一章❶
どうも低脳イルカです。
もし良ければ誤字脱字の指摘、矛盾、
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「う、あ…」
目が覚めた。ホームのベッドの上だ。一度ロストすると毎回設定した場所に転送される仕様だ。
ふぅ、まだ真魚も真夜も戻って来ていないらしい。
まぁ当たり前か、彼処からここまでは何回か中継点を挟まなければならず、すぐすぐ戻ってくる事はできないからな。
チャリ…
手のひらには狼を象った首飾りが握られている。
それを首に掛けながらあの時のことを思い出していた。
◆◇◆◇◆
あの時俺は確実に一太刀入れた。あの首輪にだ。
そして次の瞬間、白狼のブレスが俺を包んで俺の意識は消し飛…ばなかった。
「小僧…妾に当てず、首輪だけを狙うたその腕前は見事なものじゃ。
目には見えぬ亀裂が入ったお陰で、妾の意識がより強くはっきりしたものとなったのじゃ」
白狼はかなり嬉しそうだ。物静かな物腰が少しだけ浮かれた感じになっている。
「そうか…で、ここどこ?」
辺りは真っ暗な空間だ。地面はなく、浮遊している感じがする。
俺の目の前には、平安貴族風の十二単を纏った女性が浮かんでいる。
「ここは妾の作り出した結界じゃ。現世では時がほんの少しだけ止まっておる」
「そんな事してバレないのか?」
この白狼を餓狼の谷に捉えているのはWSMだ。
如何いったものかはわからないが人工知能なのか?
「ふふ…先程の小僧の技と妾の吐息で場は荒れておる。それにこの逢瀬は一瞬。気づかれてはおるかもしれんが話まではわからぬであろう。それとな小僧…妾は人工知能などというものでは無いぞよ」
「心が読めるのか?」
「ここは妾の空間ゆえにな」
「では…なんなんだ?」
「それを話すには時が足りぬ」
「今はコレを渡すだけに留めておこうかえ」
チャリ…
胸に何かが当たる感触がある。
「コレは…?」
「それは妾の魂魄の一部を写して封じておる。そして、それを通じて妾の加護をそなたに与えることが出来るのじゃ」
「マジですか!?」
本気で成長率の悪さに辟易していたので俺は歓喜した。
「しかしの、妾の本来の力が出せぬのでな…残念じゃがその効果も限定的なものじゃ」
「そうか…」
「落ち込むで無い。今はお主の能力をほんの少し上げ、感知能力を追加するぐらいじゃが、お主の入れた罅をこじ開け、いつか現世に舞いもどろう。その時は妾の加護を存分に堪能するがよいぞ?」
「その時はまた会いに行くよ」
「うむ…。そろそろ刻限じゃ。最後になったがお主の名を聞いておこう」
「俺は佑午だ」
「良き名じゃ…妾の名は……」
◆◇◆◇◆
名前の部分までは聞き取れなかった。
いや、なんか抜け落ちてる気がする…。
何度思い返しても浮かんでこないので、とりあえず今はコレの効果を確かめておきたい。
そう思いながらステータスボードを開くと、全能力に補正が付いていた。
ーステータスー01/02ー
名前【YUMA】(♂)
血脈【スサノオ】
属性【ストーム】
職業【サムライ】
HP Aー
SP C
筋力 B+
体力 B
俊敏 B+
知性 Cー
精神 C+
機運 A
右腕【ーーーーーー】
左腕【ーーーーーー】
頭【ーーーーーー】
体【ーーーーーー】
腕【ーーーーーー】
腰【ーーーーーー】
足【ーーーーーー】
他【狼の首飾り】★
他【ーーーーーー】
他【ーーーーーー】
ーーーーーーーーーーー
元は全て1つ下だった為、全能力がワンランクアップするとかもうとんでもない効果だ。
しかし、狼の首飾りの横に星マークが付いているというのは何だろうか?
でも…何というか…その他の装備一式ロストしてた。装備を大事に使って買い替えをして無かったから金は結構あるけど、思い入れのある武具が綺麗さっぱり無くなっているのは本気で痛い。
気を取り直してアビリティボードをチェックすると、狼の心(小)と警戒心(小)というアビリティが追加されていた。
ーアビリティー02/02ー
暴風の王(中)
狼の心(小)New!
警戒心(小)New!
