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9 争奪戦2

「ふふふ、レイ達はどこに隠れていたのかしら?」

「消えた後、まだ広場にキミたちがいるだろうと思って、屋上の弓士たちを倒して様子見していたのさ」


そうだ、忘れてた。

屋上に走っていく子たちを見たけど、そういえば私もキースも彼らを倒した記憶がない。


「あら、ありがとうというべきかしら。私達を狙っていたから、さぞや倒しやすかったでしょう」

「はは、本当にね。面白いぐらいに倒せたよ」

「去年と同じく僕たちが残ったね~」

「ふふふ、去年と同じには行かないわよ!」


私はポケットに忍ばせていた小さな瓶の蓋を親指できゅっと外し、手をレイたちに振り向けて中身を投げつける。小さいケースが飛んでいき、咄嗟に防ごうと腕を上げて顔を隠すレイ。

キースがケースに隠し持っていた小石を弾き、直撃。途端、黒い煙幕が広場を支配する。


争奪戦を退場して見学している生徒たちは、煙幕に阻まれて何も見えない。


『暗視』『気配断絶』

私はキースと自分自身に暗闇でも見える魔法をかけ、キースがレイに斬りかかる。

レイは察知したのか、寸での所でキースの剣を受けるのが見えた。

2人が切り結ぶ音を聞きながら、私はその場から数歩左へ移動する。

先ほど私がいた場所を、エルヴィオの放った氷の刃が飛んでいった。


エルヴィオが、煙幕を使う前の私の場所を正確に覚えて攻撃をした。

『風塵』

手応えがない事に諦めたのか、エルヴィオが風魔法で煙幕を吹き飛ばそうとしている。

私はそろりとエルヴィオの側にいき、準備していた小瓶を開けて、中身のカプセルをエルヴィオの足元へ向けて投げつける。


「ああっ!!」


風魔法を使っている最中のエルヴィオは、他の魔法を使うことができない。つまり、隙だらけだ。

レイはキースがひきつけているおかげで、助けに来ない。

剣を打ち合う音は今も続いている。

そこへ私の攻撃にエルヴィオはなすすべもなくくらう。足元には粘着性の高いアメーバのような物体。

動けなくなったエルヴィオは、その場に尻もちをついた。足を固定されているのだ。他に動きようがない。


「マリテーヌ…さすがだね」

「簡単に引っかかってくれて助かるわ」

「まさか、こんな初歩的な手を使うなんて思いもしなかったからね」

「ふふふ、降参してくれてもいいのよ?」

「レイは…」


エルヴィオの視線がレイ達へと向いた。

つられるように私もレイとキースを見る。

煙幕はエルヴィオの魔法によってほぼ消え去っている。

離れた場所で、キースとレイが剣を交わしているのが見えた。


ほんの一時キース達に目を奪われただけだ。

エルヴィオに視線を戻すと姿が消えていた。

息を飲み、焦ってその場から移動する。

どこ…?…アメーバは…少し溶けている…。

熱魔法で溶かしていたのか。

油断したことに口の中で舌打ちをする。


「ぐあっ」


声のする方を向けば、レイとキースがいた場所にキースの姿がなく、遠くに吹き飛んでいた。

エルヴィオが私のさらに後方に移動して、風で突風をキースの側に起こし、吹き飛ばした。

広場の周りに立っている木に、キースは身体を打ち付けていた。


レイが私に向かって斬りかかってきた。

咄嗟に右手で防壁魔法を発動させ、透明な膜のような壁が私の前に広がり、レイの剣を受け止める。

後ろからエルヴィオが槍のように細長い氷を私に向かって飛ばしてくる。

左手で防壁魔法を使い、氷の槍を防ぐ。

両手が防壁魔法により塞がっている状態だ。


「くっ…」

「さすがマリーの防壁は固いね…じゃあ、これはどう?」


両側から防壁を押さえつけられていて私は動くことができない。

防壁に押し付けている剣から火が噴き出す。

「属性付与!?」

ニヤリとレイが笑った。防壁は物理攻撃に強いが魔法攻撃に弱い。

魔法を付与された剣がジリジリと防壁に食い込んでくる。


武器への魔法属性の付与は魔法への深い知識がないと出来ない。

なので、学生が使えること自体が稀だ。


どうする?エルヴィオの魔法攻撃も止まない…。


