表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EVM 〜侵獣大戦〜  作者: 低脳イルカ
序章
2/9

序章❷

どうも低脳イルカです。

もし良ければ誤字脱字の指摘、矛盾、

作品の評価や感想などをお願いします。


「…ゃん」


 ん。


「佑午兄ちゃん」


 目を開けると、真魚の顔が迫っていた。


「うわ!」


 俺は横に転がってそれを回避する。


「んふ〜。だって佑午兄ちゃん起きないんだもん」


「いや、だからってキスしようとかしないだろっ?普通!」


「いいじゃん。無くなるわけでもあるまいし〜」


「馬っ鹿!俺には心に決めた人が…!」


「決めてるだけじゃん?」


「っな…」


「アタックも出来ないヘタレのクセに…」


 くくぅ…ぶち壊したいそのニヤニヤ!


「佑兄…」


 声の方を向くと、クローゼットの隙間から顔を長髪で隠した何かが手を伸ばしている。


「ぶっは!やめろ真夜!こえーよ!!」


「ちぇ」


 のそのそと出てくる真夜。


「ほら〜早く起きないと〜。

 今日は佑午兄ちゃんのキャラの強化日なんだから!」


「あっはい。有難うございます」


 俺はゲーム用に使うラウンドアイを持って部屋を出て、リビングに置く。そのあと洗面所に向かい、ばっと顔だけ洗うとすぐにリビングへ舞い戻る。


「よっし!じゃぁやろうか!!」


 そう言いながらラウンドアイを装着し起動させる。

 3人共テーブルの前に置かれた3つのソファーに各々横になる。


 ラウンドアイはWSMが開発したもので、同じくWSMが開発、運営をしている『高速衛星通信網アースネット』を経由して、全世界にリンクする為の端末で、その運営費は世界各国で補助されていて、一般ユーザーが利用する為の金額は五百円程度だ。


 そして、このアースネットとラウンドアイを通して、様々なドローンやドールを遠隔操作する事で、余程の場所でない限り作業ができるようになった。


 そんな関係企業のロゴマークが集まった画面が一瞬流れ、ホーム画面が展開される。


 サードアイに集中しながらEVMを起動させる。

 流石、前大会の賞金の副賞として送られて来た第8世代ラウンドアイだ。

 現行の第7世代型と違って恐ろしい程反応がいい。生活、仕事用とゲーム用を分けている俺としてはその差は歴然だ。


 そして、この第8世代ラウンドアイは真魚も真夜もつけている。


 スタートすると、兄弟で使っているホームに転送される。

 丁度よく真魚も真夜もインした。


 うちのホームは丸太づくりのウッドハウスだ。

 中はでかい絨毯に4〜5人用の木製のラウンドテーブル。

 そして立派な暖炉だ。昨日の夜やっていた『浅層潜行』と違い、『深層潜行』は熱量なども感じ取る事が出来るから素晴らしい。

 因みに浅層潜行は主に屋外などでの移動時に用いられ、深層潜行は屋内で危険が少ない時に用いられる。特に、深層潜行はラウンドアイに情報は映らず、サードアイを経由して脳内に直接送り込まれる情報が優先されるため、眼から得る視覚情報が一時的に遮断される。


「では、佑午兄ちゃんの育成計画と本日の狩場を話し合います。拍手!」


 ぱちぱちぱち


 いつもの事で、ここで乗ってあげないと拗ねるので手を叩く。


「先ずは、昨日の佑午兄ちゃんのプレイデータです」


 グループ内の親密度が高いので、真魚、真夜でも閲覧可能だ。

 真魚はそれをグラフにして各自の目の前に投影した。

 グラフには攻撃頻度、スキル使用頻度、命中率、回避率、防御率、回復率、与ダメ、被ダメの平均と4試合分の個々のデータが載っている。


「では、思いつく事を1人1つづつ上げていきましょう!


 では私から!手数が少ない!次、真夜!」


「防御率が低い。故に被ダメが高い」


「次、お兄ちゃん!」


「回避率高い」


 …

 ……

 ………


「色々出ましたが…結局、手数が少ないから相手に付け入る隙を与え、その相手の攻撃を回避だけでやり切ろうとするから被ダメが高く、防御率が悪くなるんだよ!お兄ちゃん!」