刀技(大)
ーーーーーーーーーーー
「警戒心は感知能力なんだろうけど…狼の心?なんだコレ?」
加護という言葉がなかったので、恐らくコレが加護の事なんだろうと思いながらも取り敢えずタップする。ポワンと音を立てながら能力名、能力内容、フレーバーテキストが湧き上がる。
ーーーーーーーー
◉狼の心(小)★★★☆☆
◉能力
パーティーを組んだ仲間との連携、支援に関する成功率上昇(小)と威力上昇(小)
◉古き狼と心を通わせた証。
狼は群を強く意識し、固い結束が群を活かし生かす事を本能で知っている。
ーーーーーーーー
星3つなのでレアスキルだ。しかし、EVMでは★3以上のスキル付き装備品は稀で、しかもステータス向上、★2スキル、★3スキルが一個づつ付いているので、気持ちとしては星5つ…スーパーレアクラスのアクセサリーだと思った。
しかし、この『狼の心』はパーティーを組まないといけないので、闘技場には向かないな…。まぁ、探索、侵獣戦用と割り切るか。
ガタッ
下で音がした。恐らく真魚と真夜が帰ってきたんだろう。
ベッドから降りて1階に降りることにした。
「お帰り」
「お兄ちゃん!ちょっとアレどういう事!?」
あぁ…真魚様はご立腹だ。
後ろの真夜は直接口には出さないが、黒いオーラを纏っている。
俺は階段を下りながら顔を引攣らせる。
「んん〜何のことかな〜?」
実際、どの事を突っ込んでるのかわからなくて聞き返してみる。
「とぼけてもダメ!」
◆◇◆◇◆
俺は帰ってきたばかりの真魚真夜に、事情聴取を受けている
「うぅ…」
「先ず1つ目!どうして狼の群をあんなに簡単に捌けたの?」
「えっと…練習してた…」
「ふむふむ、佑兄は私たちの知らない間に特訓してたと…」
「じゃぁ、あの予選試合の内容は?」
「本線への布石」
「ふむふむ、実力を隠匿していたと…」
なんなんだ…すごく悪い方へと解釈されている気がする。
「2つ目!どうして白い狼が出てきたの?」
「それは知らんがな…」
「ふむふむ、すっとぼけと…」
本当に知らないものは知らない。
「3つ目!あの大技は何!?あたしたち聞いてないよ!?」
「う、うん…。びっくりさせようと思って教えてなかった…」
「ふーむ…、秘匿していたと…」
「何なのこの尋問は!取り敢えず縄を解け縄を!!」
俺は絶叫した。
そう、俺は椅子にぐるぐる巻きに固定され、ログハウスの地下一階の真っ暗な地下室でロウソクの揺れる光に照らされながら尋問を受けているのだ。妹2人曰く雰囲気が大事だそうだ。
「あ、佑兄、反抗的態度…」
「佑午兄ちゃん…今の佑午兄ちゃんは反論する権利はないんだよ?」
「えぇ…」
「取り敢えず、隠している事を全て洗いざらい曝け出して貰おうかな?」
2人はこちょこちょセットを握りしめ、じわじわと俺に躙り寄るのであった。
◆◇◆◇◆
「ふぅ…」
「真魚姉」
「お、サンキュー」
真夜が真魚に水の入ったコップとタオルを渡す。真魚は受け取ると水を一気に飲み干した。そしてその横には、縄を解かれたが笑い過ぎて立つに立てない俺が打ち捨てられている。
「まぁ…だいたい分かったわ」
「うんうん」
真夜はメモ帳を見直している。
「最終的に、可愛い妹にまで秘密を隠そうとした佑午兄ちゃんが全面的に悪い万死に値するわ」
「そだね。ズッズズズ」
真夜は小さなラウンドテーブルの上に置いていたコップを手に取り、ストローでメロ●サイダーの残りを吸い上げる。
「まぁ、私達は優しいから。ここまでにしといてあげるわ」
「うん。私達は優しい」
妹達は、たわわに実った胸を強調させるように胸を張った。
悪魔のような笑顔で…。
「う…うぅ…」
「ところでお兄ちゃん」
「んぁ?」
俺は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を気合を入れてあげる。
「何で、装備品着てないの?」
◆◇◆◇◆
漸く立ち直った俺は外行き用のスキンを選ぶ。
「本当にも〜私達がいないとお兄ちゃんホンットにダメなんだから〜」
「ダメ兄…ダ兄…ダニ!!?」
「真夜やめてあげて!お兄ちゃんのHPは2よ!」
「大丈夫、バルサン焚く」
「トドメ刺した上にオーバーキルじゃねーか!!」
「佑兄の命は風前の灯火…」
「怖いこと言うな!」
とか、兄弟愛溢れる会話を垂れ流しながら俺たちはEVM生産系エリア。プロダクションへ移動するのだった。