1-3;コンタクトレンズ
蟹がもうすでに暁輝の体の中に入っていることが判り、二人生活が始まった。
やっと土曜日だ。やはり疲れがたまっていたらしく、朝起きたら午前10時を過ぎていた。身体が昨日よりもずっと楽になった。
とりあえず瞳の色の変化に対処するため、この土日でカラーコンタクトレンズを買いに行くことは決まっている。まあ、今日行くか…他に何もやることないし。
その前にカラコンはどこで売っているのだろうか。眼鏡屋に売っているかなあ。寝ころんだままインターネットで調べる。
「あ、やっぱりそうなんだ。」眼鏡屋に売っているらしい。
俺は視力AAをずっとキープしていてコンタクトレンズやメガネとは無縁な人間だった。そんな男が今からコンタクトレンズを買いに行くのだから人生どうなるかわからないものである。ベッドから起き上がり服を着替える。半袖半ズボンだ。7月上旬だが今日は涼しいようなので買い物を兼ねたサイクリングをしようと思う。朝食は途中で食べるとしよう。TVを消し、自転車の鍵をもって家を出る。
<自転車小屋>
そういえば…
「おーい。生きてるか?」
「……う、うう…」苦しそうな声で応答する絢。
「!? おい!どうしたんだ、もしかして俺が眠っている間に何かあったのか?」
昨日の明るい感じはどこ行っちゃったんだよ!
「う、ううん。ちがう…お腹すいたよお…う HPがゼロだよう…」
「飯だな!わかった」
急いで自転車にまたがり坂を下った。
<ココ壱番屋>
「じゃあ、ソースは甘口ポーク、ライスは400グラムで辛さは甘口。これを2つお願いします」
「はい。」店員さんが注文を機械に入力していく。
「それとサイドでコーンサラダとマンゴープリンをお願いします」
「かしこまりました~」
合計金額が余裕に1000円を超えてしまった。もちろん普段はこんなに頼まない。昨日の昼から何も食べていないのでというのもあるし、なんてったって今この身体の中にはあのバカでかい蟹が入っている。どれほど食べれば腹は満たされるのか分からない。
ちなみにココイチも山を下りた先にある。地元では一回も行ったことがなかったが、以前好きなアニメとコラボしていたのをきっかけにふた月に一度で食べに来ている。
「ひかる…まだ…?」声が全く生き生きしていない。
「もうすぐだよ。頑張ってくれ!」
「おまたせしました~」料理が運ばれてきた。
「料理きたけど、どうすればいい?俺が食べればいいの?」
「今は緊急事態だから輝が食べて」
「わかった。」
それじゃあ……手を合わせる
「いただきます」
「ごちそーさまでした!」はじめは俺一人で食いきれるのか不安だったが、案外生けるもので、、、完食だ。 つい最近シチューを作ったばっかだがカレーは久しぶりでうまかった。
「絢、元気でたかー?」食べる前と同じで静かだ。カレーの感想を聞いてみたかったのだが…
「まさか!」急いでインターネットを立ち上げる。蟹が食べてはならないものを俺が食べてしまったのかもしれない…{かに えさ}で検索する。表示されたのが
「カニは基本的に何でもよく食べる雑食性です。種類によって食べるものは変わりますが、生の魚の切り身や小魚を食べるカニもいます」
ほっと胸をなでおろす。そして当の本人は、
「すう…すう…」寝息が聞こえる。すやすやと眠っているようだ。
(絢にとっても天界にいたころに比べたら自由がほとんどなくなっているのだろう、俺だけがつらい思いしてたわけじゃないんだよな…)昨日の絢に八つ当たりした自分を反省する。
…にしても耳元で寝息がするのでなんだかこそばゆい。なんで耳元で話しかけるんだ、この人は? 食べ終わって落ち着いたのでグラスの水を飲み干してお会計を済ませる。自転車(白のママチャリ)にまたがりペダルに足をかける。
<道中>
今後の予定は、
1.市内に眼鏡屋があるのでまずそこで買い物
2.富山駅までサイクリングをする
3.駅近くの喫茶店でお茶
である。
<メガネのハラダ>
店に入ると沢山の眼鏡が並んでいる。ふとぶち、ほそぶち、プラスチックや金属のもの、げっ…サングラスもおいてあんのかよ…
店内を歩いて色々見て回っているとお目当てのコンタクトレンズコーナーが目に入った。ワンデーとツーウイークがあるらしいがとりあえず安いほうのツーウイークを買った。
<富山駅への道中>
富山県に引っ越してきて少なくとも10回はサイクリングで富山まで来ている。
周りが見事に田んぼで染まっている。風も吹いていてとても気持ちがいい。富山でのサイクリングは自然を満喫できるからとても気に入っている。
「ああ……たのしい…」
もうゴールまで5キロほどだ
「んん、、、あれえ? ここどこ?」絢が起きた
「いま、富山駅まで向かっているところだけど。それより元気出た?」
「うん!元気100倍だよ!」
「0に100かけても0だろ… ところで、また気になったことがあるんだけど聞いていいかな」
信号が青になった。再びペダルをこぐ。
「どぞー」
「絢って食べたらマズイ食べ物とかある?」
「あー、野菜はだめだね。カニは野菜を食べたら泡を吹いて死んじゃいます」
「フフフ、うそだな~ カニは雑食ってネットに書いてあったぞ」
「なあんだ知ってたのかー…… ……チッ(ボリュームを落としていたがバッチリ聞こえていた。)」
「んん! じゃあ次に絢の自由なんだけど。」
「あ。それについては私からも言いたいことがあるんだけど」
「何でも言ってよ!遠慮しないでいいからさ!」
「そ、そう?」そして続ける
「あ、あのさ…すごく言いにくいのだけど」
「うん。うん。」
「下着、買ってくれないかな…」
(がっしゃあああああん!)
自転車ごと転倒した。
「下着? 下着ってブラジャーとパンツの下着?」
「うん。」
あと一年で成人になる男が女性下着売り場でブラとパンツを買いに行ったら、周りからの目線はサングラスの時とは比べ物にならないな……
JKがTwitterで俺の写真を撮り、ネットにさらすでしょ、そしたらすぐうちの大学にも広まるじゃん、学長にばれるのも時間の問題じゃん、俺、退学やん。
「なんで必要なのかって言うと、私が輝の身体を使うときに必要で…」
「あ!やっぱり絢って俺の身体使えるんだ!」
「うん、そーゆーことだからどうかよろしく!」
「ああ…なんとかするよ…」
自転車をゆっくりと起こす
つづく
あとがきという名の次回予告
はてさて退学は何としても避けたいがブラジャーを手に入れなくてはいけない、という葛藤の中、暁絢が出した答えとは、、、