一章❻
「大まかな話はミキ副団長より伺ってますが、もうちょっと掘り下げてお伺いします」
「はい。どうぞ」
まぁ何も隠すことはないのでリラックスして話せる。
「このアクセサリーを入手した場所はどこですか?」
「えーっと…あそこは…餓狼の谷だったと思う」
「確かに…狼系モンスターが出そうな名前ですねー。
では、その場所のボスモンスターと、YUMAさんが戦われたモンスターの違いを教えてください」
「通常のボスモンスターは直接見たことがないんですけど、真魚と真夜が言うには一回り大きく色も違ったそうです」
「え?しっ失礼ですが…YUMAさんはMANAさんやMAYAさんと何かご関係があるんですか!?」
ん?喰いつくなぁ。
「兄弟だ」
「ええっ!?」
「因みに隣にいるのが真魚と真夜だ」
「ほ、本当ですか!?すみません。後でサイン下さい!!」
ふっただのファンか…。羨ましい…。
「いいよ♪」
「ん。分かった」
真魚と真夜は普段戦う時お面をつけているので、素顔を知っている人は少ない。
「んっんー」
加奈さんが軽く注意をした。
「す、すみません…ん〜何か比較するものとかありますか?」
「じゃぁ…真魚か真夜、バトルログ残ってないか?」
「私が残してるからそれを見なよ」
「サンキュー真魚」
観戦モードにしてその戦いを視聴する、次に俺が白狼戦をだす。
「いっ…一瞬ですね…」
「あぁ、参ったよ。それで武具がロストしたし散々だ」
「でもそれで君は、それ以上の武器と防具に巡り会えたじゃないか」
と、加奈さん。
「ん?考えてみればそうか…」
「怪我の功名…佑兄はズルい」
「そして、そのお陰で私達も戦力増強できるかもしれないのだからホントに助かるわぁ」
ホクホク顔のミキさんが、頰に手を当てて喜んでいる。
「しかし、これだと圧倒的すぎて逆に推察しかできませんね…」
「因みに佑午兄ちゃんは、防御力だけでみれば私達より上よ?」
「ん〜下手すると、神獣や聖獣の類になるかもしれませんね…。何てったって加護ですし…」
「すると…」
「はい。恐らくYUMAさんをリーダークラスに据えれば、この第8師団全てに効果を発揮できるかも知れません」
「そうか…あとはどのくらいの効果を持っているかということだな…」
「それについては、これだけの力を持つ狼なので最大で50%から60%位…(小)でも、10%から15%はいけるんじゃないでしょうか?」
「そうか!素晴らしいな!」
ん〜、どうやらこのトモミと言う女の子は相当信頼されているらしい。
「どうしてそんなに詳しいんですか?」
トモミさんに尋ねてみる。
「はい!父が考古学者だったんです。お父さんの書斎で本を読んでたら自然と身に付いたんです」
目を輝かせている。本の虫と言うか本の山に埋もれるタイプだな。
「へぇ…そりゃ凄いな」
「それで、今の白い狼は恐らくですが…大口真神か、その直系なんじゃないかって思うんです」
「大口真神?」
「そうです。神社もあるんですよ?
