリベルトという名があるんだ!ちゃんと名前で呼べ!」

 「はぁ、分かったから、その代わりエリベルトも私の事名前で呼ぶんだぞ?」

 「勿論心得ている!」

 

 内心気が気でない側近達やサディアスを余所にひとしきり笑って満足したのか、エリノアは呼吸を整えるとふっと微笑んだ。

 何かを察したのだろう、エリベルトもどこか落ち着いた顔持ちでエリノアを見つめる。

 

 「…それで、いつ私の部屋に案内してくれるんだ?」

 「おま、エリノアァァァ!!!!」

 

 こうして、エリノアの魔国での暮らしが始まった。

 これから訪れる非日常に期待を寄せて、彼女はもう一度心から笑ったのだった。

なんとか書き終えました…!

ここまで読んでくれた方、ありがとうございます…!

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