一章❺
ミキさんが送られてきたメールを確認している。
「団長…」
ミキさんが加奈さんにメールを見せると、加奈さんがニッっと笑う。
「フレーバーテキストの件だが、当師団のフレーバーテキスト解読の先駆者とも言えるものがこちらに向かっているそうだ」
「えっ?」
「これから3人は何か予定でもあるかな?」
真魚と真夜を見る。2人とも首をぷるぷると横に降る。
「じゃぁ、その子の話も付き合ってくれ給え」
「「「はい」」」
「団長、YUMA君ちょっと良いかしら?」
「ミキさん?」
加奈さんとミキさんは師弟関係にあり、どうしてもミキさんには敬語になってしまう所が可愛い。
「先程のお話の中の刀に関してなのですが…。
そのシン君と会わせて頂くことは可能でしょうか?」
「それは、ちょっと待っていただいても良いですか?」
「何か不都合な事でも?」
「はい。有ります」
ざっくり、切った。
大まかな事しか話していないで、親子としては触れられたくない事もあるだろう。一旦話し合いが必要だ。
「因みにそれは聞いても良い事なのでしょうか?」
「当人達が良いというなら…」
「そう…ですか……」
「考えは分かります。囲っておきたいんですよね?」
「そうです」
ここら辺は腹を割って話す。探り合う関係じゃない。
「お気持ちは分かりますが…「世界救済イベント」
「「「ッ!!!」」」
俺の言葉に割り込んで発したミキさんの言葉に、俺達3人は体を震わせた。
「ミキさん…それ本当ですか?」
「ヤバい…?」
「………」
俺はその言葉に黙ってしまった。
「機密事項だが、うちの主戦力の一端を担ってる君達には伝えておく」
加奈さんが俯き加減で口を開き…
「先週の事だ。世界救済イベントの先駆けとも言える前イベントの兆候を、うちの諜報部が確認した。そして、諜報部からの情報を最優先情報として他の師団にも流したわ」
これはゲームだ。
ゲームだけどリアルな所はリアルだ…。
その最たるものが世界救済イベントだ。
世界救済イベントがサーバー内で解決しない限り、他のイベントは一切発生しない。
世界救済イベントを放置したサーバーは、『大侵獣達』に食い荒らされ、『世界復興イベント』で立ち直るまで他のイベントは一切発生しない。
勿論アリーナもだ。
こんな話がある。
ある人が世界復興イベントに耐えきれず、別サーバーに越境した所、頭上に『Danjer!!』という言葉が出現したらしい。
それは自視出来ず、周りの人から注告を受けて自認したらしい。
その後、そのサーバーは間もなく全てのイベントがストップして、侵獣が発生し大惨事となったらしい。
そしてそいつは逃げ出した先のサーバーのユーザーから吊るし上げられた。
ー 最後まで火消しを終えない限り、世界救済イベントは波及し続ける ー
しかも普段の侵獣戦と違い、世界救済イベントは死にゲーだ。
強大過ぎる敵と何度も何度も戦い続け、何度も何度も死に続ける。
膨大なHPをミリ単位で削り取っていく。
しかし、此方は即死一歩手前の攻撃を受ける。
勝たなければ終わらないし、他のサーバーへ逃げる事は…許されない。
結局、大元のサーバーは、他サーバーのランカーと司令の有志が乗り込み、補給物資を大量に送りこんで終結した。
そうした内容に折れて、ストラトジーやプロダクションへ逃げた人もいる。
それはそうだ、あのむせ返る血と汗と泥の匂いの中、耐え切れるような精神の持ち主は現世界にはそうそう居なかった。
だが、当初はかなり批判の嵐だった世界救済イベントも、今では耐性の付いたバトラーを中心に何とか乗り切っている。
けれど、やっぱり女の子にはキツイらしく、だからこそ女性ランカーは珍しいし、真魚と真夜は姉妹ということもあり、『焔血』と『氷血』という二つ名がついている。
他にも上位ランカーにはぽつぽつと女性もいるが、圧倒的なまでに男性が多い。やはり古代から前線で戦うのは男が多く、血と業に刻み込まれているのだろう。
その世界救済イベントは、サーバー内の団結が鍵となる。
1人の勇者が魔王を討伐するような話ではない。
だからこそ、質の良い武器を作れる鍛治師は貴重なのだ。
「それに…君はその武器を使うのだろう?
