序章❶
どうも低脳イルカです。
もし良ければ誤字脱字の指摘、矛盾、
作品の評価や感想などをお願いします。
パーパパ、パッパッパ、パー!!
脳内の画面上には『WINNER!!』の文字が浮かんでいる。
高機能通信端末『ラウンドアイ』で流行っている『エインヘリアルVSモンスター』=『EVM』の闘技場バトルだ。
今日も颯爽と勝利を決めた俺は、手にしたゲーム内の賞金でエインヘリアルの強化を行う。
強化といっても、基本的には食事だ。エインヘリアルのステータスにあった食事を摂らせ、少しづつ強化していく。
俺のエインヘリアルは、須佐男尊の血を引くという設定になっている。
須佐男尊自体、暴風雨の神様でだったから、4大精霊で言うところの風や水の要素が強く、風の神なのに攻撃力が高いのが特徴だ。
しかし、須佐男尊は三貴神の1人とこの日本では崇められているが、ゲーム内でこの神様の血を引いていると、大器晩成のキャラになりがちで、結構育成が厳しく敬遠されている。
しかも残念な事に、俺のエインヘリアルは超大器晩成となっているようで一人でやっていたら一向に育成が進まないというオマケ付きだ…。
さて…このゲームの事だが、運営会社が運営会社なだけに、日本のみならず世界各国でプレイされていて、3ヶ月に1回開催される『マックスアリーナバトル』は、リアルマネーを手にすることができるので白熱したバトルと緊張感を味わうことが出来る。
今日はその予選で、リーグ総当り戦4試合を戦った。結果は4戦全勝。
前マックスアリーナバトルで俺は、ジャパンエリアで68位迄食い込んだ。出来れば今回は更に上を目指したい。
ピピッ
「んっ?」
脳内に通信音が響く。
どうやら仕事が来たようだ。
ー2050年。世界の仕組みは激変していたー
ベースは2020年代に隆盛した、体内に埋め込むマイクロチップ。
そこから発展して、眉間の数センチ上に受発信機たる『サードアイ』を埋め込み、そこへラウンドアイを通して脳との直接データのやり取りを行う。
これによって、会社への出勤は激減した。
出勤も擬似社内があり、そこで働く為に出勤の管理も容易い上に、ブラックな発言や勤務形態は直ぐに労働基準監督署に通報される。
勿論、営業の人は今でも外回りが必要な顧客の為に会社への出勤はあるけれど、週に半分程度の出勤で抑えられ、人が減ったせいで移動もかなり楽になったという。
販売職も、擬似百貨店に出勤し売買を行い、モノは配送される仕組みになっている。
生産職も、機械人形が1人1体支給され、かなりの重さのものも耐え、人間ではあり得ない可動域を実現する。
研究職も殆ど同じで、機械人形が支給される。こちらの機械人形は眼に特化していて、肉眼では捉えられない細胞や細菌をその場で認識できる。
子供達の学習は入学、卒業以外は自宅で受けるようになり、擬似教室に入室して受けるようになった。
外に出るのは、最低限の身体能力を得るための体育の授業を受ける為に、増設された公営の体育館やプール、運動場を使う時くらいだ。
そして、部活動は運動系はそのまま体育館、プール、運動場。
その他は殆どラウンドアイから擬似部室へ入室する。
直接的な触れ合いが少なくなり、管理する場所が限定され、擬似教室内も記録されている為、イジメや体罰は激減した。
教師も下手な指導をすると文科省から指摘が入る為、偏った指導は減る傾向にあり、出欠や居眠りなども見逃されなくなった。
ただ、トイレや間食などは基本的に自由で、ちゃんと用を済ませながら授業を受けることが出来る(トイレ、間食スイッチ)ようになった。
この大幅な改変により、2030年代、2040年代は様々な問題が起こったが、それを乗り越えてラウンドアイも第7世代となる。
そして、このラウンドアイを支えるシステム『ラグナロク』を運営するのがコングロマリット『World Stable Mechanism(世界安定機構)』=『WSM』だ。
そして、WSMはEVMの運営会社であり、俺が務める会社でもある。
ピピッピピッ!ピピッピピッ!