ちらとエルヴィオに視線をやった時、エルヴィオが横に飛んでいた。

キースが先ほどの仕返しとばかりに、横から蹴りをいれたのだ。

本部席の方へと飛ばされ、椅子や机、先生方と揉みくちゃにになった。

キンと音が鳴り、振り向けばレイとキースが剣を交えていた。

「お前ら、よくもやってくれたな。まともにくらっちまった」

「あはは、キレイに吹っ飛んでいたよね。剣を振るうのに夢中になりすぎるから、魔法に気づかないんだよ」

「このやろう…」


エルヴィオは気絶したようで、赤判定だ。

さて、私はどうしようか…、キースと一緒に…。


ふと胸の奥がざわつく。なんだろう…嫌な感じが…。


気づくと斬り結んでいた二人の動きが止まっている。

視線の先を見ると、黒い霧のようなもやが広場に広がっていた。


2人が私を振り返る。

え、もう黒煙の薬使ってないよ、とふるふると首を振る。

それにあれは…瘴気だ。


その霧の中から角が現れた。じわじわと霧から黒い何かが這い出てくる。

その姿はとても大きく10メートルはあるだろうか。

真っ黒い牛…ミノタウロスのようなの身体に馬の身体を繋ぎ合わせたような魔獣が現れた。

馬の背中には蝙蝠の羽のような翼が4枚に、馬のお尻にはサソリのような尻尾がついている。


「っ……!」

血の気が引くのがわかる。

上手く呼吸ができない…、あれは…昔魔王城にいた魔獣だ。

でも確かに倒したはず。勇者たちと一緒に…。

魔王により復活したのだろうか。

いや見た目が同じで、別の魔物かもしれない。

それにしても何故、この学校に…しかも領域でもないココに…。


先生方が大声を出して走り回っている。

警備として常駐している騎士や魔法使い達が魔獣に攻撃を仕掛けている。


「生徒はすみやかに避難を!先生方は騎士たちの援護を!」


学院長が指示を出している。見学していた生徒たちが避難していく。


私も…早く逃げないと…。


キースとレイが私の手をとる。

私は二人に先導されながら、皆が避難している場所へと共に走り出す。

「なんだあれは!見たことがない大きさの魔物だ!」

「何故学校にアイツが…」


騎士たちの攻撃を受け続けながらものともせずに、魔獣が暗く低い声で話し出す。


「セイジョをサシダセ!サモナクバ、ココにイルニンゲンスベテをアルジのモトにツレテイク!」

「「「!!!」」」


騎士たちが必死に剣を振りかぶる。

魔法攻撃も魔物を纏う瘴気により、効いていないようだ。


…目的は私。

びくりと身体が震え、立ち止まる。キース達もつられて止まった。


「マリー?」

「マリテーヌ?」

「…わ、わたし…」


どうしよう、騎士達の攻撃は効いていない。このままでは、こちらの負けが見えている。

私を聖女だと噂などで知っている生徒たちがちらちらと私を見てくる。

私を差し出せば皆が助かるというのだから、当然だ。

ストフリー伯爵家のチェスターが怒り顔で近づいてくる。


「おい、お前を差し出せば助かるんだ。裏切者の聖女が人の役に立つんだ、とっとと行けよ」

「…っ!」


裏切者…。

過去、勇者たちだけの遺体が神殿に届き、聖女の遺体は見つかっていない。

聖女が裏切って勇者たちを死なせたのだ。という噂もあったという。

真相は亡くなった当事者達しか知りようがないのだから仕方ない。

だからなのか、今度の聖女も人間を裏切り、魔王に与するのではという声もあった。


「ぐあぁあっ!」


魔獣に投げ飛ばされた騎士が、私達のすぐ横にまで飛ばされてきた。


「おい、聞いていいるのか?お前のせいでまた死人が増えるぞ!」


私の肩を掴んでくるチェスターも必死だ。誰だって死にたくはない。

だからといって、魔王の元にいき私にまた死ねというのか…。

まだ力がまともに使えないのに。


下を向いて怒りと悲しみで小さく震えていると、チェスターが吹っ飛んだ。

チェスターの顔をキースが殴りつけたのだ。

「お前っ、ふざけるなよ!マリーがいなくなれば、この場は収まっても世界は終わるんだ!」


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