「えぇ…でも俺風属性よ?避けるのが普通じゃない?」


「だまらっしゃい!真夜ちゃんも言ったげて!」


 分厚い一枚板のテーブルをバンと手で叩きながら真魚が叫ぶ。


「真夜は佑兄を千尋の谷へと突き落とす」


「…えっ?それってどういう?」


 俺は顔を引きつらせながら真夜を見つめる。真夜は目を伏せている。


 ふと真魚を見ると口に手を当ててふるふると震えている。


「ま…真夜あんたって子は…。

 いつもお兄ちゃんお兄ちゃんって言ってたのに…」


「真夜も心配…。あんな場所に佑兄一人で行かせるなんて…。

 でも!佑兄はやればできる子!絶対クリア出来るはず!」


 何だこの三文芝居…。絶対最初から決まってたやつだろコレ…。


「と、言うわけで行くわよ!」


「行こっか佑兄」


「うぇ〜?」


 ◆◇◆◇◆


「なぁ…マジでここ行くの?」


 コクコクX2


「なんか…下には狼がウヨウヨしてんだけど?」


 あーこいつら俺を叩き上げる気だな…。


「解説が必要ね。ここは餓狼の谷って言って、能力UPやスキル獲得の為の試練場なの。そしてクリアすれば特典があるの」


「ほぅ?」


 俺のエインヘリアルには、超大器晩成というかなりでっかい重みがあるから、今の言葉にも重みを感じてしまう。


「佑兄。見て?彼処に挑んでる人がいるよ?」


 真夜がそのエインヘリアルの方に指を指す。


「ぎゃぁぁぁああああああ!!!」


 餓狼に四方八方から襲われ、身に付けている軽鎧が食い千切られていき、空いた場所からどんどん牙が立てられて行く。

 残った場所には、ボロボロになった軽鎧と剣だけが散乱していて、文字通り骨さえも残らなかった。


「ぇえ〜…」


 真夜はおもむろに腕を下ろして目を逸らしながらこう言った。


「ま、ああいう事もかなりある」


「かなりあるのかよっ!突っ込み多過ぎだろココ!?

 ありゃあトラウマもんだぞ!?」


 このゲームは完全にロストするまでタイムラグがある。

 今死んだアイツはロストするまで相当な恐怖を味わったはずだ。


「佑午兄ちゃん…」


 背後からガシッと肩と腰に圧力が感じられる。


「真魚…ちょっと待…」


 悪寒が凄まじい。


「四の五の言わずとっとと行け!!」


 真魚のエインヘリアルの血脈は加具土命。

 須佐之男命には及ばないが、そこそこ力のある神様だ。


「うっわ!」


 俺はこの危険すぎる谷に放り込まれた。


 ガシャ!

 体を衝撃が襲う。


「いっててて…マジか…」


 顔を上げると既に餓狼が数匹近寄って来ている。


 本能が訴える。危険だと。

 幸い落ちた場所がこのエリアの端に近く、直ぐに刀を抜きながら体勢を整え、ジリジリと隅へ隅へと移動する。


 グワゥ!


 飛び込んできた餓狼を、青眼から真横へ移動しながら横一文字にする。

 影に潜みながら迫っていたもう一頭も、腕を返しながら断つ。


 数多の攻撃を躱し、迎撃しながら、少しずつ少しづつ隅へと移動する。


 さっきのエインヘリアルは、八方から襲われていた。

 切り捨てた感触では個々の能力は然程高くはないが、集団戦闘が巧みなんだと思う。まぁ…狼だし?


 そして端に寄ったのは角度を狭める為だ。

 360度を90度にすることが出来れば、捌くのは難しくない。


 基本今でも壁を背に、俺に気付いた餓狼だけを処理している。

 集団戦闘をなるだけ回避しながら、少しでも有利な場所を確保する。

 それが喰われない為の最善だ。


 ◆◇◆◇◆


 鬼畜な妹2人は崖上から戦況を眺めていた。


「ん〜だめだなー落とすとこ失敗した。」


「だね」


「まぁ、クリアするだけならアレでいいんだけど…さっきの喰われてたやつを見ただけであそこまで至る所は、流石佑午兄ちゃんなんだけどなぁ〜」


「チキン兄」


「ん…おっ!真夜…あんた良いこと言うね?」


「??」


 急にエインヘリアル初期装備品のマジックバッグに手を入れて、ゴソゴソと何やら探し始めた。


「あっれー?ここにー…あっ!あったあった!!」


 ゆっくりと例のモノを取り出す。


「おー、流石真魚姉」


 それを見て真夜は、直ぐに姉の思考が読めてニヤニヤし始めた。


「でしょ〜?じゃ、頑張れ兄ちゃん」


 それをポンと愛しの兄の前に投げ入れた。


 ◆◇◆◇◆


 ドサッ


「あん?」


 このエリアの端まで後10メートルも無い所まで来た時、それは天から舞い降りた。


 それは良い塩梅のキツネ色に染まり、芳醇な香りを周囲に漂わせるほっかほかのローストチキンだった。


 俺は戦慄を覚え崖上からニヤニヤと笑う妹達を見上げた。

 そして、ここまでして俺を追い込む妹2人に恐怖した。


「マジかあいつら…」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