とか何とか仕事をこなしながら今のご時世の事に耽っているうちに、今日の勤務時間が終わった。
俺は数日先までの仕事迄終わっているので、緊急性の高い仕事が来ない限りは基本的に暇だ。
勿論、舞い込んだ仕事は『脳内思考加速機能』を使って、なるべく早く全力で片付けている。
「う、うぁ〜」
俺は上体を起こして背伸びをすると、超低反発マットが敷いてあるベットを抜け出し、ラウンドアイを机に置いてキッチンへ向かい、オーブンレンジに薄い食パンをセットしてスイッチを入れる。
そしてバスルームに向かってシャワーを浴びる。
最初はぬる目で段階的に熱くして髪を洗い、体を洗う。
「ふー」
置いてあるバスタオルで水気を拭いて、髪を乾かすと本当に生きている気がする。
そしてまたキッチンへと向かい食パンをまた焼き直し、冷蔵庫を開けるとラッピングされた鳥の胸肉と、野菜の盛り合わせを取り出す。
鳥の胸肉は3等分に切り、それと野菜の盛り合わせを大きめの皿に移し、それらを4人がけのテーブルに並べる。
そして、ケトルからお湯を注いでコーヒを3杯作り、冷凍庫から氷を3つ摘んで一個ずつコーヒーに落とす。
チン!
これで、カリッカリの食パンが出来た。
それは別の皿に一枚づつ乗せてテーブルに置くと、妹の部屋に赴く。
コンコン。コンコン。
…
……
………
コンコン。コンコン。
…
……
………
「入るぞー」
ガチャっとノブを回して中へ入ると、妹のようなものが毛布にくるまったたままベッドから落ちて芋虫になっている。
毎朝思う。どうしてこうなった?我が妹ながら恐ろしい寝相だ。
しかも、ラウンドアイを装着したままだ。
コイツ、EVM起動させたまま寝落ちしたな?
「おい、真魚起きろ」
「う〜」
「おい、真魚起きろ」
「う〜」
「おい、真魚起きろ」
「ぅ?う〜」
この…駄妹が……。
俺は、真魚のラウンドアイの電源を落として強制的に取り外し、ベッド側に立って毛布の端を持って一気に引っ張る。
コロコロコロと転がりながら、ぅうわ〜とか喚いている。
「痛いよ!佑午兄ちゃん!!」
「で?」
「何でこんな事するの!?」
「はっ?」
「何で…」「朝飯はいらんのな?」
「食べるよ!」
「じゃぁ…」
「顔洗ってくる〜」
横を猛スピードで駆け抜けていった。
ふう…。よし次は…。
そう思って廊下に出ると、
「お早う佑兄」
背後からふわっと現れる。背筋がゾワっとした。
振り向くと顔が隠れるように髪を前に垂らして接近するもう1人の妹がいた。
「おぅ!?びっくりした〜。…お早う真夜。
その、昔流行ったホラー映画風に驚かすのやめてくれる?」
「えへへ〜ダメ〜」
これは真魚の双子の妹の真夜。真魚はショートに対して真夜はロングだから、こうやって驚かせてくる。
「ごはーん!」
そこへ真魚が突入してくる。
落ち着けよ駄妹。
「じゃぁ、朝ご飯にしよう」
3人で食卓を囲む。何時もの日常だ。
「頂きまーす」「「頂きます」」
「モグモグ佑午兄ちゃん、お仕事は?」
「真魚、口に物入れて喋るな。今日と明日はお休み」
「じゃぁ、EVM出来る?」
「あぁ、真夜。大丈夫だよ」
「モグ…今度の大会も100位内に入って賞金ゲットしなきゃね?」
「前回の大会も3人で一千万超えたからな〜」
「佑兄330万円。真魚姉が510万円。私が460万円だったからね〜」
「佑午兄ちゃ〜ん?今度も私達の勝ちかな〜?モグモグ」
「おまっ!今度は絶対勝ってやっかんなー?」
EVMのジャパンエリア賞金算定は簡単で(100ー順位+1)X10万円だ。
俺は前回68位だったので、
(100ー68+1)X10万円=330万円だ。
真魚は50位、真夜は55位だった。
EVMを始めたのも賞金が目当てだったのと、3人共EVMに適性があって更に兄弟で毎日バトルと研究会を開いた結果、ここ数回の大会で3人共毎回ランクインを果たしている。
「でも佑午兄ちゃん、夜勤だったんでしょ?大丈夫?」
「んーまぁ少し寝るからお昼からかな〜」
「ん。分かった。佑兄の分頑張る」
「頼むな〜」
「あ、後片付け私達がやっとくから寝て来なよ」
「お、じゃぁ頼むわ。1時ごろになっても起きなかったら起こしてくれ」
「ん。分かった」
俺は席を立って洗面所に向かい、歯磨きをして自室に戻る。
そして受信機にサードアイを経由して思念を信号に変え飛ばした。
すると遮光カーテンが自動的に閉まり始め、エアコンが適正温度と湿度に環境を整え始める。
俺はそんな中ベッドに横になり目を閉じた。