一章❸
どうも低脳イルカです。
もし良ければ誤字脱字の指摘、矛盾、
作品の評価や感想などをお願いします。
五番街の入口には、大きな電光掲示板がある。
そこには、本日競りにかけられる武器、防具、アクセサリー、アイテムが表示されている。
電光掲示板の真下に用意してあるタッチパネルから、刀剣を選び三人で目を通す。
「あっ佑午にいちゃん!これは!?」
「おっ?小烏丸!?マジで!?何で!!?」
「こっちは長船が出てるよ?」
「ウッソや…菊一文字まで出てる…。ん〜嘘っぽいな〜取り敢えず中に入ろうか…」
こういうのは最悪、見て直感に従ったほうがいい。
電子の波の中の情報であっても…いや、電子の中の情報だからこそ、体を駆け巡っている電子が反応すると思っている。
刀剣の部の会場に入る。
そして、刀剣の会場に入った時点で自動的に100万円が引き落とされ、チップに変わる。コレはすぐ競りに参加できる様に配慮された結果だ。何も競り落とさずに場外へ出ると9割が戻ってくる。10万円は入場料だ。
競り落としていた場合、入場料は掛からない。
周囲を見渡すと、既にあたりをつけたサムライ達が、今か今かと舞台の袖を睨んでいる。
このピリピリとした緊張感は対人戦や、侵獣達との戦いの様な感じだ。
因みに、ストーリーモードの雑魚敵は『眷属』となっていて侵獣とはちょっと違う。
基本的にこういった場所に出回るのは名刀クラスだ。神刀や神剣、妖刀、天下五剣、名匠打ちなどはレプリカであり、ホンモノは実装されていない。しかしそのレプリカでさえ、名刀などとは比較にならないアビリティが備わっていたり、そのものの威力が高かったりするので侮れない。
因みに、童子切り安綱、三日月宗近、数珠丸恒次はジャパンサーバーのランカーが保持しているとされている。
さて、1本目が出てきた。何も感じない。
2本目、これも感じない。
3本目、あれ?
そのまま、4本目、5本目と続くが一向に俺のセンサーに引っかからない。確かに何かがあると感じているのに、胸の高鳴りが感じられない。
そのまま競りは続き、第1部のトリ。備前長船のご登場だ。
会場にどよめきが走る。
真魚も真夜も目をキラキラと輝かせている。けれど…ピンとこない。
第1部の競りが終わった。
◆◇◆◇◆
10分のクールタイムを置いて第2部の開始だ。
ん〜正直当てが外れている。
「ほい。佑午にいちゃん、真夜」
「「有難う」」
トイレに行った帰りにコ●ラを買ってきてくれた。
このコ●ラは本家本元が監修にあたって作り上げたものらしい。
と言うか、この炭酸の具合と言い味といい、まんまコ●ラだよこれ。
「ふぅー」
「どうしたの佑午にいちゃん?」
「良いのなかった?」
「なんかピンとこないんだ。いや、何かあるとは思うんだ。だけどそれが何か分からない。ん〜真魚、真夜…お前達はどうだ?」
俺は妹達の観察眼(真魚)と直感(真夜)を信じている。
実際、今日の特訓場のチョイスだって的を得ていたと思う(俺が実力を隠さなければ)し、加えてハイランカー(10位圏内)達に迫る実力を持っていると思うからだ。それに、真夜は鑑定眼を持っている。下手なモノを選ぼうとするなら止めに入るだろう。
「ん〜小烏丸を落とすかな〜?」
っと一言漏らした瞬間、周りがざわざわとし始める。
「ちょっと兄ちゃん!」
「バカ兄…」
2人の妹は小声で叱って来る。
ここでこう言うことを口に出すと、非常にまずい。
小烏丸は切っ先が諸刃になっていて反りが少ない分、突きに優れ斬撃が劣ると言う性能だ。
しかし、俺の奥義・嵐刃は直接攻撃をしない分言うほど斬撃に特化しなくても良い。
それよりも、手札を増やした方がと思っていたのだが…。
とかなんとか考えているとうちに、既に第2部は始まっていた。
2本目、3本目と過ぎたとき、背筋を貫く悪寒が走った。
次に出てきた見た目は何の変哲も無い刀に、俺は過度の違和感を覚えた。
気の所為か、胸の狼の首飾りが震えている感じがする。
競りが始まる。値段は78万円と見た目相応な感じがする。
手は上が…らない。最終宣告迄待ち平静を保つ。
顔は動かさず目だけを左右に動かし、背後には音で対応する。
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ…
心臓の音が聞こえてくる。ここは脳内の世界なのに凄くリアルだ。
俺はおそらくNPCであるオークショニアーの一挙手一投足を見守る。
俺の集中に気付いた真魚と真夜は、方や眼を細めて壇上の刀を見つめ、方や首を傾げている。
一瞬今までのどの刀よりも残念そうな顔を見せ、言葉を発した。
「そ…「はい!80万!!」
会場中が振り向いた。
オークショニアーの一言が、稲妻のように落ちる前に俺の声が遮ったからだ。
勿論誰も意義はない。この後ろには小烏丸と菊一文字が待っているからだ。
俺はウィナーになりホクホク顔で無銘の刀を手にした。
順に一本づつ消化されていき、小烏丸を真夜が、菊一文字を真魚が競り落とした。因みにヒートアップし、お値段は4桁万円迄達した。
◆◇◆◇◆
最後に競売品を受け取り、帰ろうとした時、遠くから呼び止められた。
まだ三人共、各々が競り落とした剣のステータスを見ていない。
何かと思い振り向くと、さっきのオークションのオークショニアーさんが息を切って走ってきた。