日本で狼の神様は、この大口真神とかホロケウカムイの2神が有名ですね」
「「狼が神さま?」」
真魚と真夜も、初めて聞いた単語に興味津々だ。
「狼は1つの群れでかなりの範囲を自分のテリトリーとするんです。そして頭も良く、日本では基本的に人間に害をなすのではなく、人間の害獣を狩って食べるんです」
「えー?赤ずきんちゃんとかは…」
「色んなイメージがあるようですけど、あれは物語なので都合のいい獣に当てはめたかったのかもしれません。
それに、日本は山を神聖視する傾向にあって、立ち入る人も限られていました。すると、山の動物は溢れるわけですが、山を降りて農作物に害をなす猪や鹿が出てきます。そういった獣を食べていたのが狼なんです。
農民からすれば、害獣を駆逐してくれる狼は信仰の対象になったんだと思います」
「そうやって神様ができるのか…」
「はい。人の思いが集まり、紡ぎ、縒られ、それを織って形にしたのが神様だと思います。
特に、日本の神様は異国の神様と違って、神様が多い割に力が強いんです」
「「えっ?どうして?」」
「多神教だからです。1つの神様に縛られず大多数の人が多数の神様を信じています。それに…こう言ってはなんですがゲームのお陰もあったりします」
「「「はぁ?」」」
「どんな神様も、忘れ去られれば力を落とすようにこのEVMは設定されています。
なのに、日本の神様の大半は通常の効果を発揮するものが多いんです」
「つまり…忘れ去られない何かがあったと…?」
「「納得…」」
「納得するのか?真魚、真夜」
「私達は色んなゲームをやったの。だから分かるよ」
「大抵のゲームは何処かの神話が絡んだりする…」
「特に日本の場合、宗教的な中立地帯だから宗教紛争が起こりづらいんです。だからか、異国の神様でもあまり弊害なく力を出せたりします」
「ん〜それってどうやって分かるの?」
「血統神を選択する際、日本だと日本古来、又は日本に起源を持つ神様や英雄が優遇されてエインヘリヤルに補正を与えるんですけど、その補正値の幅が海外と比べて断トツに狭いんです」
確かに生産区の武具が日本式の武具一色に染まらないわけだ。
でも…それで良いのか日本の神様?
「ゲームか〜」
「まぁ今やってるのもゲームだし…」
「それはそうか…」
「で、話は戻るんですけど、世界救済イベント発生の前兆が見えている今、なるべく早くその効果を測っておきたいんです」
「さしあたって何をすれば良いんですか?」
「パーティーです」
「ん?」
「今パーティーを組んでますか?」
「あぁ…」
「なら、それを一旦解除して、団長とパーティーを組んで下さい」
「分かった」
「真魚、真夜パーティーを解くぞ」
「「うん」」
ポポーン
頭の中にパーティーを解いた通知音が鳴った。
「じゃぁ団長。お願いします」
「うん、分かったトモミ君」
加奈さんが目を伏せると、俺の目の前にパーティー申請通知が来たので、頭の中でOKと答える。
ポーン
パーティー結成音が流れた。
…
……
………
えっ?これ…なんかなってんの?
加奈さんを見ると、驚いたような顔をしている。
宙に浮かんでいる何かを読み取っている。
「こ、これは…凄いな…」
「えっ?」
「全団員にスキルが反映されたみたいだ…」
「では…団長とYUMA君は、そのままパーティーを維持してください」
「ん…分かったよトモミ君」
「全団員にはこの事を知らせずに、数日間の運用を開始します。いいですか?」
「えっと…何故ですか?ミキさん。」
「下手に能力の詳細まで明かしてしまうと、どうしてもスキルのせいで…と、いう風になってしまうからです。それよりも…あれ?いつも違う…?という感覚の方がより正しいと感じられます」
「成る程…」
確かに… 師団のメンバーが効果を体感できているか分からないのか…。
でも、何故俺がリーダーでなくとも効果が反映されるんだ?
「恐らく…今YUMAさんは自分がリーダーでなくてもスキルが発揮されるんだ?って思ってませんか?」
う…トモミさんに見抜かれた。
「そうです」
「恐らくですが、それがこのスキルの1番の良いところなんだと思います。つまり、YUMAさんがそのパーティでサブであってもリーダーの効果範囲内で適用できるという事です」
「因みに、団長がYUMAさんを親衛隊リーダーに任命すれば、団長にスキルの効果が届き、団員全てにスキルの効果を伝達できます。それに、親衛隊は前線に出る事も可能です」
っと、ミキさんが補足する。
「あと…この支援効果と威力ですが…私が推測するに、とんでもない効果を発揮するチートスキルかもしれません」
トモミさんは最後に爆弾発言を発した。