まさかその性能を隠したままマックスアリーナを勝ち抜く気なのかい?」
痛い所を突いてくる。流石はミキさんだ。
マックスアリーナはサーバー内の誰もが観戦でき、後からの視聴も可能だ。
俺の武器を見た奴らは、属性武器を欲しがり、製作した鍛治師を探し出すかもしれない。
そうなれば、シンの安住の地はどこにも無くなってしまう。
後二回の予選を勝ち抜けば本選だ。時間はあまり無い。
「分かりました。この話が終わった後説得します。
ただ、その時はあと2人匿っていただきたい人がいます。」
「それは?」
「千草さんと言います。俺の鎧を作ってくれた人です」
「何故…かな?」
「彼女手製の俺の鎧は…結界の機能があるからです」
加奈さんが『結界』の単語の前に、『彼女』という単語にも反応したような気がした。
気のせいだろうか?
「『結界』?先の世界救済イベント後期に、何処からともなく流通したあの特殊防御兵装か!?」
ピッ
「そうです。バリアの方が分かりやすいですよね。
ちょっと、俺の鎧のステータスを読み上げます」
ーーーーーーーー
紺糸威胴丸、大袖・兜付き(特改)
製作者(千草)
基本防御力(B+)+(B+)
俊敏低下(E+)ー(E+)
…
「な、何それ!南蛮鎧と同程度の防御力じゃない!」
「なのに俊敏低下無し…駄兄に勿体ない…」
真魚真夜コンビがツッコミを入れる。
…
大袖防御力(B+)+(C)+(結界(B+)X2)
兜防御力(C)+(Dー)+(結界(C))
結界…SPを消費して全ての攻撃を軽減する。
軽減の結果ダメージが0になる事もある。
ーーーーーーーー
「「「「………」」」」
俺の言葉が終わると、全員が引き攣った顔をしている。
「これは…矛盾かな?」
加奈さんが口を開いた。
「だってそうだろう?現在最高の属性攻撃力と、大侵獣の攻撃にも何度か耐える防御力。コレは矛盾してる。」
「そして、今の話から一つ疑問が湧いてきました。
その千草さんとは、結界石を作ることができるのでしょうか?」
「それがもう1人になります」
「「成る程」」
加奈さんもミキさんも、ちょっと考え込んでしまった。
「ちょっと佑午お兄ちゃん」
「あっ?」
「私達、その人知らない。真夜、知ってる?」
「知らない。この駄兄は秘密主義者…」
2人の視線が痛い…バチバチ来る。
「分かった。第8師団で面倒を見よう」
加奈さんが覚悟を決めたように言った。
「ふぅ…ここまでの事となれば、第1師団と会合を持たなければならないな…」
「そうですわね…」
第1師団は、総司令の役割をしている。
ピッ
「ん?あぁ…例の調査官が来たぞ?」
「あぁ、まぁちょっとした役職みたいなものだ。あまり気負わなくていい」
加奈さんは、手をひらひらさせて緊張するなと促す。
ドンドンドン!
「第8師団戦術部、特殊調査官トモミです!」
「入れ」
「しっ、失礼します!」
「さて、トモミ。紹介しよう彼が例のアクセサリーの持ち主、YUMA君だ」
「初めまして、YUMAです」
「はっ初めまして!トモミです!きょっ今日はよろしくお願いします!」
「うん。よろしく」
俺は席を立って握手をした。
「それでは早速ですが…」
「ちょっと待って、立ったまま話す気なの?椅子を用意するから掛けて頂戴?」
「はっはい!有難うございます!」
言ってミキさんが指を鳴らすと、トモミさんの真後ろにぴったりと1人がけのソファーが現れる。トモミさんはそれに腰を下ろした。