「はぁっ、はぁっ、いやーこの世界でも息は切れるんですねー」
「はい。そこら辺リアルですよね。で、どうしたんですか?」
真魚と真夜はお互い顔を見合わせている。
「えっと…YUMAさんでしたよね?」
「えぇ…俺ですけど…」
「ぞ、属性は…何でしょうか?」
一瞬皆んなが周囲を確認する。
都市伝説的な感じだが複合属性ははっきり行ってレア中のレアだ。
俺の属性はストーム…風と雷と水の三重属性だ。コレはパーティー内でも特に外部に漏らせない秘密事項として扱っている。
「それがどうかしました?」
俺は上手く答えずに聞き返す。
「それは…私の身内が打ったモノなんです」
「えっ?」
「失礼しました、私こう言うものです」
背の低いおじさんは、パネルを操作して名刺を送ってくる。
「麒麟堂店主…橘真澄?」
「一応偽名では有りますが、店名は本物です」
「あっ、アレよ!変わったモノを取り扱う事で有名な…」
真魚が思い出したように口を挟んだ。
「そう…なのか?」
真夜もあぁという風な感じで首を縦に振っている。
「取り敢えず…立ち話は何なので、何処か…」
「あぁ、それでは私の店が近くなので…どうぞこちらへ」
◆◇◆◇◆
5分ほど歩き、大通りから小道に入ったところに、麒麟堂と立看板がかけてある店が目に入った。
側からみても独特な雰囲気を発している。
からんからん
と、ベルが鳴ると
「いらっしゃいませー!」
っと元気な声が帰ってくる。
「あっ!おとうさーん!オークションどうだったー?あれれ?お客さん?」
女の子のような男の子のような、それでいてまったりと…という感じの、お父さんに似て身長低めのお子さんがカウンターから出てきた。
しかも、恐らくカウンターに身長が足りないのだろう。
座っていた椅子から、カウンター越しに飛び出てきた。
「よっと。お父さん、この人達は?」
「アレを競り落とした人だよ」
「えっ!?アレを?本当に!?」
目をキラキラ輝かせて、俺達三3人を見つめてくる。
「で、誰が買ってくれたの!?」
「この人だよ」
俺の肩にぽむっと手を置いてきた。
「うわぁーーーい!!」
俺の胸と腹の中間辺りにダイブしてくる。
「おっと…」
俺は真魚と真夜に顔を向けると、さぁ?というジェスチャーをされた。
◆◇◆◇◆
「この子が作成者なんです」
「えっ?コレのですか?」
長テーブルの上に、先程競り落としたばかりの太刀を置く。
ニッコニコとしながらこっちを見つめてくるちびっ子。
「申し遅れました。リアルでも私の息子で有り、こちらでは加持師を営んでおります橘慎です」
「慎です。どうぞ宜しくお願いします!」
「こう見えても今年16なんですよ」
「「「はぁっ?」」」
いやいやめっちゃちっちゃいだろう…。
「私に似てしまったというか…身長が早い時期に止まってしまいましてね?それで学校でイジメにあってしまいまして…」
それは…小さいだけじゃ無いと思うんだ…。美少年だし…。
「えっ?でも監視されてるんじゃ?」
「はい。けれど、上手いこと通学、下校時などでやっていたみたいで…ぼろぼろの格好で帰ってきた時、私は直ぐに特別調査員を文科省に依頼しました。
そして直ぐにイジメをしていたグループは、特別鑑査教室へと転向していったのですが、慎の心の傷を癒すためにEVMで加持を習わせたんです。
麒麟堂はこのEVMが出来て間も無く起こしたもので有りましてね。知り合いもおりましたし、慎に適性があったのでしょうメキメキと上達いたしまして…」
成る程…それで一心不乱に打ち込んだ結果、こんな見事な刀を打つまでに至ったんだな…。
「属性武器を打てるほどになったのです」
「「「はぁっ!!?」」」
属性武器とは?そんなバカな…。
「この刀は数年前に起こったクエスト、『千疋狼』でレアボスとして登場した『大妖狼の爪』を元に、雨玉、風玉、雷玉を溶かして練りこみ打ち込んだ逸品です」
「属性刀…そんな刀聞いたことがないです。辛うじて村雨あたりが…」
「素材は私の鑑定眼で吟味に吟味を重ねたものを使用しており増して…息子の才能に合わせて火事場を増強、補強させました。勿論、お嬢様方が競り落とされた刀も本物ですが、今回それはダミーとして用いさせて頂きました。しかも、鑑定眼を持っていらっしゃる方もおられますので、この刀のステータスにはダミーを貼らせて頂きました」
そう言えば、EVM内での作成物には偽情報を被せることができるとか…都市伝説じゃ無かったんだ…。
ふと横を向くと真魚と真夜が複雑な顔をしていた。
そりゃそうだ。暗に観る目がないと言われているようなものなんだから。
名刀は言うて一般の刀より切れ味が良かったり、何らかしらの性能が良かったりするが、天下五剣やそれに類するものとまではいかない。
けれど、属性武器は違う。キッチリとした素材で、高品質の物を練りこめば、それは天下五剣などに敵うモノとなってしまう。或いはその上に座してしまうかもしれない。
今も、俺の胸の首飾りが震えている。いや、共鳴しているのかもしれない。
類稀な才能が泥水を掻き分けて咲いた。もう、それはまるで蓮の花のようだ。
俺が鍔一杯に柄を握り、一息に鞘を抜いて地面と垂直に刃を立てると、一瞬だけ風が巻いた。
そこにいる皆んなが目を見張った。勿論俺もだ。
「お兄さん凄い!刀が喜んでる!!」
そして刀の心のわかる少年は、刀の心を代弁した。
どうやら俺はこの刀に認められたようだった。