1-1;ガスコンロ
ざあざあと雨が降っている。
(キキーーーーーーッという車のブレーキ音)
「うわあああああああっ!!」
(警察官の無線機)
「2018年 7月4日(火) 午後9時42分 富山県の国道8号線で自転車と車の交通事故が発生、被害者は意識不明の重体で、名前は暁輝、大学生。持ち物からするとマクドナルドのバイト帰りだと思われます。車は逃走し………」
<輝の意識の中… 真っ白な空間>
「くそっ、死んじまったのか…?」
立ち上がって周りを見る。誰もいない。
「ねえ、そこのきみ」
「? 誰だ、俺に話しかけるのは…」
改めて一面を見渡すがやはり誰もいない。
「ここだよ、ここ!」
声のする足元を見ると
蟹
色は真っ赤で、甲羅がガスコンロぐらいの大きい蟹が俺の右足をハサミで挟んでいる。
「ヒいいいいいいっ!?」悲鳴をあげる。
喋って、動いて、挟んで、これをかに本家ロボットがしているのだ。そりゃあ悲鳴もでる!
「君、このまま死にたい?」
「嫌だ。やりたいことがあるんだ!死にたくない!」
「そう…じゃあ、生き返れるって話があったら乗る?」
「え。…生き返れるのか!?」
蟹と目を合わせる。
「私は友人の代わりに君の情報を回収しに来たの。」
「情報...?」
人が死んだら周りの人は忘れていくでしょ、それは私たちがその人の情報を処理したからだよ。」美しい、女の声だ。
「やっぱり俺死んだのか…」
「そう。お前はもう死んでいる………… いきなりで悪いけど一つお願いを聞いてくれない?」
「ほんと、いきなりだな。」
死亡通告からのお願いって…
「私天界に住んで色々仕事とかしてるんだけど
回収と解析のくり返し、同じ作業のくり返しでさ…
回収解析回収解析回収解析回収解析回収解析回収解析回収解析…
もう、うんざりなんだよね!何も楽しみがないんだよ!!あそこ!!」
「………それで、お願いというのは?」
「ああ、そうだった、だからね。君の身体を貸して欲しいの。これからはこの星でやりたいことやって楽しみたいなって思ってさ!」
「...貸すぐらいなら別にいいけど、今あなた言いましたよね、お前はもう死んでいる…と」
「だーかーらー私が生き返らせるのよ。 もちろん強制はしないけど。どう?」
「う~ん… わかった。 生き返らせてくれ」
「よおし、契約成立ね。いまからあなたの情報を書き換えるからちょいと待ってて」
そう言って蟹は甲羅から(その中に入りきらないだろ)と思うくらい大きいタブレット端末を取り出し、作業を始めた。
10分経過
あれから俺はなぜか正座で、ただじっと蟹を見ている。
………本当に助かるのか...?俺
「…これとこれを並び替えて…………っと。うん、できた!」
タブレットを甲羅にしまいながら蟹はそう言った。
「では早速お願いします!」
おお!これで俺は生き返るのか!
「それじゃあ、早速目をつぶってこの図形を思い浮かべて…」
そう言って甲羅から1枚の紙きれ取り出し、渡された。
興味本位でにおいをかぐ。無臭だ。
「ちょっと、あなた!なにしてんのよ!」カニの甲羅がより赤くなったように思えた。
「わかった、わかった!思い浮かべればいいんだな…」
A4ほどの大きさの和紙で、蟹座の星の並びに穴があけられている。
目をつぶり蟹座を頭の中に思い浮かべる。
「それじゃ、またあとでね!!」
その言葉を最後に声は聞こえなくなった。
7月5日 (水)
<自宅 ベッドの上>
「おはようっ!!」
耳元で声が聞こえた。
その声で目を開く。自分のアパートの中だ。窓の外が真っ暗で時計の針が23時を指しており、ずっと眠っていたようだ。
声の主を探してベッドの下をのぞくが、誰も見当たらない。そのままその上に腰を下ろす。
いつもの天井、普段通りの部屋…顔を触り、感触を確かめる。
「俺、生きてる…」
念のため、携帯でインターネットを開いて{富山 交通事故 大学生}と入力するが何も出ない。
一度死んだというのが夢みたいだ。またあの日常が返ってくる!
(ぱーーん!)外から花火の音がする。
「!!」花火大会を近くでやっているらしい。暇だし行ってみるか…
「ねえ。鏡、見てみてよ」
横を振り向くが何もない。………俺が“死ぬ”前にはこんな幻聴は聞こえなかった。
頭の打ちどころが悪かったのか、生き返ったことと比べたらまあ誤差レベルだ。それに鏡を見たってどうせいつも通りだと思う。実際今触って確かめたし、おかしなところなどあるはずがない。
念のため仕方なく、その声にしたがってベッドから起き上がって、玄関にある鏡の前に向かうが、なんだろう… 生き返りほやほやだからか全身にそんなに力が入らない。
よたよたと鏡まで歩く
鏡のほうを向いて全身を見る。
はは、やっぱり思った通りだ、生前と同じ…
いや、体の数パーセントではあるが変化したところがある。これは誤差とは言うことができない、だってそれは生きる上で一番大事なパーツだから…
目
目である。もともとこげ茶だったものが 左のほうが赤、右のほうが青に変化している。
驚いているところにまた声が。
「ふふ、驚いた? 簡単に説明すると赤い目が君、青い目が私。」
「んん!?どういうことだ、訳が分からんぞー!」
部屋で一人叫ぶ俺。
それに構わず声の主は次々にアクションを起こしていく
「よいしょっと」
そう言ったかと思うと、左目の赤がじわっと青色に染まり、その結果両目の瞳が青くなった。
「うわっ!!」え、これサイボーグでしたってオチか?
「じゃあ、次は自分を念じてみて!」
自分をって…えーじゃあ最近自分に起こったこととか…?
「あ、ああ。わかった。 なむなむなむ…」
ここ3か月の事を思い出す
(2割ほど腐ったリンゴを食べて腹を壊したこと、4日前に作ったシチューを食べて腹を壊したこと、賞味期限2週間前の納豆を食べて腹を壊したこと、バイト先の子に彼氏がいたのを知って心を壊したこと…)
「なむなむ…って、葬式じゃないんだから… あ、もうやめてもらっていいよ。」
目を開くとさっきの色違いの、両瞳を赤くした大学生、暁輝が映っていた。
「これから よろしくね!」
10秒ほどして元の赤と青に戻った。
「えーーーーーー!?」
これからよろしく、とは?そしてあなたはだれ?
様々な疑問が頭の中を走り回っている。
一人鏡の前に立ち尽くす。
(お腹の鳴る音)
あー腹減ったなー
「今日の晩飯買いに行こ…」
つづく
あとがきという名の次回予告
目がこんななのでサングラスをして外出するが…